嘘と微熱〜甘美な一夜から始まる溺愛御曹司の愛執〜
三章 嘘の代償/三、積み重なる嘘と言えない本音【1】
翌日の夜、オミくんが突然やってきた。
驚く私を余所に、彼は「最低限の荷物だけ持って」と言い、ルームウェアのままの私を車に押し込むと、問答無用で家に連れて行かれた。
戸惑いに塗れる私は、オミくんの家のリビングのソファに座らされ、なにがなんだかわからないままマスカットティーを出された。
ここに連れてこられた理由を教えてくれない彼を横目に、ひとまず一口だけ飲んでみる。ほんのりとした香りと甘さに、わずかにホッとできた。
オミくんと会ったのは、プロポーズされた日以来だった。
お見合いの日は結局断ってしまったし、それ以外にも彼は海外出張などでずっと忙しかったようで、電話の時間もここ最近は短くなっていた。
ただ、先日のドタキャンについては、あの夜にかかってきた電話でもなにも訊かれなかったし、オミくんはずっと平素の様子だったように思う。
とはいえ、今夜の彼の雰囲気は明らかにいつもと違っていた。
「あの……オミくん?」
「うん」
「どうして私を家に連れてきたの?」
「……会いたかったから」
「え?」
「俺が茉莉花に会いたくて限界だったから」
あまり目も合わなかったオミくんが、ようやく私に笑みを向ける。
思わず安堵したのが表情に出たのか、彼は自嘲気味な笑みを浮かべた。
「言っておくけど、俺は怒ってないよ。茉莉花に会った瞬間に嬉しすぎて抱きしめそうになったから、必死に邪な本能と戦ってただけ」
冗談めかしたようでいて、その瞳は真剣だった。
私の胸の奥はもちろん簡単に高鳴って、オミくんの言葉が嬉しくてたまらない。
こんな感覚を抱かせてくれるのは世界中を探しても彼しかいないに違いない、なんて本気で思った。
「ところで、少しは考えてくれた?」
唐突に核心を突いた問いに、思わず顔が強張ってしまう。
オミくんがなんの話をしているのかはすぐにわかった。
私の気持ちを、そしてプロポーズの答えを訊いているのだ。
それなら、もう決まっている。
何度も揺れてブレてばかりいた心は、昨夜遅くにようやく定まった。
「うん」
「じゃあ、聞かせて」
柔和な笑顔の彼に、つい眉を下げてしまう。
好きだなぁ……と感じた心が、静かに戦慄いていた。
「やっぱりオミくんとは結婚できないよ」
予想していたよりもずっと落ち着いて、しっかりと言葉にできた。
声が震えることはなく、オミくんから目を逸らすこともなく、ただ淡々と。
「相変わらず、予想通りというか予想外というか……。茉莉花だけは読めないな」
それが本当か嘘かはわからない。
彼はいつも私の気持ちを見透かしてばかりだし、家族よりも私のことをよく知ってくれているから。
「一応、理由を訊いてもいい?」
「私はお兄ちゃんやお姉ちゃんみたいに仕事では親孝行ができないからこそ、お父さんを安心させてあげるのが一番いいと思ったの。お父さんが望む相手と結婚して、ずっと近くにいることがいいんだ……って。だから、オミくんとは結婚できない」
本当は、オミくんのお嫁さんにしてほしかった。
夢物語よりも夢のような幸せを、素直に受け入れたかった。
けれど、彼は私なんかにはもったいなさすぎる。
自分の意思すらまともに言えなくて、そのくせ恋心を諦める覚悟はいつまでもできなくて。しかも、自分だけが罪悪感を持たなくて済むことにホッとして……。
そんな風に情けなくて身勝手でずるい私なんかが、オミくんみたいな素敵な男性と釣り合うわけがない。
〝好き〟だけでは彼の想いを受け入れてはいけない。
きっと、オミくんはこの先ももっと華々しい人生を歩んでいく人。
彼のことが一番大切だからこそ、身勝手な私の恋心はもう昇華させるべきなのだ。
「見くびられたものだね。それで俺が納得するとでも? 茉莉花は甘いよ」
ふっと笑ったオミくんの声音からは、不満がはっきりと映っている。
「茉莉花」
けれど、次の瞬間に私を見据えた瞳は、愛情と温もりを纏っていた。
驚く私を余所に、彼は「最低限の荷物だけ持って」と言い、ルームウェアのままの私を車に押し込むと、問答無用で家に連れて行かれた。
戸惑いに塗れる私は、オミくんの家のリビングのソファに座らされ、なにがなんだかわからないままマスカットティーを出された。
ここに連れてこられた理由を教えてくれない彼を横目に、ひとまず一口だけ飲んでみる。ほんのりとした香りと甘さに、わずかにホッとできた。
オミくんと会ったのは、プロポーズされた日以来だった。
お見合いの日は結局断ってしまったし、それ以外にも彼は海外出張などでずっと忙しかったようで、電話の時間もここ最近は短くなっていた。
ただ、先日のドタキャンについては、あの夜にかかってきた電話でもなにも訊かれなかったし、オミくんはずっと平素の様子だったように思う。
とはいえ、今夜の彼の雰囲気は明らかにいつもと違っていた。
「あの……オミくん?」
「うん」
「どうして私を家に連れてきたの?」
「……会いたかったから」
「え?」
「俺が茉莉花に会いたくて限界だったから」
あまり目も合わなかったオミくんが、ようやく私に笑みを向ける。
思わず安堵したのが表情に出たのか、彼は自嘲気味な笑みを浮かべた。
「言っておくけど、俺は怒ってないよ。茉莉花に会った瞬間に嬉しすぎて抱きしめそうになったから、必死に邪な本能と戦ってただけ」
冗談めかしたようでいて、その瞳は真剣だった。
私の胸の奥はもちろん簡単に高鳴って、オミくんの言葉が嬉しくてたまらない。
こんな感覚を抱かせてくれるのは世界中を探しても彼しかいないに違いない、なんて本気で思った。
「ところで、少しは考えてくれた?」
唐突に核心を突いた問いに、思わず顔が強張ってしまう。
オミくんがなんの話をしているのかはすぐにわかった。
私の気持ちを、そしてプロポーズの答えを訊いているのだ。
それなら、もう決まっている。
何度も揺れてブレてばかりいた心は、昨夜遅くにようやく定まった。
「うん」
「じゃあ、聞かせて」
柔和な笑顔の彼に、つい眉を下げてしまう。
好きだなぁ……と感じた心が、静かに戦慄いていた。
「やっぱりオミくんとは結婚できないよ」
予想していたよりもずっと落ち着いて、しっかりと言葉にできた。
声が震えることはなく、オミくんから目を逸らすこともなく、ただ淡々と。
「相変わらず、予想通りというか予想外というか……。茉莉花だけは読めないな」
それが本当か嘘かはわからない。
彼はいつも私の気持ちを見透かしてばかりだし、家族よりも私のことをよく知ってくれているから。
「一応、理由を訊いてもいい?」
「私はお兄ちゃんやお姉ちゃんみたいに仕事では親孝行ができないからこそ、お父さんを安心させてあげるのが一番いいと思ったの。お父さんが望む相手と結婚して、ずっと近くにいることがいいんだ……って。だから、オミくんとは結婚できない」
本当は、オミくんのお嫁さんにしてほしかった。
夢物語よりも夢のような幸せを、素直に受け入れたかった。
けれど、彼は私なんかにはもったいなさすぎる。
自分の意思すらまともに言えなくて、そのくせ恋心を諦める覚悟はいつまでもできなくて。しかも、自分だけが罪悪感を持たなくて済むことにホッとして……。
そんな風に情けなくて身勝手でずるい私なんかが、オミくんみたいな素敵な男性と釣り合うわけがない。
〝好き〟だけでは彼の想いを受け入れてはいけない。
きっと、オミくんはこの先ももっと華々しい人生を歩んでいく人。
彼のことが一番大切だからこそ、身勝手な私の恋心はもう昇華させるべきなのだ。
「見くびられたものだね。それで俺が納得するとでも? 茉莉花は甘いよ」
ふっと笑ったオミくんの声音からは、不満がはっきりと映っている。
「茉莉花」
けれど、次の瞬間に私を見据えた瞳は、愛情と温もりを纏っていた。

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