50.　共に

50.　共に

「選択肢？」

「そうじゃ。お主はこの戦いで力を解放させるなら間違いなく暴走することになるじゃろ。そうなればただの自我を失った化け物となる。それを止めるにはお主を殺すしか方法がない。」

　マーリンの問いにリーゼロッテ様は悩むことなく答える。

「ええ。覚悟していますわ。私の力はこの国の未来に必要だと信じていますもの。それにこの国は私にとって大切な場所。だから守りたい！たとえ自分の身を犠牲にしても！」

「なるほどのう……。お主は強いのじゃな……」

「ええ。これでも王家の血を引く者ですから。でも、簡単に自我を失うつもりなんてありませんわ！」

　民を守りたい、国王を討つという芯の強さ。リーゼロッテ様の言葉からは強い意志を感じる。もしかしたら、確固たる決意が彼女の『紅蓮の仔』としての力の暴走を抑えているのかもしれないわね。

「あのマーリン様。何とかならないですか？持って生まれた能力で生き死にを決められるのは悲しいと思います……」

　サーシャが心配するように言うとマーリンは少し微笑みながら答える。

「ふむ。リーゼロッテよ。お主の目的は分かったぞい。ワシならお主の力の暴走を止めることのできる魔道具を作ることができる。しかし、それは同時に今のお前の魔力を抑えてしまうのと同義じゃ。だからこそここで選ぶのじゃ。その力でこの国を守り自分の命を失うか、それとも守ることを諦めるか……」

「さっきも言いましたわ。私はこの国を守ると決めましたの。どんな手段を使ってでも必ず守りますわ！」

　リーゼロッテ様の赤き焔のような瞳は真っ直ぐマーリンを見つめていた。その眼差しはとても強く、とても美しく見えた。

　私は彼女を見て改めて思った。彼女は王族の誇り高き精神を持っている。

　きっと今までずっと辛い思いをしてきたのだろう。それでも前に進むことをやめなかった。そして今も戦おうとしている。その姿を見ているとなんだか胸が熱くなるような気がした。

　でも……そんな運命を簡単に受け入れていいの？私のそんな想いがシンクロしたのかサーシャがリーゼロッテ様に話す。

「そんな簡単に自分が犠牲になってもなんて言わないでください！命をかけてあなたを逃がしてくれた人がいるんです。その人たちの想いを無駄にしちゃダメですよ！」

　サーシャは私を握りしめながら強く訴えた。多くは語らないし、わざわざ聞く必要もないけど、サーシャももしかしたら同じ境遇だったのかもしれない。だからこの子は生き抜くために私を買ったんだもんね。

「そう言われても私には選択肢がありませんわ。この国を守るためにはこの力を使うしかありませんもの」

「いいえリーゼロッテ様。まだ……選択肢はありますよ」

「え？」

「それは……『紅蓮の仔』の力を使わずに私とマーリン様と共に戦うことです！」

「共に……」

「マーリン様もいいですよね？これは私の旅ですから、私が決めたことなら文句はありませんよね？」

「バカ者。文句はあるわい。……まぁ今回は従うがの」

　マーリンは呆れたようにため息をつきながらも了承した。リーゼロッテ様は少し考える素振りを見せたあとに決心がついたのか真剣な表情でサーシャに向き合う。

「サーシャ。あなたの言う通りかもしれない。あの時私を助けてくれた……その想いを無駄にはしたくない。お願い一緒に戦ってほしいわ。」

「はい。もちろんです。私もリーゼロッテ様と一緒に戦いたいですし」

　サーシャの言葉にリーゼロッテ様は安心したのか優しく微笑んでくれた。

「ありがとう。サーシャ」

「いえ。これからよろしくお願いします。えっと……リーゼロッテ様？」

「リズでいいわ。マーリン様もそう呼んで下さって結構ですわ」

　こうしてサーシャたちは、フランガラン帝国の国王アルガスを打倒するために協力することになったのだった。