嘘と微熱〜甘美な一夜から始まる溺愛御曹司の愛執〜

桜月海羽

二章 絡みゆく想い/四、劣情 Side Masaomi【4】

仁科フーズは知名度こそ高くはないものの、製品のクオリティについてはしっかりとしており、価格帯も良心的なものが多い。
俺自身も口にしたことはあるが、消費者目線で言えばコストパフォーマンスは文句のつけようがないだろう。


「他にも、スーパーなどで出してる製品も売れ行きは順調ですので、必ずタカミホテルを利用されているお客様にもご満足していただけるかと思います」


一方で、仁科の製品を鷹見グループで使用することがあるか……と言われれば、現段階ではNOというのが正直なところだ。
タカミホテルを利用するお客様は、高級で上質なものを好む。
世間でいうコストパフォーマンスやコンビニスイーツのようなものではなく、一流のおもてなしの中で過ごす特別な時間を求められているのだ。
そこで使用するにしては仁科の製品では事足りない……というのが本音である。


「もちろん、御社で使用していただけるのであれば、御社にふさわしい上質な製品を作り上げるとお約束いたします」


今、タカミホテルと契約しているのは、世界で名を馳せているような超一流の高級ブランドやミシュランで星を持っているような高級店ばかりである。
インテリアや食事はもちろん、スイーツにおいても同じだった。
つまり、友人としては力になりたいが、ビジネスとしては力にはなれない。


「申し訳ありませんが、現在弊社は複数の会社と契約しており、スイーツにおいては新たな取引先を増やす予定はありません。御社の製品は私も口にしたことがあり、品質においても信頼できるものだと思っておりますが、弊社で使用するには――」
「では、タカミステーションホテルならいかがでしょうか? ビジネスホテルであれば、一般的に利用される客層は弊社の客層と近しいと判断しております」


食い気味に提案する裕人に、眉を小さく寄せる。
裕人はさらに耳触りの好い言葉を並べていたが、鷹見グループからすれば取り立てて大きな魅力はなかった。


「タカミステーションホテルでは、スイーツなどを導入する予定はありません。こちらでは食事を利用する方が少なく、あくまで宿泊施設に特化しておりますので」


タカミステーションホテルは、一般的なビジネスホテルよりも価格設定は高いが、それでも食を重要視するお客様は少ない。
お客様の大半は出張で利用されるため、夜は接待を受けることが多く、ホテル内では睡眠と朝食を摂る程度であり、タカミホテルのようにホテルで長時間過ごすこともあまりないのだ。


アクセスが便利か。
部屋や水回りは綺麗か。
ベッドは身体に合うか。
滞在時間が短い中、お客様が重要視されるのはそういったことであり、食について多くのことを求められることはない。
仮に、食事やコーヒーを欲したとしても、タカミステーションホテルのすべてに併設されているカフェやコンビニで充分なのだ。


「でしたら、国内のタカミホテルで取り扱っていただけないでしょうか。そこでの成果によっては、海外での使用も考えていただければ……」
「それも難しいですね。弊社で使用している焼き菓子はフランスやイタリアの老舗ブランドです。お客様もそういったブランドならではの製品を楽しみにされている方が多い印象ですから、現状では新規開拓は考えておりません」


正式に言えば、一部のブランドは定期的に刷新している。
また、ラウンジメニューのアフタヌーンティーは、定番のメニューとは別に二か月ごとに様々なブランドとコラボしているため、新規開拓は常にしている。
その上でどうしても首を縦に触れないのは、タカミホテルを利用するお客様が仁科の製品を求めていないことは明白だからである。


個人的な好みなら、仁科の製品に対する印象はいい。
けれど、鷹見グループの国内事業部取締役の判断としては、この企画には賛同できなかった。


「……わかりました。鷹見社長のおっしゃることはもっともです。この件に賛同していただけないのは我々の力不足です」
「ひとつご提案があります」


肩を落とした裕人たちを前に、俺は静かに切り出す。

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