TSロリとセンシティブノーで知識が時代遅れな女神の日常

下の蠍

俺、みんなとBBQ

八月も終わり、九月。苦しみの9と言わんばかりの暑苦しい朝に、女神の声が聞こえる。
「紫雨音。遅刻しますよ?」
可愛い子に囲まれている夢から覚まされ若干の不機嫌を抱えつつも、まだフル活動しない脳みそを動かして準備を始めた。
「朝から不機嫌なのは構いませんが、睨まれる道理はないですよ?」
「はぁー、学校か。やだな」
「始業式だけですよ?何が不満なんですか?」
「それだけのために学校行く意味よ」
「それも試練と思うのですよ」
「くっそぉぉ!だれか俺を拾ってくれる社長令嬢はいないのか?!」
「いないですよ?あきらめてください」
朝ご飯を食べ、歯磨きをして、着替えを終えるともうすでに出る時間になっていた。
「うげ、もう行ってくるわー」
「はい、お気をつけて」
1か月ぶりにランドセルを背負っての登校をした。先程の考えとは裏腹にいったんランドセルを背負うと気分が変わり、ルンルンになった。
たけみとうるみ、それからしゅりはもう揃っていた。
「すまん!!!みんな……はぁ、はぁ、家から走ってきた。久々で浮かれてたわ」
「おっす、気にすんな!うるみなんて俺が起こすまで寝てたんだぜ」
「ちょっと?!たけみぃぃ」
朝から惚気による胸焼けに項垂れてると、花を眺めていたしゅりが立ち上がってきた。
「万年先輩。どうですか?我は夏休みに一皮むけましたよ」
「んん?!まさか?せ───────」
「どうかされましたか?我は心霊スポットより力を受けていました。ほら?この花かれましたでしょ」
しゅりの足元の花は枯れていた。ほんとかどうか定かではないが、背筋に寒い物を感じた
「あ、ああ。でもあんまり行くなよー?今も少しやばい感じでてんぞ」
「大丈夫、あの子たちは先輩に寄れないと言っていたので」
「いや、余計怖いよ?!」
「みんな守り神様ですよ。ちなみにぷらいばしーは阻害しないほどにいっつも監視してるんですよ」
「お?そうか……普通なら怖いけど今少し見たいものがあるんだが」
「四宮先輩ですか?あ、いま見えました。膝をすりむいて泣いてますね。泣き止みました。プライドとやらが隠したがるんですか。万年先輩?」
「話は理解した。四宮先輩は俺が様子見てくるから、いまだ惚気てるあの二人連れて先学校行っとけよ」
「わかりました!万年先輩!では頑張ってください」
そう告げるとしゅりは、二人のランドセルをもって学校のほうへ引っ張っていった。
「さて、男心に女は不要。俺がどうにかしてやっか」
集合場所から少しそれた道に入るとそこに四宮はくしが居た
「痛くない、痛くないんだ……」
膝を抑えているその手には震え、顔には涙が浮かんでいた。
「お、四宮先輩大丈夫か?」
近付くと見つけてもらえた嬉しさ、見られたという恥、その2つの感情に揺れていた。
ぱぁぁぁと明るくなったかと思うとかぁぁぁと赤くなったり、面白い奴だって顔をしたのがバレたのか嫌味を言われた
「くっ、一番見られたくない人に見られた」
「何馬鹿言ってんだ。ほら、捕まれって」
手を貸すと意外とすんなり立ち上がった。
「安心しろ、誰にもいわねぇーって。とりあえずほらランドセルは前に背負えるしよこせよ」
前と後ろにランドセル、隣にはつんつんの先輩。
「知ってる……言わないのは知ってるから」
「あぁ男と男の約束だ、違わねぇよ」
少し遅れて学校に着くと厳つい顔の先生が門に立っていた。
「む、四宮?!足はどうしたんだ」
怖い顔が急接近してひっくり返りそうになるが何とか立て直していると四宮が厳つい先生に抱えられた。
馬転ばてん 志乃登しのと だ、四宮の担任っていやわかるか?すまんな、もし余裕があったら3-4にランドセルを───」
「い、いいです持てます」
「ん、ならいいか?すまん!うっし。じゃぁ俺は四宮を保健室に運ぶから君は教室戻っていいぞ。な~に、もし行く途中チャイムがなったら俺から担任に話しとくぞ」
馬転ばてん 先生、四宮先輩をおねがいします」
羞恥心からか静まった四宮と馬転に別れを告げ教室に向かった。


一日は防災の日となっていてたいていの学校は始業式を終えるとすぐに返される。保護者同伴の元であるが。
教卓に堂々と構える担任を見ては帰れないと悟るのは無理がない。終業式の日には伝えられてたらしいが、休んでいた俺、それにあんまり気にしてない会話を聞かないみんなは若干暗い顔をしていた。
「えっとな、最近この地方では大型災害を予見する声が多い。ってわかんねぇーよな。おっきな地震がどっかであるかもって話だ。私がガキの頃から言われてるが、そうだなぁ来たためしがねぇ」
と前置きをしてプリントを配り始めた。〈災害さいがい における判断はんだん 〉と書かれたプリントの下には三択ほどの問題がいくつか用意されていた。
「えっとだな、今からビデオが流れる。そのビデオで何回か問題が出るからさっき配ったプリントにしっかり書いとけよ」
『各教室、テレビをオンにしてOKvideoと表示されましたらそのまま待機で。もし不具合がある場合は備え付けの電話より158とかてください』
アナウンスが流れるのに合わせて先生がスイッチをつけた。
しばらくしてOKvideoから震災に対する心得というビデオに切り替わった。どんな内容であれ子供はテレビに釘付けだ。かくいう俺もまたその一人である。
「紫雨音ちゃーん!楽しみだね、こういうVTR?ってやつ大好きなんだよね」
「あぁそうだな。内容はともあれ絵俺も好きだな。なんつーか暇つぶしにはな」
「二人ともしっかり見なさいよ」
美乃が両者の頭を掴んで前を掴ませる。
「たぁ~わかったわかった!」
倒壊した建物、煙る街。震度七が起きた町のシュミレーション映像。
『Q.倒壊した建物に人が挟まれています。救出する場合に気を付けるべき点は?』
唐突に出された質問にクエスチョンマークを浮かべるみんな。
「えっとだな、倒壊した、つまり倒れた建物にだ。人が下敷きになってる状態でどうやって助けるかということだな。ぜってぇー中学生向けの教材だろ……小2にゃむずいだろ」
軽い先生の解説を得て少しづつペンを進める。ビデオには三択の選択肢が固定されている。
『A.水分を十分に取らせてから倒壊物を退かす』『B.挟まれた人に声をかけながら倒壊物を退かす』『C.爆破物を用いて倒壊物を退かす』
へたくそなCGで実演が流れる。
「紫雨音ちゃーんわかんないよー」
「ンなもん簡単だろ?阪神淡路大震災の時、火事に継ぐ死因だったろ」
「ん?はんしあはじ?おばあちゃんがなんか言ってた覚えある」
「紫雨音ちゃんはなんでそんな知ってる感じなの?実は経験者だったりして?」
「美乃ぉそんなわけないだろ。ちっと親から聞いただけだ。とりあえず答えはAだな」
「ふふ、そうね。えこのみーしょーこーぐんと言われている現象よね」
「おうよ、冬とか冷房なしに座ってゲームしててもなるんだよな」
そんな軽い雑談をかわしていると先生が現れた。
「今回の倒壊についてはクラッシュシンドロームな。まぁどっちも気を付けるべきだが。博識なのはいいがある程度裏を取らないと恥をかくぞ?これはまぁ私の友達の弟の親戚の又従妹の話なんだがな」
中学ごろから一度はする遠回しな自語りで周りを凍らせる先生を他所に問題は答え合わせへと進んでいく。
倒れた人が道路に三人。ここでまた問題が始まった。
『Q.路上に三名のけが人がいます。最も優先して救うべき人物は?』
『A.足を負傷し歩けない70代男性』『B.全身にけがを負い特別な処置を施す必要がある20代男性』『C.腕を負傷した50代男性』
またしても強烈な問題である。
「うげ、先生でも迷うぞ。ぜってぇー金貰って流してるだろ」
愚痴る先生、周りと対談して結果を出そうとするもの。一人で長考するもの。たかが小2されど思考が柔軟な時期である。
「紫雨音ちゃんわかるかな?私はAかな」
「美乃は正解るーとだな、姫は……って頭から煙でてんぞ!!」
姫は頭から煙を出すかの勢いで考えている。
「そうだな。起きてすぐ、建物も壊れてるだと。腕の負傷は自力で動ける、全身けがは特別な処置だから不可能。詰まる話は足を負傷した爺さんだろ」
答え合わせが始まりみんな誇ったり失望したりする。このクラスはたとえ異世界転生してもぶれないだろう
「やっぱAかー、ほんと大人の防災教育でもならわんぞ?!」
先生は……
そのまま続き終わるころにはみんな歴戦の猛者の顔をしていた。
親の引き取りが開始され、自慢のように語りながら親と帰る子供や車の迎えではないことに駄々をこねる子供、9月1日らしい下校風景に移り行っていった。
「姫と美乃も親待ちか?俺たぶん言ってないから来ないわ」
「いってないの?なら私とおばあちゃんと帰る?」
「二人とも私の家の車でもいいのよ?」
「「美乃様」ちゃん」
美乃の提案は虚しく、両親は歩きできたようだ。
「ごめんね?二人とも」
「きにすんな。ってか美乃ん所めっちゃ美人とイケ男じゃんか、この親にしてこの子供ありってな」
おやじ臭いお世辞を垂れるが美乃父と美乃母からは好印象だったようだ。
「おっ!君が美乃のよくいってた紫雨音ちゃんか!うちの娘が世話になっているな。それと姫ちゃんも」
大きくも優しい手でポンポンとされた。
「こらこら~可愛いからって色目使ったらつぶしますよ?」
ググぐと鈍い音が鳴る。美乃父が地面に膝から落ちる。
「二人ともごめんなさいね?うちの人天然たらしだから」
「美乃ちゃんの親すごいね」
若干引き気味の姫に美乃が抱き着く
「あ、あぁしかしいいのか?旦那さん呻いてるぜ」
「いいんです。それより紫雨音ちゃんっだったわね?姫ちゃんもいいけど、あなた!特にあなたは何処かくすぶるものがあるわぁ~。そうだ!こんどみんなでお買い物行きませんか?」
「おう……なんだその、親が許可してくれたらな」
「そうねー、こんなに紫雨音ちゃんが可愛いのだからお母さんもさぞ美しいか」
「美乃、俺がとやかく言うのもなんだが……二人そろってあれだな」
「ふふ、もう少ししっかりした姿を見せたかったけど仕方ないわね」
「私はこういう感じの好きだよ!毎日見てても飽きなそうだし!楽しそう」
そうこう話していると姫のおばあちゃんと女神が来た。買い物袋を提げているあたり二人とも買い物帰りのもようだった。
「紫雨音!姫ちゃんのおばあちゃんが居なければ私は迎えに行けませんでしたよ?」
「だからら買い物袋か、おっ今夜は麻婆豆腐か!たのしみだわ」
「まったく人の話を聞かないんだから。あら、そちらの方はお二方は?」
「あぁ美乃の親だよ」
「初めまして、こちらのおてんば娘な紫雨音の母です」
保護者同士の社交辞令をバックミュージックに三人で歩き始めた。集団は違えど方角は同じだから助かるわけだ。
「今日の地震の奴すごかったね!でももし今起きたら怖いね」
「姫は心配性だな!まぁ当分は来ねぇよ」
ちらっと女神を見ながら言った。美乃父は両手に2家族分の食材を抱えて疎外されている感じがしたが嬉しそうだったので少し引いた。
「紫雨音ちゃんと姫ちゃんは私が守るよ!!」
「美乃ちゃんくすぐったいよぉ~」
「お前らあんま道路に出るなよ?ほら、車にひかれんぞ」
抱き合ってもつれあう二人を押しとどめながら注意を促した。
「うちの子ったら男の子っぽいけど、あんな感じでそこが役立つんですよ」
えっへんと女神が我が物顔で語っていた。
「親ってみんなそうなのかな?人前で褒められるとなんか、こう照れんな」
「紫雨音ちゃんまっかか~」
「お、姫!やるか~?こしょぐり倒すぞー」
照れ隠しで姫にじゃれついた。そこに美乃も交じってほほえましい雰囲気に包まれた。
「あ、そうだ!皆さん時間あいている日がありましたらばーべーくー?でもしますか?」
女神が思い出したように提案をした。
「あらぁ~いいですね!今夜でも構いませよ」
「そうじゃな、うちも保存のきくものが多いからいつでも、それに姫もみんなと仲良くする機会が増えるからのぅ」
謎の結託で即日決定。保護者連盟の恐ろしさ。
「そういえば紫雨音?ばーべくー?ってお家でできますか?」
「庭でできるぞ」
「では万年家で────」
みんなで家に上がり保護者連盟は準備を開始した。
「よーし!美乃、姫!遊ぼうぜ!!」



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