婚約破棄して欲しいならこちらの願いを叶えてください

黒月白華

うちの執事は変態

「はあ…」
 とため息をついて部屋でどんな難題を与えようかと悩んでいると、紅茶が差し伸べられる。

「どうぞ!お嬢様!!」
 と私の執事のシモン・デ・ペッチが話しかける。シモンは伯爵三男の出で、髪は紺色で瞳は琥珀色である。
 この男、実は私に惚れているのがバレバレなのだ。それと言うのも

「ありがとうシモン」
 と私が言うとクネクネした動きで

「そんな!ありがとうなど、やめてください!お嬢様!

どうか、その淹れたての熱い紅茶を、私めにぶっかけてください!」
 と、ど変態な事を言った。
 恍惚な瞳で、こちらを見てくる。気持ち悪い。

 そう、こいつは、ど変態だ。
 夢は私に踏んづけられてアソコをグリグリさせられるというとんでもない変態なのだ!

 しかしそれは私しか知らない。
 そうこいつは、私の前でだけ、その変態性を見せ、周囲には完璧な執事として装っているから、末恐ろしいのだ!
 こんな奴、クビにしてとお父様に言っても、証拠もなくお父様の前ではシモンは

「お可哀想に…。お嬢様はどうやら少しお熱があるのかと?

旦那様、私はその様なことは申しておりません。お嬢様はきっと疲れておいでです」

 と言って、お父様に疑われることなど一切なく、周りにも完璧に装っているので、もう諦めた。


「シモン、この紅茶美味しいわよ?貴方あなた本当に優しいわね」
 とわざと優しくしてやると

「ああっ!酷い!お嬢様が優しくて酷い!

私に冷たい視線を投げかけて『この変態が!』と言ってほおをバシバシぶって下さって、構わないのにいいい!

優しい笑顔で敢えて私にそうさせないところが、また酷くてそそります!」
 と結局変態だった。

「邪魔だから出て行ってくれない?考えに集中したいの」
 ととりあえず空気として扱うことにしてやると

「…そう言えば、さっきからなにを考えてらっしゃるのですか?

 あ、私へのご褒美とか?鞭の調達なら任せてください!」
 と言う。自分で打たれる用の鞭を買いに行くの!?

「違うわよ…。ジークフリート様に……。
婚約破棄させられそうだから、しない様に考えてるのよ」
 と私は、これまでの経緯を説明してやる。なんだかんだこいつは私の性格などを把握しているし、私が完璧に隠している、ジークフリート様への恋心も、見事に見抜いている。何故なぜかと問うた事があるが、その時は

『ふふ、当たり前です!これでもお嬢様の執事であり、好きなのですから。

好きなかたが誰を好きなのかはわかってしまいます。それに私も周囲には完璧に本性を隠してますでしょう?

 私とお嬢様は似ているのです。どうです?私のこの観察眼かんさつがん!気持ち悪いと罵ってください!』
 と言っていた。

 それからはシモンの前では、見栄を張っていても意味がないので、とりあえず諦めてもらう為にも相談する事にした。と言うか唯一相談できる。ど変態で一生相手にする事ないから、気楽である。

 シモンは私の事を好きだが、好きな人を応援するタイプだし、私に忠誠を誓っている。

「それにしても、ジークフリート様が転生者とは…。驚きですね」

「え?信じたの?」

「ええ?逆に信じてないんですか?流石さすがお嬢様酷すぎて痺れる!」
 と言う。

「信じてるわよ!!ジークフリート様の言うことならなんでも信じるわよ!」

「まぁ、転生者というのも稀に聞くことがありますからね。身近にいるのは驚きますが…」
 ジークフリート様の前世は異世界から来た魂の転生…。

「まぁ、この事は誰にも言わないことよ?余計な騒ぎになりたくないもの。

 それより、どんな難題で乗り切るかよ!なにかいい案はないの!?」

「絶対に婚約破棄しない方法ですか…。

私ならお嬢様の足の裏を舐めて、更に汚いと言われて殴られたら、喜んで失禁しちゃいますけどね!」
 お前の変態性は聞いてないけど…。

「そうね、それなら恥かしくて出来ないかもしれないわ…。そうだわ、皆の前でそれをさせて見ましょう」

「えっ!羨ましいなぁ!ジークフリート様!!」

「普通は嫌がるし、屈辱だし、やらないわよこんなの!」

「ますます嫌われちゃいますけどね…」
 と言われズーンと来る。
 しかしここは、鬼か悪魔にならないと、婚約破棄されてしまう!

「しかしお嬢様、生温いなまぬるいです!これはまだ序の口ですよ。

 ジークフリート様はどんな無理難題でも叶えてみせるとキラキラしながら言ったのでしょう?

 これ、クリアしちゃいますよ?恥くらい、彼には我慢すれば良いだけの事!」
 と言われ、うーむと思う。
 確かにジークフリート様の弱々しい精神なら、私の命令には絶対に背かないわね!ど変態シモンの言う通りだ。

「それに、あまり過度なことを人前でなさると、教師の目が光ります。ほら、お嬢様も知ってるでしょう?

 コンスタンティン・フォン・ベッケル先生を」
 とシモンは言う。

「よく知ってるわよ。うちの公爵と対立している、この国の5大公爵のうちの一つ、ベッケル公爵次男で、化学教師!

そして、男色だんしょくの変態で、ジークフリート様を狙っている男!許すまじ!!」

「まぁ、ベッケル公爵は元々が男色だんしょく家系かけい遺伝で真性しんせいの変態ですからね。

正妻は男性であり、そのへんのどうでもいい令嬢を空気な第二夫人として、家系かけいを繋いでいますしね。ベッケル男色だんしょくの遺伝子は異常ですよね」

「ど変態のあんたが言ってもいいものか、わからないけどね…」

「ああ!お嬢様がど変態と!嬉しい!」
 だまれ変態が!

「しかも、まだ敵は多いですよ。ジークフリート様はあれでおモテになるからなぁ!天然と言うか!

ほかにも、お嬢様の取り巻きである伯爵令嬢や、一年生の隣国の甘え妹ポジション獲得の、第四王女様とかあ!」
 と頭が痛くなるほど敵は多かった。

「そうねほんと、なんでジークフリート様はあんなにモテるのかしら?

まあ当然よね、あんな美少年で、サラサラの黒髪に。綺麗な青い目でジッと見られたら、誰でも堕ちてしまうわ!くっ!!」

「お嬢様、そのストレスに私を踏んづけてグリグリしてください!」
 黙れ変態。

 無視してどうしようかと考えシモンは

「ではこういうのはどうでしょうか?
 お嬢様が絶対にときめく様なデートにしてみろとか。

 プライドの高いお嬢様をときめかせることなど、並みの男では難攻不落かと?私でもとても無理です。

 私は踏まれれば喜びますけどね」
 とシモンが言った案に対し、私はうなづく。

「悔しいけどいい案だわ。ジークフリート様とデートも出来て一石二鳥だけど、このわたくしのプライドはわたくし自身でも制御できないわ。

わたくしは内心、ときめきバンバンだけど、外では絶対出ないものね…、くくく、面白くなってきたわ」

「悪役的な笑いを含むお嬢様最高です!踏んでください!」
 としつこい。
 私は第一の案にそれを書いた。

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