もう一度、重なる手
幸福〈2〉
布団の中で寝返りを打ったとき、足先に何かが触れて目が覚めた。
目を開けると、鼻先が今にもくっつきそうなくらいの距離でアツくんが寝ていてドキッとする。アツくんとはもう何度か一緒に夜を過ごしているのに、目覚めたときに彼がいる状況にはなかなか慣れない。
スヤスヤと気持ちよさそうに眠っているアツくんの顔を見つめながら、はぁーっとため息を吐く。
抱かれているときは、いつも頭が真っ白になって全部がアツくんでいっぱいになって、照れや恥ずかしさを感じている余裕なんてないのだけれど。目覚めて冷静になると、ずっと兄のような存在だったアツくんの《男》の顔が鮮明に思い出されて、恥ずかしさが千倍くらいの大きさに膨れ上がって攻めてくる。
「朝から大きなため息吐いて、どうしたの?」
クスリと笑う声にハッとする。いつのまにか、眠っていたはずのアツくんが私のことを見ていた。
「いつ起きたの?」
「フミに足を蹴られたときかな」
寝返りを打ったときにあたったのは、アツくんの足だったらしい。
「蹴ったってほどの強さじゃなかったと思うけど……」
むっと頬を膨らませると、アツくんが私をククッと笑う。たぶん、揶揄われている。
不貞腐れたフリをして、アツくんに背を向けるようにクルリと横を向いたら、「フミ」と愛おしそうに呼ばれた。
ドクンと震える胸の前で拳を握って押し当てると、アツくんが私を背中から抱きしめて首筋に顔を擦り寄せてくる。頸に唇が触れ、強く吸われて、身体がビクつく。
「アツくん……」
吐息とともに名前を呼ぶと、アツくんが私の後ろで少し動いて、耳に唇を寄せてきた。
「フミ、俺と一緒に住む気はない?」
「え……?」
「最近ずっと考えてたんだ。そのほうが一緒にいられる時間も長くなるし。俺の心配も減るから」
最初は幻聴かと思った。だけど、アツくんは本気で私と一緒に住むことを考えてくれているらしい。
「いい、の……?」
ドキドキしながら振り向くと、アツくんが眉尻を下げて苦笑いした。
「いいかどうかじゃなくて、どうしたいかはフミが決めていいんだよ。俺は、またフミと一緒に住めたらいいなって思うから誘ってる。それに、ベッドがロフトにある部屋じゃ、フミのこと簡単に押し倒せないし」
アツくんが冗談交じりに笑って額にキスをしてくる。
「またからかって……」
顔を赤くして目を伏せると、アツくんがそっと私の髪を撫でてきた。
「からかってないし、フミはゆっくり考えてから決めてくれていいよ。返事も今じゃなくていい」
「え……?」
視線をあげた私に、アツくんが優しく微笑みかけてくる。
「一緒に住んだら、俺はもう一生フミのこと手放すつもりないから」
一生——?
アツくんの言葉を頭の中で反芻する。しばらくして、その真意に気付くと、私の心音が徐々に加速していった。
「アツくんの言ってる一生って……」
「うん。一般的には結婚ってことになるんだろうけど、フミがこれまでの家庭環境もあって結婚することにあまり良い感情を持ってないのは知ってる。だけど俺はこの先、どんなカタチでもフミと一緒にいられたらいいと思ってる。結婚ってカタチじゃなくても、ずっと一番フミの近くにいたい。適当な同棲じゃないってことだけわかったうえで、フミがどうしたいかの答えをちょうだい」
アツくんの、優しいけれど真剣な眼差し。それを見つめ返しながら、私の心音は加速し続けていた。
ドクドクドクドク……、脈が打ちすぎて心臓が壊れるかもしれない。
アツくんとの将来を見据えた同棲に、不安は少しもなかった。翔吾くんにプロポーズをされたときは、自分が誰かと夫婦になってまともな結婚生活を送れるのか不安で堪らなかったのに。不思議と、アツくんにはそういう不安を感じない。
素直にアツくんからの言葉を受け入れられるのは、今さら隠さなくても、彼には私の全てを知られているからかもしれない。
それに、再会したときからずっと、もう二度と離れたくないと思っていたのは私だって同じだ。
「返事、今していい?」
身体ごと振り向いて首を傾げると、アツくんが少し不安そうに身構えた。
「ゆっくり考えなくていいの?」
「考えても考えなくても、私の返事は同じだから」
頷く私に、アツくんが戸惑い気味に瞳を揺らす。
「待って。俺も、心の準備がいるかも……」
「いらないよ。私、アツくんと一緒に住みたい」
「フミ……」
アツくんの瞳が、驚いたように見開かれる。
「どうしてそんな驚いた顔するの? 私がアツくんの提案を断るわけないのに」
「でも、一生を縛るかもってなると話は変わってくるだろ」
困ったように笑うアツくんに、顔寄せて私からキスする。
「縛っていいよ。私だって、この先もずっとアツくんの一番近くにいたいと思ってるから」
微笑みかけると、アツくんがちょっと泣きそうに笑う。
「ありがとう。嬉しい……」
アツくんが私の背中に両腕を回してぎゅっと抱きしめてくれる。それに応えるように、私の彼の背中に腕を回した。
目を開けると、鼻先が今にもくっつきそうなくらいの距離でアツくんが寝ていてドキッとする。アツくんとはもう何度か一緒に夜を過ごしているのに、目覚めたときに彼がいる状況にはなかなか慣れない。
スヤスヤと気持ちよさそうに眠っているアツくんの顔を見つめながら、はぁーっとため息を吐く。
抱かれているときは、いつも頭が真っ白になって全部がアツくんでいっぱいになって、照れや恥ずかしさを感じている余裕なんてないのだけれど。目覚めて冷静になると、ずっと兄のような存在だったアツくんの《男》の顔が鮮明に思い出されて、恥ずかしさが千倍くらいの大きさに膨れ上がって攻めてくる。
「朝から大きなため息吐いて、どうしたの?」
クスリと笑う声にハッとする。いつのまにか、眠っていたはずのアツくんが私のことを見ていた。
「いつ起きたの?」
「フミに足を蹴られたときかな」
寝返りを打ったときにあたったのは、アツくんの足だったらしい。
「蹴ったってほどの強さじゃなかったと思うけど……」
むっと頬を膨らませると、アツくんが私をククッと笑う。たぶん、揶揄われている。
不貞腐れたフリをして、アツくんに背を向けるようにクルリと横を向いたら、「フミ」と愛おしそうに呼ばれた。
ドクンと震える胸の前で拳を握って押し当てると、アツくんが私を背中から抱きしめて首筋に顔を擦り寄せてくる。頸に唇が触れ、強く吸われて、身体がビクつく。
「アツくん……」
吐息とともに名前を呼ぶと、アツくんが私の後ろで少し動いて、耳に唇を寄せてきた。
「フミ、俺と一緒に住む気はない?」
「え……?」
「最近ずっと考えてたんだ。そのほうが一緒にいられる時間も長くなるし。俺の心配も減るから」
最初は幻聴かと思った。だけど、アツくんは本気で私と一緒に住むことを考えてくれているらしい。
「いい、の……?」
ドキドキしながら振り向くと、アツくんが眉尻を下げて苦笑いした。
「いいかどうかじゃなくて、どうしたいかはフミが決めていいんだよ。俺は、またフミと一緒に住めたらいいなって思うから誘ってる。それに、ベッドがロフトにある部屋じゃ、フミのこと簡単に押し倒せないし」
アツくんが冗談交じりに笑って額にキスをしてくる。
「またからかって……」
顔を赤くして目を伏せると、アツくんがそっと私の髪を撫でてきた。
「からかってないし、フミはゆっくり考えてから決めてくれていいよ。返事も今じゃなくていい」
「え……?」
視線をあげた私に、アツくんが優しく微笑みかけてくる。
「一緒に住んだら、俺はもう一生フミのこと手放すつもりないから」
一生——?
アツくんの言葉を頭の中で反芻する。しばらくして、その真意に気付くと、私の心音が徐々に加速していった。
「アツくんの言ってる一生って……」
「うん。一般的には結婚ってことになるんだろうけど、フミがこれまでの家庭環境もあって結婚することにあまり良い感情を持ってないのは知ってる。だけど俺はこの先、どんなカタチでもフミと一緒にいられたらいいと思ってる。結婚ってカタチじゃなくても、ずっと一番フミの近くにいたい。適当な同棲じゃないってことだけわかったうえで、フミがどうしたいかの答えをちょうだい」
アツくんの、優しいけれど真剣な眼差し。それを見つめ返しながら、私の心音は加速し続けていた。
ドクドクドクドク……、脈が打ちすぎて心臓が壊れるかもしれない。
アツくんとの将来を見据えた同棲に、不安は少しもなかった。翔吾くんにプロポーズをされたときは、自分が誰かと夫婦になってまともな結婚生活を送れるのか不安で堪らなかったのに。不思議と、アツくんにはそういう不安を感じない。
素直にアツくんからの言葉を受け入れられるのは、今さら隠さなくても、彼には私の全てを知られているからかもしれない。
それに、再会したときからずっと、もう二度と離れたくないと思っていたのは私だって同じだ。
「返事、今していい?」
身体ごと振り向いて首を傾げると、アツくんが少し不安そうに身構えた。
「ゆっくり考えなくていいの?」
「考えても考えなくても、私の返事は同じだから」
頷く私に、アツくんが戸惑い気味に瞳を揺らす。
「待って。俺も、心の準備がいるかも……」
「いらないよ。私、アツくんと一緒に住みたい」
「フミ……」
アツくんの瞳が、驚いたように見開かれる。
「どうしてそんな驚いた顔するの? 私がアツくんの提案を断るわけないのに」
「でも、一生を縛るかもってなると話は変わってくるだろ」
困ったように笑うアツくんに、顔寄せて私からキスする。
「縛っていいよ。私だって、この先もずっとアツくんの一番近くにいたいと思ってるから」
微笑みかけると、アツくんがちょっと泣きそうに笑う。
「ありがとう。嬉しい……」
アツくんが私の背中に両腕を回してぎゅっと抱きしめてくれる。それに応えるように、私の彼の背中に腕を回した。
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