色香滴る外資系エリートに甘く溶かされて
6-5. 恋も仕事も多忙につき (完)
————想像以上に、春都の帰りが遅い。
そろそろ日付が変わる。私だって忙しい日は終電で帰ることもあるが……それにしたって遅い。せっかく金曜日の夜なのに。
リビングの深い青色のソファに横たわる。このままでは家主が帰ってくる前に寝てしまいそうだ。
帰りが遅くなると予め連絡を貰っていたので、私は早めに会社を出た。夕食に何か作ろうかと一瞬思ったが、私も今週は結構無理をしているので諦めた。代わりに春都の家へ向かう途中でデリを買っておいた。
合鍵を有難く使わせてもらって、彼の家に入る。先週末、散々お世話になったのでこの部屋でどう過ごせばいいのかはもう分かっている。荷物を置いて、手を洗って、せっかくなので買ってきたデリをお皿に盛りつけて。やることが無くなってしまったので、週明けの定例会議用の資料を仕上げて。それでも、まだ春都から連絡がないのでシャワーを借りて……私は悩んだ。春都に買ってもらった例のランジェリーを着るか、否か。
先週末はなんだかんだ着る機会がないまま終わってしまった。というか、ほとんど下着を着ることが……いや、なんでもない。とにかく、買ってもらったにも関わらずあのダークブルーのセクシーなランジェリーを着ていないのだ。シャワーを終えた私は布地の少ない透け透けな下着を改めて見て、頭を抱えた。やはり、この下着は大胆過ぎる。
でも、買ってもらったからには……と思い直した私は、意を決して身に着けてみた。同じデザインのスリップも重ねて着て、後は春都を待つだけだ。気合いを入れすぎな気もするが、1週間ぶりに彼に会えると思うとなんだか楽しくなってきた。今思えば、この時の私は過労のせいでハイになっていた。結局恥ずかしくなって、ダイニングの椅子に掛けられていた春都のガウンを借りている。でも、そのせいで身体が温まって徐々に眠くなってきた。
寝そべりながら彼のガウンを脱いで、ブランケットのように身体に掛ける。肩から上を出しておけば少し身体が冷えて、眠気もマシになるだろう。春都から連絡が来ていないか確認しようとスマホを覗き込んでいるうちに————私はソファの上で眠ってしまった。
***
衣擦れの音が何度かして、僅かに意識が浮上する。でも、まだ身体は重たい。それに、何だか落ち着く香りがする。少し肌寒い気もするが、その香りに誘われてもう一度眠りにつく。咲き始めの薔薇のように華やかで、それでいてムスクのような深みを感じる微かな香り。香水とは違う、温かい香りだ。
「ん………?」
香りなのに温かさがあるってどういうことだろう。微睡みながら不思議に思っていると、その心地よい香りと温もりに抱き締められた。嬉しくなって、自分からその温もりを求める。すると、唇に柔らかい感触を感じた。熱い吐息が少し擽ったい。でも、堪らなく気持ちが良くて無意識に唇を動かした。気の向くままに食んで、舐めて。それでも、まだ足りなくて舌を差し込んで。次第に唾液が混ざり合う音が聞こえて————身体が引き離された。
「っ、はあ————そんなに俺を煽って、っ———」
夢の中のような、この上なく幸せな感覚だったのに。その感覚をもっと味わいたくて、目を閉じたままもう一度求めるとそんな声が降ってきた。
「…………んん……はる、と?」
「んっ、そうだよ———俺以外とこんなことしたら絶対に許さないからね」
目を開けると、会いたくて、会いたくて仕方なかった愛しい人の顔が目の前にあった。何故だか彼は真っ赤な顔をしている。おまけに瞳が熱く滾っていて、肌もなんだかしっとりしていて、物凄く色っぽい。ふと、自分の手を動かすと彼の胸元に置かれていることに気がついた。しかも、滑らかな素肌に直接触れている。
「……あれ、なんで裸なの。というか、それよりもまず…お疲れ様?おかえりなさい?」
「はぁ………そうやって首を傾げてもダメだからね……でも、ただいま。遅くなってごめんね」
肩で息をしながら、彼がそう言ってくれた。なんだか様子のおかしい春都を見て、しっかりと意識が覚醒してきた。寝る前の記憶を探って、ようやく自分の仕出かしたことに気がついた。色々なことをして、時間を潰しながら彼の帰りを待っているうちに眠ってしまったらしい。それに、もしかしなくても。
「きゃっ————!!」
大胆なあのランジェリーを身に着けていることを思い出した私は思わず胸元を手で隠した。身体に掛けていたはずの彼のガウンも取り払われていることに気がついて、両足を寄せる。彼が帰ってきたことにも気づかず、この姿のまま眠っていたという事実に頭がついていかない。恥ずかしさのあまり、身体が一気に熱くなった。
「え、えっと……これは……その…………」
「こんな格好で、あんなキスをして………覚悟はできてるよね?」
有無を言わせないギラついた視線で射抜かれて、背筋がぞくりとする。妖艶な笑みを湛えた春都の手が私のあらぬ部分に触れて————長い夜が始まったのだった。
***
そして翌朝、私はベッドの上で起きた。
昨夜は…いや、昨夜も凄かった……私にぴったりとくっついて眠る春都の髪を撫でる。真夜中に帰ってきた彼は、ソファで眠る私を見つけて堪らなくなったようで……大変だった。途中でベットに運んでもらって本当に良かった。
時間を確認するともう午前中が終わりかけていた。朝というか昼になりつつある。一足先にベットから抜け出して、軽くシャワーを浴びる。彼の部屋着を借りて、濡れた髪のまま食事の準備をしていると春都が起きてきた。
「…ん…おはよう………」
「おはよう、春都」
春都は意外と朝に弱い。夜遅くまで働き過ぎている反動な気もするが、朝はとにかくぼんやりしている。今も私を後ろから抱き締めながら、なんだかよく分からないことを言っている。朝食の準備にまだ時間が掛かりそうなので、春都を背中にくっつけたままバスルームへ向かう。
「ほら、シャワー浴びてきて。その間にごはん作って待ってるから」
背伸びをして彼の頬にちゅっ、とキスをした。目を丸くする彼に手を振って私はバスルームの扉を閉めた。
食卓にフレンチトーストとフレッシュサラダ、昨夜購入したデリを並べているとシャワーを終えた春都が戻ってきた。身体を洗って目が覚めたのか、すっかりいつもの彼に戻っている。
「用意してくれてありがとう。でも、食べる前に髪を乾かそうか」
ドライヤーを片手に持った彼に促されて椅子に座った。暖かい風を当てながら、指先で優しく髪を梳いてくれる。その心地よさにうっとりして瞼が落ちていく。春都にたっぷり愛されて心は満ちているが、体の疲労はまだ残っているようだ。
「玲奈、起きて。せっかく作ってくれたのに冷めちゃうよ」
いつの間にか私の髪を乾かし終えた彼にそう言われた。立ったまま、彼は自分の髪にドライヤーを当てている。私の髪は丁寧に扱ってくれたのに、自分の髪は雑に乾かしているようだ。時折、彼の濡れた毛先から水滴が落ちてくる。
「あ、ごめん。目に入らなかった?」
慌てたような顔で春都がそう告げる。2人ともゆったりとした部屋着姿で、お互いまだ仕事の疲れが残る顔をしていて————煌びやかな夜の街で出会った私たちがこうなるなんて、5年前の自分たちが知ったらどう思うだろうか。
今週の仕事のことやノアのこと、それから海外研修について。彼の目が覚めたら話したいと思っていたことがたくさんあったのに、気がつけば口が動いていた。
「ねぇ、春都。結婚して欲しい」
春都の目が大きく見開かれる。
先週末、彼から未来のことを考えて欲しいと言われた時はもう少し2人で一緒に過ごしてから話そうと思っていたのに。自分の想いが自然と溢れた。
5年前の2ヶ月と、この1週間。彼と過ごした時間はたったそれだけなのに。これからもずっと、何気ない日々を彼と一緒に過ごしたい。そんな気持ちを自覚した途端に自分の顔が綻んでいった。
「…………そんな、急に……不意打ちは狡すぎるって…」
春都の美しい顔に涙が伝っていく。朝の光が反射して、潤んだ彼の瞳が宝石のように輝いていた。これまでいろんな表情を見せてくれたが、彼が泣いているところは初めて見る。涙を流す彼の顔は少し情けない表情をしていて、クールでも、艶やかでもない。でも、そんな泣き顔すら愛おしくて。
この人に幸せでいて欲しい。そう思って、私は彼をしっかりと抱き締めたのだった。
そろそろ日付が変わる。私だって忙しい日は終電で帰ることもあるが……それにしたって遅い。せっかく金曜日の夜なのに。
リビングの深い青色のソファに横たわる。このままでは家主が帰ってくる前に寝てしまいそうだ。
帰りが遅くなると予め連絡を貰っていたので、私は早めに会社を出た。夕食に何か作ろうかと一瞬思ったが、私も今週は結構無理をしているので諦めた。代わりに春都の家へ向かう途中でデリを買っておいた。
合鍵を有難く使わせてもらって、彼の家に入る。先週末、散々お世話になったのでこの部屋でどう過ごせばいいのかはもう分かっている。荷物を置いて、手を洗って、せっかくなので買ってきたデリをお皿に盛りつけて。やることが無くなってしまったので、週明けの定例会議用の資料を仕上げて。それでも、まだ春都から連絡がないのでシャワーを借りて……私は悩んだ。春都に買ってもらった例のランジェリーを着るか、否か。
先週末はなんだかんだ着る機会がないまま終わってしまった。というか、ほとんど下着を着ることが……いや、なんでもない。とにかく、買ってもらったにも関わらずあのダークブルーのセクシーなランジェリーを着ていないのだ。シャワーを終えた私は布地の少ない透け透けな下着を改めて見て、頭を抱えた。やはり、この下着は大胆過ぎる。
でも、買ってもらったからには……と思い直した私は、意を決して身に着けてみた。同じデザインのスリップも重ねて着て、後は春都を待つだけだ。気合いを入れすぎな気もするが、1週間ぶりに彼に会えると思うとなんだか楽しくなってきた。今思えば、この時の私は過労のせいでハイになっていた。結局恥ずかしくなって、ダイニングの椅子に掛けられていた春都のガウンを借りている。でも、そのせいで身体が温まって徐々に眠くなってきた。
寝そべりながら彼のガウンを脱いで、ブランケットのように身体に掛ける。肩から上を出しておけば少し身体が冷えて、眠気もマシになるだろう。春都から連絡が来ていないか確認しようとスマホを覗き込んでいるうちに————私はソファの上で眠ってしまった。
***
衣擦れの音が何度かして、僅かに意識が浮上する。でも、まだ身体は重たい。それに、何だか落ち着く香りがする。少し肌寒い気もするが、その香りに誘われてもう一度眠りにつく。咲き始めの薔薇のように華やかで、それでいてムスクのような深みを感じる微かな香り。香水とは違う、温かい香りだ。
「ん………?」
香りなのに温かさがあるってどういうことだろう。微睡みながら不思議に思っていると、その心地よい香りと温もりに抱き締められた。嬉しくなって、自分からその温もりを求める。すると、唇に柔らかい感触を感じた。熱い吐息が少し擽ったい。でも、堪らなく気持ちが良くて無意識に唇を動かした。気の向くままに食んで、舐めて。それでも、まだ足りなくて舌を差し込んで。次第に唾液が混ざり合う音が聞こえて————身体が引き離された。
「っ、はあ————そんなに俺を煽って、っ———」
夢の中のような、この上なく幸せな感覚だったのに。その感覚をもっと味わいたくて、目を閉じたままもう一度求めるとそんな声が降ってきた。
「…………んん……はる、と?」
「んっ、そうだよ———俺以外とこんなことしたら絶対に許さないからね」
目を開けると、会いたくて、会いたくて仕方なかった愛しい人の顔が目の前にあった。何故だか彼は真っ赤な顔をしている。おまけに瞳が熱く滾っていて、肌もなんだかしっとりしていて、物凄く色っぽい。ふと、自分の手を動かすと彼の胸元に置かれていることに気がついた。しかも、滑らかな素肌に直接触れている。
「……あれ、なんで裸なの。というか、それよりもまず…お疲れ様?おかえりなさい?」
「はぁ………そうやって首を傾げてもダメだからね……でも、ただいま。遅くなってごめんね」
肩で息をしながら、彼がそう言ってくれた。なんだか様子のおかしい春都を見て、しっかりと意識が覚醒してきた。寝る前の記憶を探って、ようやく自分の仕出かしたことに気がついた。色々なことをして、時間を潰しながら彼の帰りを待っているうちに眠ってしまったらしい。それに、もしかしなくても。
「きゃっ————!!」
大胆なあのランジェリーを身に着けていることを思い出した私は思わず胸元を手で隠した。身体に掛けていたはずの彼のガウンも取り払われていることに気がついて、両足を寄せる。彼が帰ってきたことにも気づかず、この姿のまま眠っていたという事実に頭がついていかない。恥ずかしさのあまり、身体が一気に熱くなった。
「え、えっと……これは……その…………」
「こんな格好で、あんなキスをして………覚悟はできてるよね?」
有無を言わせないギラついた視線で射抜かれて、背筋がぞくりとする。妖艶な笑みを湛えた春都の手が私のあらぬ部分に触れて————長い夜が始まったのだった。
***
そして翌朝、私はベッドの上で起きた。
昨夜は…いや、昨夜も凄かった……私にぴったりとくっついて眠る春都の髪を撫でる。真夜中に帰ってきた彼は、ソファで眠る私を見つけて堪らなくなったようで……大変だった。途中でベットに運んでもらって本当に良かった。
時間を確認するともう午前中が終わりかけていた。朝というか昼になりつつある。一足先にベットから抜け出して、軽くシャワーを浴びる。彼の部屋着を借りて、濡れた髪のまま食事の準備をしていると春都が起きてきた。
「…ん…おはよう………」
「おはよう、春都」
春都は意外と朝に弱い。夜遅くまで働き過ぎている反動な気もするが、朝はとにかくぼんやりしている。今も私を後ろから抱き締めながら、なんだかよく分からないことを言っている。朝食の準備にまだ時間が掛かりそうなので、春都を背中にくっつけたままバスルームへ向かう。
「ほら、シャワー浴びてきて。その間にごはん作って待ってるから」
背伸びをして彼の頬にちゅっ、とキスをした。目を丸くする彼に手を振って私はバスルームの扉を閉めた。
食卓にフレンチトーストとフレッシュサラダ、昨夜購入したデリを並べているとシャワーを終えた春都が戻ってきた。身体を洗って目が覚めたのか、すっかりいつもの彼に戻っている。
「用意してくれてありがとう。でも、食べる前に髪を乾かそうか」
ドライヤーを片手に持った彼に促されて椅子に座った。暖かい風を当てながら、指先で優しく髪を梳いてくれる。その心地よさにうっとりして瞼が落ちていく。春都にたっぷり愛されて心は満ちているが、体の疲労はまだ残っているようだ。
「玲奈、起きて。せっかく作ってくれたのに冷めちゃうよ」
いつの間にか私の髪を乾かし終えた彼にそう言われた。立ったまま、彼は自分の髪にドライヤーを当てている。私の髪は丁寧に扱ってくれたのに、自分の髪は雑に乾かしているようだ。時折、彼の濡れた毛先から水滴が落ちてくる。
「あ、ごめん。目に入らなかった?」
慌てたような顔で春都がそう告げる。2人ともゆったりとした部屋着姿で、お互いまだ仕事の疲れが残る顔をしていて————煌びやかな夜の街で出会った私たちがこうなるなんて、5年前の自分たちが知ったらどう思うだろうか。
今週の仕事のことやノアのこと、それから海外研修について。彼の目が覚めたら話したいと思っていたことがたくさんあったのに、気がつけば口が動いていた。
「ねぇ、春都。結婚して欲しい」
春都の目が大きく見開かれる。
先週末、彼から未来のことを考えて欲しいと言われた時はもう少し2人で一緒に過ごしてから話そうと思っていたのに。自分の想いが自然と溢れた。
5年前の2ヶ月と、この1週間。彼と過ごした時間はたったそれだけなのに。これからもずっと、何気ない日々を彼と一緒に過ごしたい。そんな気持ちを自覚した途端に自分の顔が綻んでいった。
「…………そんな、急に……不意打ちは狡すぎるって…」
春都の美しい顔に涙が伝っていく。朝の光が反射して、潤んだ彼の瞳が宝石のように輝いていた。これまでいろんな表情を見せてくれたが、彼が泣いているところは初めて見る。涙を流す彼の顔は少し情けない表情をしていて、クールでも、艶やかでもない。でも、そんな泣き顔すら愛おしくて。
この人に幸せでいて欲しい。そう思って、私は彼をしっかりと抱き締めたのだった。
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