嘘と微熱〜甘美な一夜から始まる溺愛御曹司の愛執〜
一章 はじまりはひとつの嘘/二、天国から地獄へ【6】
「好きでもない人と結婚したら、幸せにはなれないのかな……」
せめて夢を見たくて呟けば、オミくんが息を吐いた。
「どうかな。お見合い結婚で幸せになる夫婦はいるし、大恋愛の末に結婚して別れる夫婦もいるからね。お見合いだからと言って、幸せになれないわけじゃないと思う」
それは、彼なりの慰めだったのかもしれない。
優しいのにどこか他人事みたいな言い方で、胸がじくじくと疼くように痛む。
オミくんには関係のないことだから当たり前なのに、悲しくて仕方がなかった。
「キスくらい、好きな人としてみたかったな……」
ふと零れたのは、そんなこと。
いつもなら恥ずかしがっていたような言葉を口にしたのに、アルコールのせいか悲しみのせいか……。もう羞恥を抱く気力もない。
「ねぇ、キスってどんな感じ?」
投げやりな気持ちから振り向けば、彼がなんとも言えない表情をしていた。
「……さぁな」
別に訊きたかったわけじゃない。
むしろ、オミくんの女性関係なんて知りたくない。
彼に恋人がいた時期があるのは知っているけれど、これまではそういう話題に触れることはほとんどなかった。
だって、聞いてしまえば嫉妬でいっぱいになって、泣いてしまうだろうから……。
今だって、オミくんの過去をほんの少しだけ想像したくらいで、醜い感情がふつふつと湧いてくる。
「オミくんに教えてほしい」
半分は自棄だった。
けれど、半分は本気だった。
「キスも、その先も……教えて」
きっと、冗談めかして笑うべきだったのに、自ら無謀な場所へと飛び込んでいた。
意表を突かれたように目を見開く彼が、私の真意を読もうとしているのがわかる。
程なくして、深いため息が落とされた。
「大事に取っておけ」
オミくんらしくない突き放した言い方に、胸の奥が鈍い音を立てて軋む。
「大事に取ってきたよ……!」
直後、八つ当たりだと自覚しながらも、声を荒げてしまった。
「でも、このままだと好きでもない人に捧げなきゃいけないと思うと、やるせなくなるの! だから、初めては……」
好きな人がいい。
そう言いたかったのに……。
「好きな人じゃないなら、せめて心を許せるオミくんがいい……っ!」
私の唇は、嘘を紡いだ。
胸の中で渦巻くような熱を隠し、自分自身の心を大きく偽った。
わがままを言うのなら、胸に秘めてきた彼への想いもきちんと伝えればいい。
そうすれば、こんなどうしようもない願いだって、オミくんは少しくらい理解してくれたに違いない。
受け入れられなくても、彼なりに考えて言葉を選んでくれただろう。
けれど、意気地なしで弱い私は、振られてしまうことが怖くて……。この恋心を一番知ってほしいはずの男性に、大切な恋情を隠してしまった。
どれほどの後悔に繋がるのかを考えもせずに……。
それでも、私はバカみたいに願う。
嘘つきな唇はキスで塞いで。隠した本音にはどうか気づかないで――と。
無言だったオミくんが、眉間に皺を寄せる。
「……わかった」
数秒後、彼の唇から零された答えに、思わず瞠目してしまった。
本気なのか確かめようとした瞬間、オミくんの瞳に怒りとも悲しみともつかない光が宿った。
彼の本心が見えないのに、私はその鋭い視線を前に言葉を失う。
そんな中でも、今夜の父からの電話がオミくんを待っている間にかかってきてよかった……なんて頭の片隅で考えていた。
せめて夢を見たくて呟けば、オミくんが息を吐いた。
「どうかな。お見合い結婚で幸せになる夫婦はいるし、大恋愛の末に結婚して別れる夫婦もいるからね。お見合いだからと言って、幸せになれないわけじゃないと思う」
それは、彼なりの慰めだったのかもしれない。
優しいのにどこか他人事みたいな言い方で、胸がじくじくと疼くように痛む。
オミくんには関係のないことだから当たり前なのに、悲しくて仕方がなかった。
「キスくらい、好きな人としてみたかったな……」
ふと零れたのは、そんなこと。
いつもなら恥ずかしがっていたような言葉を口にしたのに、アルコールのせいか悲しみのせいか……。もう羞恥を抱く気力もない。
「ねぇ、キスってどんな感じ?」
投げやりな気持ちから振り向けば、彼がなんとも言えない表情をしていた。
「……さぁな」
別に訊きたかったわけじゃない。
むしろ、オミくんの女性関係なんて知りたくない。
彼に恋人がいた時期があるのは知っているけれど、これまではそういう話題に触れることはほとんどなかった。
だって、聞いてしまえば嫉妬でいっぱいになって、泣いてしまうだろうから……。
今だって、オミくんの過去をほんの少しだけ想像したくらいで、醜い感情がふつふつと湧いてくる。
「オミくんに教えてほしい」
半分は自棄だった。
けれど、半分は本気だった。
「キスも、その先も……教えて」
きっと、冗談めかして笑うべきだったのに、自ら無謀な場所へと飛び込んでいた。
意表を突かれたように目を見開く彼が、私の真意を読もうとしているのがわかる。
程なくして、深いため息が落とされた。
「大事に取っておけ」
オミくんらしくない突き放した言い方に、胸の奥が鈍い音を立てて軋む。
「大事に取ってきたよ……!」
直後、八つ当たりだと自覚しながらも、声を荒げてしまった。
「でも、このままだと好きでもない人に捧げなきゃいけないと思うと、やるせなくなるの! だから、初めては……」
好きな人がいい。
そう言いたかったのに……。
「好きな人じゃないなら、せめて心を許せるオミくんがいい……っ!」
私の唇は、嘘を紡いだ。
胸の中で渦巻くような熱を隠し、自分自身の心を大きく偽った。
わがままを言うのなら、胸に秘めてきた彼への想いもきちんと伝えればいい。
そうすれば、こんなどうしようもない願いだって、オミくんは少しくらい理解してくれたに違いない。
受け入れられなくても、彼なりに考えて言葉を選んでくれただろう。
けれど、意気地なしで弱い私は、振られてしまうことが怖くて……。この恋心を一番知ってほしいはずの男性に、大切な恋情を隠してしまった。
どれほどの後悔に繋がるのかを考えもせずに……。
それでも、私はバカみたいに願う。
嘘つきな唇はキスで塞いで。隠した本音にはどうか気づかないで――と。
無言だったオミくんが、眉間に皺を寄せる。
「……わかった」
数秒後、彼の唇から零された答えに、思わず瞠目してしまった。
本気なのか確かめようとした瞬間、オミくんの瞳に怒りとも悲しみともつかない光が宿った。
彼の本心が見えないのに、私はその鋭い視線を前に言葉を失う。
そんな中でも、今夜の父からの電話がオミくんを待っている間にかかってきてよかった……なんて頭の片隅で考えていた。
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