嘘と微熱〜甘美な一夜から始まる溺愛御曹司の愛執〜
一章 はじまりはひとつの嘘/二、天国から地獄へ【5】
「飲みすぎるのは茉莉花らしくないけど、そうしたくなるくらいのことがあったんだろ? 茉莉花は人に迷惑をかけることをすごく嫌がるのに、今日はそれをわかってても飲んだんじゃないか?」
オミくんが「どうしたい?」と私に判断を委ねた。
「話ならいくらでも聞くし、泣きたいなら泣いてもいいよ。俺に泣き顔を見られたくないなら、俺はしばらく外にいる」
彼のフォローはいつも絶妙だ。
私が話を聞いてほしいことを察してくれていて。けれど、ずっと涙をこらえているのを見透かしてくれていて。
それでいて、泣き顔を見られたくないところまで理解してくれている。
だからこそ、私はいつだってオミくんを求めてしまうのだろう。
(でも、絶対に泣かない……。自分が全力で問題にぶつかってないのに、泣くのはずるいから……)
喉の奥の熱を飲み込み、窓の方を向いてからヘッドレストに頭を預けた。
もし泣きそうになっても、彼と顔を合わせていなければ少しはごまかせるかもしれない……なんて淡い期待を持って。
「私ね、お見合いすることになったみたいなの」
曖昧な言い方をしたのは、まだ現実だと認めたくなかったから。
断言すれば、これでもうオミくんを想うことすら許されなくなると思った。
けれど、私はまだ……今はまだ、この恋心だけは大切にしていたい。
「仁科の社員で……条件がいい人なんだって。お父さんがすごく乗り気なの」
窓越しに見える彼がどんな顔をしているのか、よくわからない。
知りたい気持ちはあるのに、意気地なしの私は振り向く勇気がなかった。
「お見合いなんてしたくない……。でも、私はお父さんを……」
裏切れない、というのとは少しだけ違う。
ただ、どういう言葉にすれば適切なのかが思い浮かばず、口を噤んでしまった。
「安心させてあげたいんだろ?」
「え?」
「茉莉花がおじさんの言うことを聞いてるのは、おじさんを安心させてあげたいからじゃないか? もちろん、おじさんが茉莉花の言い分を聞き入れてくれないのもあるだろうけど、一番はおじさんをちゃんと安心させてあげたんだろ」
優しい双眸を私に向けているオミくんは、きっぱりと断言してしまう。
「そう……なのかな」
確かに、私は父を安心させたいとは思っている。
子どもの頃に病気がちだったせいで、両親には随分と迷惑をかけた。
兄や姉にも心配させてしまったけれど、両親の心情はその比ではなかったはず。
そういった日々が父の過保護っぷりに拍車をかけたのは明白で、母だって実家を出ることを嫌がっていた。
ふたりとも、きっと私に目の届くところにいてほしいに違いない。
けれど、それに甘え続けていれば自分自身の足で歩けなくなりそうで、本当はずっと怖かった。
だから、なにかひとつでも変えたくて一人暮らしを始め、私はもう大丈夫なんだと両親に安心してもらいたかった。
結局は上手くいっていないし、父を裏切れないとか自分の気持ちとかもあるけれど、それ以上に両親を安心させてあげたいというのが一番の本音なのかもしれない。
「茉莉花は優しいから、おじさんたちを傷つけるのが怖いんだ。だから、相手を傷つけるくらいなら、自分が我慢すればいいと思ってる」
私の本心を見透かした彼が、眉を小さく寄せる。
「でも、そしたら茉莉花の幸せは? それで本当にいいのか?」
よくない。ちっともよくない。
これでいいなんて思ったことは、今までに一度だってない。
ただ、今さら父の意見が変わるとは思えないし、どれだけぶつかろうとしても話を聞き入れてもらえない未来も見えている。
きっと、両親を傷つけたくない以上に、私は父と向き合うことを諦めるのが癖になってしまっている。
最初から無理だと思い、言葉を呑み込んでしまう。
それを募らせ続けた結果が、今。
詰まるところ、自業自得なのだ。
オミくんが「どうしたい?」と私に判断を委ねた。
「話ならいくらでも聞くし、泣きたいなら泣いてもいいよ。俺に泣き顔を見られたくないなら、俺はしばらく外にいる」
彼のフォローはいつも絶妙だ。
私が話を聞いてほしいことを察してくれていて。けれど、ずっと涙をこらえているのを見透かしてくれていて。
それでいて、泣き顔を見られたくないところまで理解してくれている。
だからこそ、私はいつだってオミくんを求めてしまうのだろう。
(でも、絶対に泣かない……。自分が全力で問題にぶつかってないのに、泣くのはずるいから……)
喉の奥の熱を飲み込み、窓の方を向いてからヘッドレストに頭を預けた。
もし泣きそうになっても、彼と顔を合わせていなければ少しはごまかせるかもしれない……なんて淡い期待を持って。
「私ね、お見合いすることになったみたいなの」
曖昧な言い方をしたのは、まだ現実だと認めたくなかったから。
断言すれば、これでもうオミくんを想うことすら許されなくなると思った。
けれど、私はまだ……今はまだ、この恋心だけは大切にしていたい。
「仁科の社員で……条件がいい人なんだって。お父さんがすごく乗り気なの」
窓越しに見える彼がどんな顔をしているのか、よくわからない。
知りたい気持ちはあるのに、意気地なしの私は振り向く勇気がなかった。
「お見合いなんてしたくない……。でも、私はお父さんを……」
裏切れない、というのとは少しだけ違う。
ただ、どういう言葉にすれば適切なのかが思い浮かばず、口を噤んでしまった。
「安心させてあげたいんだろ?」
「え?」
「茉莉花がおじさんの言うことを聞いてるのは、おじさんを安心させてあげたいからじゃないか? もちろん、おじさんが茉莉花の言い分を聞き入れてくれないのもあるだろうけど、一番はおじさんをちゃんと安心させてあげたんだろ」
優しい双眸を私に向けているオミくんは、きっぱりと断言してしまう。
「そう……なのかな」
確かに、私は父を安心させたいとは思っている。
子どもの頃に病気がちだったせいで、両親には随分と迷惑をかけた。
兄や姉にも心配させてしまったけれど、両親の心情はその比ではなかったはず。
そういった日々が父の過保護っぷりに拍車をかけたのは明白で、母だって実家を出ることを嫌がっていた。
ふたりとも、きっと私に目の届くところにいてほしいに違いない。
けれど、それに甘え続けていれば自分自身の足で歩けなくなりそうで、本当はずっと怖かった。
だから、なにかひとつでも変えたくて一人暮らしを始め、私はもう大丈夫なんだと両親に安心してもらいたかった。
結局は上手くいっていないし、父を裏切れないとか自分の気持ちとかもあるけれど、それ以上に両親を安心させてあげたいというのが一番の本音なのかもしれない。
「茉莉花は優しいから、おじさんたちを傷つけるのが怖いんだ。だから、相手を傷つけるくらいなら、自分が我慢すればいいと思ってる」
私の本心を見透かした彼が、眉を小さく寄せる。
「でも、そしたら茉莉花の幸せは? それで本当にいいのか?」
よくない。ちっともよくない。
これでいいなんて思ったことは、今までに一度だってない。
ただ、今さら父の意見が変わるとは思えないし、どれだけぶつかろうとしても話を聞き入れてもらえない未来も見えている。
きっと、両親を傷つけたくない以上に、私は父と向き合うことを諦めるのが癖になってしまっている。
最初から無理だと思い、言葉を呑み込んでしまう。
それを募らせ続けた結果が、今。
詰まるところ、自業自得なのだ。
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