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魔王系悪役令嬢を惚れさせろ!

笑顔付き

03

 仕留めるならいつでも出来たと言わんばかりの酷い結末である。
 オレンジジュースを飲み、一呼吸付ける。まるで此処からが大切な話であると伝えるように、此方の眼を射抜く。
 
「一つは『教会』、奴等は冗談が三つ重なったような連中だ。まさか『吸血鬼ハンター』と『秘蔵埋葬機関』と『必要悪の実行者』それぞれの出身の転生者が手を組むとは誰が想像しようか」
 
 ――『吸血鬼ハンター』は吸血鬼及び異端の絶滅機関。
 『秘蔵埋葬機関』は神秘や魔法や魔術を根絶する為の絶滅機関。
 対異能者特化の『必要悪の実行者』が合併、いや、合体事故を起こす? 
 一体どんな組み合わせだと内心の中で壮絶に突っ込むと同時に、ある事に気づく。
 
「……ちょっと待て。もしかしてお前の言う『転生者』というのはどいつもコイツも三回目以上なのか!?」
「それこそまさかだ、三回目以上なんてそんなのは少数だ。――少数なのだが、この王都に君臨する実力者の大多数がその三回目の規格外どもだ。これは覚えておいて損は無い情報だぞ」
 
 明らかに重大で、死活問題な発言をさっくりと言いやがったぞ、この男……!?
 となると、今まで考えた事も無かったが、逆に『二回目の転生者はこの世界準拠の――魔術回路持ちの魔導師でしかないという事なのか……?
 
「話を続けようか。もう一つは『魔法使い』、個人で『教会』に匹敵する脅威度から勢力扱いさせて貰っている」
「んな!? ……どんな化物だよ、それ。一騎当千の猛者って事か?」
 
 此処に至って初めて眉間を歪ませ、これまでにもなく深刻な顔を露骨に浮かべ、冷凍マグロは首を横に振る。
 
「……単純な戦闘能力で『魔術師』を上回る転生者は他に何人もいるだろう。奴の恐ろしさは個々の戦闘能力という秤では未来永劫語り尽くせない」
 
 この無感情な男が此処まで感情を顕にするほど、その『魔法使い』というのは異常極まる存在なのだろうか――?
 
「彼が『ネクストライフはダンジョン経営者』出身の転生者である。『三つ目が常に開いている』『丘の上の幽霊屋敷に住んでいる』『王都に大結界を構築し、霊地として管理運営している』『自然魔法を好んで使う』『見てはいけない存在を飼っている』『過剰なまでに自衛はすれども自治は全くしない』『原作に全く興味無い』『他者を破滅させる事にかけて稀代の謀略家である』――奴に関して確定している情報はこれぐらいか。王都における最重要危険人物だと認識していれば良い。奴の行動次第で今後の情勢は瞬く間に一変するだろう」
 
 少ない情報から推測するに、大勢力足り得る個人でありながら、自身の情報の漏洩を最小限に抑えられる冷酷な秘密主義者か? 全く想像出来ない人物像である。
 
「さて、様々な利潤から吸血鬼という舞台装置を互いに利用し尽くした訳だが、吸血鬼を実際に送り込んだ『とある勢力』の目的は図らずも果たされた。――『肉の芽』を埋め込まれた人物に皇国の魔法使いが居てな。それを保護し、吸血鬼の被害が及んだ管理外世界で治安を回復させるという大義名分で連中は魔導師の部隊を王都に派遣した」
「『とある勢力』?」
「解らないか? その連中というのは『この世界の二部に出てくる皇国勢力』だよ。奴等は既に皇国の上部に浸透しており、物語の舞台となる王都に強烈な介入手段を差し込もうとした。この影響力は無視出来ない。異能者は強制的に皇国軍入りさせ、最終的に身動き出来ぬよう支配下におく。これはもう一種の侵略戦争だった――結果から言えば、大失敗に終わったんだがな」
 
 なるほど、視野が狭かった訳か。地球にこんなに転生者がいるなら、ミッドチルダにも居て当然という訳だ。
 しかし、抵抗してくれれば不穏分子として合法的に葬れて一石二鳥の手、大失敗するほどの穴など無さそうだが――?
 
「――第二次吸血鬼事件。残党狩りの筈だったが、皇国の魔導師全隊員が吸血鬼化し、皇国本土に逆侵攻して未曽有の『生物災害(バイオハザード)』を齎した。被害は数万規模に及び、皇国上層部に蔓延っていた転生者の首を物理的に飛ばした。その不祥事から連中は此方に介入する手段を原作開始まで完全に失った」
 
 明らかにきな臭い結末だった。自分達で大義名分作りの為に派遣した吸血鬼に噛まれるなど、一体どんな笑いだろうか。

 ある種の疑問が喉に引っ掛かるような感覚、その正体が掴める前に冷凍マグロは話を先に進める。
 
「その吸血鬼が『石仮面』の系統だったのか、または別系統だったのかは今となっては解らないが、混乱の最中に乗じて『魔法使い』は王都全土を覆う大結界を構築し、吸血鬼達の根城だった幽霊屋敷に自身の『魔導工房』を築き上げ、連中が非合法的に掻き集めた莫大な活動資金を我が物とした」
「……おいおい、まさかこの一連の事件は『魔法使い』の仕業だったのか?」
「さてな。真偽は不明だが、この事件で一番得をしたのが誰かと言えば間違い無く『魔術師』だろう。『教会』が吸血鬼の残党狩りに全身全霊を尽くして動けない中、『皇国』の影響力を徹底的に排除し、自身の基盤を盤石にした」

此処に至って、冷凍マグロが恐れる『魔法使い』の一端を、少しだけ理解する。
 結果論として『魔法使い』の仕業と思わざるを得ないが、彼はどれだけの行動を徹底的に秘匿して実行したのだろうか? 末恐ろしく思う。
 
「だが、その観点は悪くない。それと同じ考えの者は大量に居た訳だ」
 
 恐らく、この胸に蟠る不安という名の影を、他の転生者も同様かそれ以上抱え込んだに違いない。
 
「程無くして『一連の吸血鬼事件の黒幕は『魔法使い』であり、即刻排除するべし』という名文で転生者二十人余りの同盟連合が出来上がった。ソイツらは『魔法使い』に王都の結界を即時解体を求めたが、当然の如く無視された」
 
 まるで三国志の『反董卓連合』だな、と思わざるを得ない。
 突出した唯一人の傑物を叩く為に各地に雌伏する列強が力を合わせて出る杭を打とうとする。吸血鬼殲滅機関という限定目的に縛られる『教会』よりも、自由に動ける『魔法使い』を危険視したのは当然の成り行きと言えよう。
 
「一応名前を付けるなら『反魔術師同盟』だが、連中の主張も有り勝ち的外れという訳ではない。……あの『魔法使い』ならばやりかねない、この時点で大半の者はそう思っていたからだ」
 
 枝豆を口に放り込みながら「オレ自身もな」と冷凍マグロは態々注釈する。
 
「その『反魔法使い同盟』もロビー活動に終始して『魔法使い』の影響力を外堀から削っていくのならば意味があったんだが、過激派が雁首並べて飯事だけに満足する訳もない。程無くして『魔法使い』の工房に無謀にも攻め入って、首謀者唯一人を残して全滅した」
 
 当然の経緯であり、生き残りが一人でもいた事に驚嘆するべきか。
 ダンジョン経営者の世界の魔法使いにとって『魔導工房』は難攻不落の要塞であり、同時に絶対の処刑場でもある。間違っても生半可な戦力で攻め入って良い場所では無い。
 
「……という事は、首謀者は『魔術師』とグルだったという事か?」
「そうとも言われているし、二度と『反魔法使い同盟』が結束しない為に意図的に残した不和の種とも言える。その生き残った首謀者は今も尚、声高に『魔法使い』の排除の必要性を説いているが、語れば語るほど信頼を失うのは目に見えているだろう?」
 
 なるほど、最悪なまでに悪辣だ。その稀代の謀将が技術の精を費やした『魔導工房』で立て篭もっている、か。
 それは『銀河英雄伝説』の『イゼルローン要塞』に篭っている『ヤン・ウェンリー』並に無理ゲーな組み合わせじゃないだろうか? かの元帥閣下も魔術師呼ばわりされているし。
 
「信徒を増やす事で勢力を拡大させる吸血鬼及び異端殲滅機関『教会』、王都を管理掌握する稀代の謀略家『魔法使い』――現在の王都の勢力図を語るには、あと三つの勢力を説明せねばなるまい」
「他に三勢力も……!?」

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