嘘と微熱〜甘美な一夜から始まる溺愛御曹司の愛執〜
二章 絡みゆく想い/一、ふたりだけの秘密【3】
『茉莉花……。でも、俺は――』
「あ、えっと……お礼!」
『え?』
なにかを言いかけたオミくんを遮ったのは、不安が過ったから。
彼の中に罪悪感があるのは、重々わかっているけれど……。もし謝罪をされてしまったら、あの夜の幸せが消える気がして怖かった。
「あんなことお願いしたんだし、お礼がしたいと思ってたんだ。私にできることなんて限られてるけど、なにかさせてほしい」
明るく振る舞う私に、オミくんは困惑しているのかもしれない。
『別にいらないよ。お礼って言うなら、大事なものを捧げてくれた茉莉花に俺がなにかしないと』
頬がかあっと熱くなる。
「そ、そんなのいらないよっ……!」
恥ずかしさのせいで大きな声を出すと、彼がクスクスと笑った。
空気が和らいだことに、わずかな安堵感を抱く。
柔和に笑うオミくんの声を聞けたことが嬉しくて、ホッとしたこともあいまって私からも笑みが零れた。
「えっと……だから、私になにかさせてほしい」
気を取り直して再び提案すると、彼は少し逡巡するように黙り、程なくして『そうだな……』とごちた。
『じゃあ、デートしよう』
「えっ?」
予想だにしないリクエストに、きょとんとしてしまう。
「それって……」
『いつもみたいにセグレートで会うんじゃないよ』
私の心の声を見透かしたオミくんが、楽しげにクスリと笑う。
『少し会って飲むようなデートじゃなくて、ちゃんと昼間に出かけるやつ』
「それでいいの?」
そんなデートなんて、私得でしかない。
私は嬉しいけれど、オミくんへのお礼になる気がしなかった。
けれど、彼の中ではもう決まってしまったらしく、『うん』と返ってくる。
『むしろ、今までそういうデートはしたことがなかったし』
私たちは、これまでずっとセグレートで会うばかりだった。
金曜日の夜、ほんの二時間ほどバーでお酒と会話を楽しみ、オミくんが家まで送ってくれる。
まるでルーティンのようにそう決まっていた。
二十歳のお祝いに連れて行ったもらったのもディナーで、彼の部屋に入れてもらったのはその後にセグレートに立ち寄ったあとのこと。
毎月のようにバーで飲み、数日前にはとうとう身体の関係も持ったのに……。今さらになって、順序がめちゃくちゃだなと気づいて少しだけおかしくなる。
けれど、オミくんと私は恋人じゃないのだから仕方がない。
『どこか行きたいところはある?』
「えっと……私じゃなくてオミくんの希望は?」
『俺は茉莉花がデートしてくれるのならどこでもいいんだ』
(な、なにそれっ……! そんなの、まるで……)
私と一緒ならどこでも楽しい、と言われているみたいだ。
本来なら、それは彼を想っている私のセリフのはずなのに……。
オミくんにそんなつもりはないとわかっていても、勘違いしそうになる。
『もし茉莉花の希望がないなら、俺が勝手に決めてもいい?』
「え? う、うん。それはもちろん……」
『じゃあ、考えておくよ。日程は……そうだな、今週の土曜は空いてる?』
空いていなくても、彼とのデートのためなら空けるに決まっている。
なんてことは言えないから、「うん」と短く答えた。
『それなら土曜の十一時に迎えに行くから、茉莉花は家で待ってて』
「うん、わかった」
きっと、オミくんはきちんと送迎もしてくれるつもりなんだろう。
これだとまったくお礼にはならないけれど、彼なりになにか思うところがあるのかもしれない。
そう結論付け、言う通りに待っていることにした。
『それじゃあ、また土曜日に。楽しみにしてるよ』
「う、うん! 私も楽しみにしてるね」
オウム返しのように言うと、電話の向こうでオミくんがふっと笑った気がした。
彼の纏う柔らかな雰囲気に、胸の奥が甘やかに高鳴る。
『おやすみ、茉莉花』
「おやすみなさい、オミくん」
そこで電話が切れてしまい、静寂が戻ってくる。
あの夜のことは、幻のような思い出として抱えて生きていくつもりだった。
それなのに、オミくんの声を聞けただけで鼓膜はくすぐったくなり、彼とデートの約束ができたことに喜びが隠せない。
この無謀な恋情を、いったいどうやって消せばいいのだろう。
答えなんてわからなくて、また募った想いを持て余して……。それでも、オミくんと会えることが嬉しい。
彼とふたりだけの秘密が増えていくたびに、恋心はより大きくなっていく。
お見合いのことを考えるだけで絶望したくなるのに、土曜日のことを思えばすぐに笑顔になれた。
「あ、えっと……お礼!」
『え?』
なにかを言いかけたオミくんを遮ったのは、不安が過ったから。
彼の中に罪悪感があるのは、重々わかっているけれど……。もし謝罪をされてしまったら、あの夜の幸せが消える気がして怖かった。
「あんなことお願いしたんだし、お礼がしたいと思ってたんだ。私にできることなんて限られてるけど、なにかさせてほしい」
明るく振る舞う私に、オミくんは困惑しているのかもしれない。
『別にいらないよ。お礼って言うなら、大事なものを捧げてくれた茉莉花に俺がなにかしないと』
頬がかあっと熱くなる。
「そ、そんなのいらないよっ……!」
恥ずかしさのせいで大きな声を出すと、彼がクスクスと笑った。
空気が和らいだことに、わずかな安堵感を抱く。
柔和に笑うオミくんの声を聞けたことが嬉しくて、ホッとしたこともあいまって私からも笑みが零れた。
「えっと……だから、私になにかさせてほしい」
気を取り直して再び提案すると、彼は少し逡巡するように黙り、程なくして『そうだな……』とごちた。
『じゃあ、デートしよう』
「えっ?」
予想だにしないリクエストに、きょとんとしてしまう。
「それって……」
『いつもみたいにセグレートで会うんじゃないよ』
私の心の声を見透かしたオミくんが、楽しげにクスリと笑う。
『少し会って飲むようなデートじゃなくて、ちゃんと昼間に出かけるやつ』
「それでいいの?」
そんなデートなんて、私得でしかない。
私は嬉しいけれど、オミくんへのお礼になる気がしなかった。
けれど、彼の中ではもう決まってしまったらしく、『うん』と返ってくる。
『むしろ、今までそういうデートはしたことがなかったし』
私たちは、これまでずっとセグレートで会うばかりだった。
金曜日の夜、ほんの二時間ほどバーでお酒と会話を楽しみ、オミくんが家まで送ってくれる。
まるでルーティンのようにそう決まっていた。
二十歳のお祝いに連れて行ったもらったのもディナーで、彼の部屋に入れてもらったのはその後にセグレートに立ち寄ったあとのこと。
毎月のようにバーで飲み、数日前にはとうとう身体の関係も持ったのに……。今さらになって、順序がめちゃくちゃだなと気づいて少しだけおかしくなる。
けれど、オミくんと私は恋人じゃないのだから仕方がない。
『どこか行きたいところはある?』
「えっと……私じゃなくてオミくんの希望は?」
『俺は茉莉花がデートしてくれるのならどこでもいいんだ』
(な、なにそれっ……! そんなの、まるで……)
私と一緒ならどこでも楽しい、と言われているみたいだ。
本来なら、それは彼を想っている私のセリフのはずなのに……。
オミくんにそんなつもりはないとわかっていても、勘違いしそうになる。
『もし茉莉花の希望がないなら、俺が勝手に決めてもいい?』
「え? う、うん。それはもちろん……」
『じゃあ、考えておくよ。日程は……そうだな、今週の土曜は空いてる?』
空いていなくても、彼とのデートのためなら空けるに決まっている。
なんてことは言えないから、「うん」と短く答えた。
『それなら土曜の十一時に迎えに行くから、茉莉花は家で待ってて』
「うん、わかった」
きっと、オミくんはきちんと送迎もしてくれるつもりなんだろう。
これだとまったくお礼にはならないけれど、彼なりになにか思うところがあるのかもしれない。
そう結論付け、言う通りに待っていることにした。
『それじゃあ、また土曜日に。楽しみにしてるよ』
「う、うん! 私も楽しみにしてるね」
オウム返しのように言うと、電話の向こうでオミくんがふっと笑った気がした。
彼の纏う柔らかな雰囲気に、胸の奥が甘やかに高鳴る。
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そこで電話が切れてしまい、静寂が戻ってくる。
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それなのに、オミくんの声を聞けただけで鼓膜はくすぐったくなり、彼とデートの約束ができたことに喜びが隠せない。
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