俺を嫉妬させるなんていい度胸だ〜御曹司からの過度な溺愛〜

せいとも

新城堂の噂の女神【2】

「他に何か明日に回せないものはあるのか?」

「いや」

「じゃあ」期待に満ちた目を向けられた。

「どうぞ」

「やったー」

「…」

次の瞬間、もう扉を開けいなくなっていた。駿は慌てて運転手に連絡を入れた。

 長い付き合いだが、こんな無邪気な姿は初めて見る。完璧に何でも熟すが、今までは気を許せる相手が駿だけだった。

 暁にとって寛げるパートナーがいればと何度思ったことか。ただどこかで、暁自身を理解してくれる女性は現れないと諦めていた。それは、暁の両親もだろう。
 
「やれやれ…」

 社長室には残された駿の、呆れと安堵の呟きが漏れていた…

 車がマンションのエントランスに着くと、自分で扉を開けあっという間にマンションの中に消えていく姿を、運転手は呆気に取られ見送る。

 今までなら、扉を開けるまで待っていた。それが、一瞬でいなくなってしまう。挨拶をする暇すらなかった。

 軽い足取りで部屋に到着したが、人の気配がない…

「芹?芹?」

 芹の姿がなく焦る。リビングから仕事部屋、更には寝室、芹の部屋と順に見るがいない…

 人間テンパるとまともな判断が出来ないと言うが、今の暁はまさにそれだ。玄関に戻り立ち尽くす。

 定時に会社を出て、ロッカーに寄ることもなく、車で帰って来たのだから、先に着くのは当たり前だ。

 電話を取り出し、芹ではなく掛けた先は…

「もしもし?」訝しげな声が聞こえた。

「駿!どうしよう」

「何があった?」珍しく弱い暁に何事かと思う。

「芹がいない…」この世の終わりのような声だ。

「…」

 駿は、時計を見て思う。暁はバカなのか?自分が急いで帰りすぎて、先に着いたことに気づいていないようだ。

「事故に遭ったのかもしれない…家出はないと思う…」

「ブハッ」我慢の限界が来て吹き出した。


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