嘘と微熱〜甘美な一夜から始まる溺愛御曹司の愛執〜
四章 甘い微熱/一、弱い自分【4】
「でも、その上で茉莉花が他の男のもとで幸せになると言うなら、俺は〝君の前だけでは〟君の幸せを祈るよ」
冷たいようにも思えた口調に、切なげな雰囲気が灯る。
「でも違うだろ? 茉莉花は俺が好きで、俺も茉莉花を愛してる。愛し合ってる存在がいるのに、他の男に唇や身体を許すのか?」
眉を下げたオミくんが、悲しそうな笑みを浮かべる。
胸の奥がぎゅうっと掴まれたように苦しくて、思わず零れそうな涙を押し込めようとこぶしを握った。
「でも、私はこうすることでしか父を安心させられないから……」
「自分の人生の選択を誰かに任せるべきじゃない」
同じ場所で足踏みしている私を、彼がきつくたしなめる。
「茉莉花の人生は茉莉花だけのものだ。誰にも茉莉花の幸せを奪う権利はないし、君が君らしくいられる選択をするべきだ」
オミくんの視線も言葉も厳しいままで、図星を突かれてばかりの心が痛い。
「……私らしくいられる選択?」
「ああ。それに、茉莉花には茉莉花のいいところがたくさんある。本当は裕人や百合さんのように父親を手伝いたいと思って勉強したり、俺と話すときだって仕事の話に一番興味を持ってたりする。夢があるのなら、それを諦める必要だってない」
けれど、その奥にあるのは、迷いのない愛情と深い優しさだった。
「茉莉花を縛りつけてるのは父親である浩人さんだけど、茉莉花の心を一番不自由にさせてるのは本音を隠してしまう弱い茉莉花自身だ」
彼の真摯な双眸に捕らわれていた私は、ハッとさせられる。
自分自身が一番ダメだということを、ずっと自覚していたつもりだった。
それなのに、心のどこかではいつも父を言い訳にしていて。簡単に諦める癖がついていたことも、会社で肩身が狭いのも、すべて父のせいにして……。
そうすることで罪悪感や情けなさをごまかし、自分だけラクな場所にいた。
わかっている気でいたけれど、本当は心のどこかでは父を言い訳にしていた。
だって、そうしていれば現実に蓋をしていられたから……。
子どもみたいな自分自身に気づかされて、今までの振る舞いがいかに恥ずかしいことだったのかを自覚して、オミくんから視線を逸らすことしかできなかった。
「茉莉花」
そんな私を呼ぶ彼の声は、泣きたくなるほど優しかった。
「父親の望み通りに生きる必要なんてない。茉莉花の人生は茉莉花だけのものだ。いくら親でも、茉莉花の幸せを奪う権利なんてない」
真っ直ぐすぎる言葉が痛い。
「自分が選んだ道が正しくなんてなくていい。正しさなんて人によって違う。モラルやマナーは必要だけど、それと正しさはまた少し違ったりもするものなんだ。だから、誰かのために正しくいようとする必要性はもっとないんだよ」
痛くて……けれど、それ以上に嬉しい。
オミくんの優しさが、彼が与えてくれる無償の愛が……。
「ちゃんと考えるんだ。自分自身としっかり向き合って、本心に蓋をせずにどうするか自分で決めるべきだよ。茉莉花だって、本当はもうわかってるだろ?」
私が思うよりもずっと、オミくんは私を想ってくれている。
そんなことに今さら気づいて、心は簡単に揺れてしまう。
好きなんて言えないけれど、『好き』なんかでは足りない想いを伝えたくて仕方がなかった。
涙をこらえることに必死だった私に額に、彼がそっとくちづける。
「一週間後のクリスマスイヴの夜に会おう。そこで茉莉花の答えを聞かせて」
次いで微笑んだオミくんは、迷うことなく静かに告げた。
「それでも、俺の手を取れないと言うのなら……俺はもう、二度と茉莉花に関わらないと約束するよ」
彼の笑顔は、切なさを混じらせながらも覚悟を決めていることを語り、私を見据えていた。
私は、ちゃんと決められるのだろうか。
不安に押し潰されそうだけれど、もう目を背けているわけにはいかない。
きっとここで向き合わなければ、私はずっと変われないまま……。
そして、一生後悔するに違いない。
「オミくん……ありがとう」
今はそれだけしか言えなかった。
それなのに、オミくんは優しい眼差しで私を見つめ、頭をそっと撫でてくれた。
冷たいようにも思えた口調に、切なげな雰囲気が灯る。
「でも違うだろ? 茉莉花は俺が好きで、俺も茉莉花を愛してる。愛し合ってる存在がいるのに、他の男に唇や身体を許すのか?」
眉を下げたオミくんが、悲しそうな笑みを浮かべる。
胸の奥がぎゅうっと掴まれたように苦しくて、思わず零れそうな涙を押し込めようとこぶしを握った。
「でも、私はこうすることでしか父を安心させられないから……」
「自分の人生の選択を誰かに任せるべきじゃない」
同じ場所で足踏みしている私を、彼がきつくたしなめる。
「茉莉花の人生は茉莉花だけのものだ。誰にも茉莉花の幸せを奪う権利はないし、君が君らしくいられる選択をするべきだ」
オミくんの視線も言葉も厳しいままで、図星を突かれてばかりの心が痛い。
「……私らしくいられる選択?」
「ああ。それに、茉莉花には茉莉花のいいところがたくさんある。本当は裕人や百合さんのように父親を手伝いたいと思って勉強したり、俺と話すときだって仕事の話に一番興味を持ってたりする。夢があるのなら、それを諦める必要だってない」
けれど、その奥にあるのは、迷いのない愛情と深い優しさだった。
「茉莉花を縛りつけてるのは父親である浩人さんだけど、茉莉花の心を一番不自由にさせてるのは本音を隠してしまう弱い茉莉花自身だ」
彼の真摯な双眸に捕らわれていた私は、ハッとさせられる。
自分自身が一番ダメだということを、ずっと自覚していたつもりだった。
それなのに、心のどこかではいつも父を言い訳にしていて。簡単に諦める癖がついていたことも、会社で肩身が狭いのも、すべて父のせいにして……。
そうすることで罪悪感や情けなさをごまかし、自分だけラクな場所にいた。
わかっている気でいたけれど、本当は心のどこかでは父を言い訳にしていた。
だって、そうしていれば現実に蓋をしていられたから……。
子どもみたいな自分自身に気づかされて、今までの振る舞いがいかに恥ずかしいことだったのかを自覚して、オミくんから視線を逸らすことしかできなかった。
「茉莉花」
そんな私を呼ぶ彼の声は、泣きたくなるほど優しかった。
「父親の望み通りに生きる必要なんてない。茉莉花の人生は茉莉花だけのものだ。いくら親でも、茉莉花の幸せを奪う権利なんてない」
真っ直ぐすぎる言葉が痛い。
「自分が選んだ道が正しくなんてなくていい。正しさなんて人によって違う。モラルやマナーは必要だけど、それと正しさはまた少し違ったりもするものなんだ。だから、誰かのために正しくいようとする必要性はもっとないんだよ」
痛くて……けれど、それ以上に嬉しい。
オミくんの優しさが、彼が与えてくれる無償の愛が……。
「ちゃんと考えるんだ。自分自身としっかり向き合って、本心に蓋をせずにどうするか自分で決めるべきだよ。茉莉花だって、本当はもうわかってるだろ?」
私が思うよりもずっと、オミくんは私を想ってくれている。
そんなことに今さら気づいて、心は簡単に揺れてしまう。
好きなんて言えないけれど、『好き』なんかでは足りない想いを伝えたくて仕方がなかった。
涙をこらえることに必死だった私に額に、彼がそっとくちづける。
「一週間後のクリスマスイヴの夜に会おう。そこで茉莉花の答えを聞かせて」
次いで微笑んだオミくんは、迷うことなく静かに告げた。
「それでも、俺の手を取れないと言うのなら……俺はもう、二度と茉莉花に関わらないと約束するよ」
彼の笑顔は、切なさを混じらせながらも覚悟を決めていることを語り、私を見据えていた。
私は、ちゃんと決められるのだろうか。
不安に押し潰されそうだけれど、もう目を背けているわけにはいかない。
きっとここで向き合わなければ、私はずっと変われないまま……。
そして、一生後悔するに違いない。
「オミくん……ありがとう」
今はそれだけしか言えなかった。
それなのに、オミくんは優しい眼差しで私を見つめ、頭をそっと撫でてくれた。
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