嘘と微熱〜甘美な一夜から始まる溺愛御曹司の愛執〜

桜月海羽

四章 甘い微熱/三、真夜中の甘美な抱擁【1】

オミくんの家に訪れるのは何度目だろう。
わからないほどここに来て、その数よりも多く彼に抱かれた。
ただ、そのときは『好き』とは言えなくて、あくまで身体だけの関係で終わるつもりでいた。


「オミくん……」


けれど、今は違う。
オミくんの想いを知り、私の気持ちを伝えた。
重なった恋情はきつく絡み合い、きっともう解けたりはしない。


「あの……やっぱりちょっと待って」
「どうして?」


制止した私に覆い被さっていた彼が、怪訝な面持ちで私を見下ろしてくる。


「えっと……冷静になると、なんだか恥ずかしくて……」


今まで散々抱き合ってきた。
素肌や肢体をさらし、もっとあられもない姿も見られている。
にもかかわらず、今夜は羞恥が大きくて、鼓動は忙しなく動いていた。
そんな私に、オミくんがクスッと笑う。顔をくしゃりとした笑顔は、まるで幸せだと言っているようだった。


「今さら? 茉莉花の裸なら、もう記憶に焼きついてるよ」
「っ……そんなこと言わないで!」
「目でも頭でも覚えてるし、身体にだって……茉莉花のことを刻んだ」


下肢をグッと押しつけられて、頬がかあぁっ……と熱くなる。
布越しに感じる生々しい熱に、唇から吐息が漏れた。


「それに、今夜はどうしても茉莉花を抱きたい。初めて正気の茉莉花が『好き』って言ってくれたんだ。なにがあっても帰さないよ」


真っ直ぐな双眸が私を射抜く。
そこには確かな劣情が混じっているのに、私の唇を塞いだキスはとても優しくて、胸の奥が高鳴る。
誘惑上手な彼を前に、私の心は一瞬にして陥落してしまった。


無言で伸ばした手をオミくんの首に回し、自ら彼の唇を奪いに行く。
あとはもう、言葉なんていらなかった。


「茉莉花……」


熱っぽい瞳で私を見つめるオミくんが、キスをしながら私の全身を愛でる。
舌を搦め取られ、口腔を侵されて。呼吸ごと奪うようなくちづけにくぐもった声を漏らしても、左手で顔を固定されて解放してもらえない。
苦しさでどうしようもないのに、激しいキスに喜びが突き上げてくる。
その間に、彼のもう片方の手が服を剥いでいき、無防備な肌を撫でた。


身体の形を確かめるように骨ばった手が這い、ウエストラインを指先がたどる。
いつの間にか自由になっていた唇からは、甘い声が飛び散っている。
それに気づいて吐息ごと噛み殺せば、たしなめるように敏感な部分を摘ままれた。
喉が仰け反り、嬌声が宙を舞う。


「声、ちゃんと聞かせて。想いが通じ合った上で茉莉花を抱いてるってことを、実感していたいんだ」


オミくんの甘えたようなおねだりに、胸がキュンキュンと震える。
熱っぽい瞳で湛えられた笑みは、どうしようもなく色っぽくて。彼の香りに包まれながら、愛する人に抱かれていることを実感する。


「好き……好き、大好き……」
「うん、俺も……。愛してるよ」


私が想いを零せば、優しい声音が返ってくる。
嬉しくて、涙が止まらなくて、この上ない幸福感で満たされていく。
何度も昇り詰め、思考が真っ白になって脳芯までじんじんと痺れても、譫言のように想いを紡ぎ続けた。


身体を重ねたオミくんは、快感を噛み殺すようにしていたけれど。

「茉莉花……ッ!」

荒々しく熱い息を吐き、濁流にさらわれた私の上に倒れ込むようにして果てた。


「人生で一番幸せな日かもしれないな」


これからもっと幸せを感じてもらえるように頑張るね、と口にしたつもりだったのに、たぶん上手く声にならなかった。
優しくて甘美な蜜事の名残の中で、彼の唇を額や瞼に感じる。


心地好いキスに頬が綻ぶと、唇にも甘やかすようなくちづけが贈られた。
そのまま優しい腕に抱きすくめられた私は、聖夜が終わるのを待たずに夢の中に沈んでいった。

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