俺を嫉妬させるなんていい度胸だ〜御曹司からの過度な溺愛〜

せいとも

出会い【2】

 ビルのエントランスに暁が入った瞬間、その場の空気が変わる。それは、いつもの事だ。大概の者はすっと端に避ける。

 お近づきになりたいと思っている女性の下心には、暁だけでなく駿も敏感に感じ取れる。

 暁が通ると緊張感が増すエントランスでこの日は、予想だにできない出来事がふたりの数メートル前に起こった。

 『ビタッ』痛そうな音を響かせ、漫画かと突っ込みたくなるほど盛大に女性が転けたのだ。

 『シーン』と辺りは何とも言えない空気が流れ静まりかえる。

 暁の機嫌は一瞬にして急降下したのが、駿には手に取るように伝わった。

 『ピキッ』と音が聞こえそうなほど眉間にシワを寄せている…

 女性はわざと暁の前で転けて気を引こうとしたのだろうか?判断できない。ただ、駿の目線の先には女性のつけていただろう眼鏡が飛んで落ちている。

「痛っ〜い。なんで?何かに引っ掛かったんだけど〜え!?」

 暁の苛立ちを感じつつも、起き上がりながらひとり言を呟く女性に、駿は内心笑いが込み上げる。

 そして、女性も周囲からの視線を感じたのかオロオロしているように見えた。

 その時、駿の後ろにいたはずの暁が動き出した。

「おいっ」駿には声だけでかなりの苛立ちが伝わる。

「え!?」

「お前、わざとか?恥をかいてまで俺の気を引きたいのか?」

「…えっ!?…だ、誰?」

 暁の怒りに対しての女性の反応があまりにも意外すぎて、暁や駿だけでなくその場にいた野次馬達まで驚いたのはいうまでもない。

 暁は微妙な顔つきで、女性の前まで行きなんと片膝をついてしゃがみ女性に目線を合わせたのだ。

 次の瞬間、駿は暁の表情を見逃さなかった。一瞬目を見開き驚いた表情の後、口元が微妙にだが上がったのだ。普段の暁からは考えられない嬉しそうな表情。

 そんな暁の変化に気づくわけのない野次馬達には、何ともいえない緊張感が漂っていた。

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