嘘と微熱〜甘美な一夜から始まる溺愛御曹司の愛執〜

桜月海羽

二章 絡みゆく想い/三、あなたの温もり【4】

「茉莉花」


名前を呼ばれれば胸が高鳴って、触れられるたびに身体の奥から熱が込み上げる。
思考も身体の自由さえも奪うような激しい蜜事を思い出すと、ほんの少しだけ怖いのに……。オミくんの腕の中にいるという事実が、確かな安堵感を抱かせてくれる。


「オミくん……」


骨ばった手で私を暴いていきながらも、熱に侵された双眸は私を見据えている。
劣情を孕む視線を前に、清廉な少女のままではいられなかった。
ブラを取られる羞恥心に震えながらも、抵抗はしなかった。無防備になった胸を愛でられても、甘い刺激を素直に受け入れた。


私がボタンを取ったシャツははだけて、彼の素肌が見えている。隆起した胸筋や綺麗に割れた腹筋が視界に映り、自分とはまったく違う体躯にドキドキした。
その上、触れられた場所からじんじんとした痺れが広がり、甘切ない快感に襲われ続けて頭がおかしくなりそうだった。


オミくんにされるがままの私は、声を上げることしかできない。
けれど、私に覆い被さっている彼は、満悦そうに唇の端を上げている。
脆弱な部分を責められ、身体が準備を整えていく。
ショーツを剥がれて下肢に触れられたときには、もうすっかりとろけ切っていた。


オミくんにしか触らせたことがない場所を、再び彼に暴かれていく。
まるで自分のものだと言いたげに、それでいて優しく丁寧に。大切に扱われていることが嬉しくて、下腹部の奥がきゅうきゅうと戦慄いていた。


「茉莉花……ああ、可愛い」
「オミくん……ッ! オミくん……」
「こんな顔、俺だけにしか見せないで」


情事の雰囲気に呑まれた睦言だって構わない。
彼が『可愛い』と囁き、独占欲を見せていることに、喜悦が突き上げてくる。
熱を纏った身体が重なったときには、もう頭も身体もどうにかなりそうで。オミくんにしがみつき、譫言のように彼の名前を呼び続けることしかできなかった。


脳が酩酊するほどの激しさに呑み込まれていく。
身体も、心も、意識も、胸の奥に秘めた恋情さえも……。濁流のように迫りくる激情にさらわれ、高く高く押し上げられる。
甘苦しさを受け止められなくなった刹那、オミくんが私を守るようにぎゅうぅっ……と抱きしめてくれた。
その腕の力強さと体温、そして彼の香りに包まれながら、瞼を閉じる。


何物にも代えられない喜びと、夢のようなひととき。
今は幸福感としてあるこれが、いつか自分を苦しめる未来へと繋がっていることを察してしまう。
それでも、オミくんに抱かれるのは幸せでたまらなかった。


「茉莉花……」


夢現だった私は、彼が唇にキスをしてくれたのを感じて微かな笑みを零す。
けれど、もう目を開ける気力もなくて、そのまま暗い水底に堕ちていった――。

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