【大賢者の弟子?相棒?】世界の為に尽くした大賢者は転生したらただの『アイアンソード』で草生えたので、とりあえず貴族令嬢を最強にする事に決めました。

夕姫

52. 賭ける

52. 賭ける



 サーシャはマーリンに頼まれた魔法具を作るための素材を買うため、フランガラン帝国の王都の市場へと向かうことになった。

 私はいつも通りサーシャと一緒にいるわけだけど、やっぱりまだ不安よね……。もし誰かに見つかれば大変なことになるし、一番の不安要素は別にあるんだけど。

 それはサーシャは対人と戦ったことがないと言うことだ。魔物や魔族とは何度も戦っているけど、対人相手は一度もない。だからこそ心優しいサーシャが心配なんだよね。

 まぁ……今回みたいなケースもある。これから先、旅を続けていくなら必ず対人と戦うことになる。サーシャにとってもいい機会よね。

「えっと……まずは魔法具の素材と『ミスリル』と……あとはリズさんのためにレイピアを買ったほうがいいよね」

 サーシャは市場に辿り着くと真っ先に素材集めを始める。マーリンに頼まれた魔法具の素材は案外すぐに見つかった。そして問題の『ミスリル』だけど……

「えっ!?金貨100枚!?」

「ああ。『ミスリル』は希少な鉱石だからねぇ。なかなか見つからないんだよ。っでどうするんだい?買うのかい?」

「どうしよう……そんなに持ってないし……」

「なら……他の方法があるよ?お嬢さんみたいな女の子はすぐに稼げる。早ければ一月で稼げるかもしれないよ?」

 素材屋の男はサーシャをイヤらしい目つきで舐めるように見る。サーシャはそれがどういう意味か分かってるみたいで、顔が真っ赤になっていた。この男……私のサーシャに何してんのよ?魔法で痛い目に合わせるわよ?

「そ、それは……」

「なぁに簡単なことだよ。この街で商売をしている連中はみんなやってることさ」

 サーシャが困っていると横から1人の男が割り込んでくる。

「おおこれはすごい。『ミスリル』か。これはいくらだ?金貨5枚くらいか?」

「えっ!?金貨5枚!?」

「ああ。この程度の量ならそのくらいだろ?っで主人よいくらなんだい?まさか高くふっかけようとしてないよな?」

「ちっ!邪魔しやがって!5枚だ5枚!商売の邪魔ださっさとどこかに行ってくれ!」

 素材屋の主人は舌打ちをしながらその男から金貨を5枚受けとると手であしらった。そしてその男は満足そうに笑みを浮かべていた。

「あの……ありがとうございました」

「あー。気にするな。最近このフランガラン帝国にああいう輩が増えてるからな、気をつけな」

「えっと……その『ミスリル』を譲ってもらえませんか!?」

「は?」

「すいません。助けてもらって失礼な事を言っているのは存じてます。どうしてもその『ミスリル』が必要なんです!」

 サーシャは必死に頭を下げてお願いしている。すると男は少し考えた後、口を開く。

「……嬢ちゃん名前は?」

「サーシャ=グレイス。旅の冒険者です」

「オレはハリー。嬢ちゃんと同じ、しがないただの冒険者だ。ここは一つオレと賭けをしないか?」

「賭けですか?」

「そう。世の中はこういう些細なギャンブルがあるから面白い。嬢ちゃんが勝ったらこの『ミスリル』を譲ってやるよ」

「もし負けたら?」

「そうだな……その腰の『アイアンソード』でもいただこうか?さっきから警戒してるのか、大事に握りしめているしな。」

 警戒というより困っているんでしょうね。とは言っても私が何かできることはなさそうだけどね。それより私を賭けるのかしらサーシャ……そんなことしたら本末転倒よ?私のための『ミスリル』なんだから。

「あの……この『アイアンソード』だけは賭けれません。私の大切な相棒だから」

 サーシャ~!私信じてたわよ!さすがは私の相棒よね!

「ほう……」

「それ以外ならなんでもします!」

「……オーケー。ならオレの女になりな。」

 はぁ?ちょっと待ってよ。なんでそうなるわけ?

「へっ!?あっ。そっそれでいいです!」

 サーシャは一瞬で顔を赤くしながら即答する。よくないからね!?サーシャも何あっさり了承しちゃうのよ!それじゃさっきと同じでしょうに!そんなサーシャの様子を見て、ハリーは笑いながら答える。

「ふっはっは。面白い嬢ちゃんだ。たかが『アイアンソード』より自分を賭けるのか……気に入ったぜ。ほらよ」

「え?」

「その『ミスリル』は嬢ちゃんにやるよ。せいぜいその相棒を大切にしてやんな」

「あっありがとうございます!」

 そういうとハリーはその場から去る。その去り際にあることを話し始めた。

「……そういや知ってるか?現国王が独裁し始めた時期と、ここらの魔物が活発化したのは同じタイミングらしいぞ?ギルド冒険者が言ってた。もし嬢ちゃんが冒険者なら気をつけな。忠告しておくぜ?じゃあな……サーシャ=グレイス。」

 その時、砂漠地帯特有の熱砂が舞う強い風が吹く。

 そう……それは何かを暗示するかのように……

 私とサーシャはハリーの背中を見送る。自分の鼓動が速くなるのを感じる。私は、この灼熱の王国の裏に潜む闇に気付き始めるのだった。

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