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【完結】辛口バーテンダーの別の顔はワイルド御曹司

濘-NEI-

30.真犯人

 聞き慣れた電子音が静かな部屋に鳴り響いて道香は自分がソファーでうたた寝していたことに気が付いた。

 目を擦り、ソファーにもたれるように身体を起こす。時計を見ると24時前だ。電話が鳴り止む気配はない。

 仕方がないのでスマホを手に取ると、マサからの着信だった。

「はい」
『ようやく出たか』
「なんの用?」
『今家の前なんだ。とりあえず開けてくれるか』

 マサが言うのと同時にインターホンが鳴る。道香は聞こえるように大きく溜め息を吐き出すと、ソファーから立ち上がってインターホンのモニターを覗く。暗くてよく分からないが、電話の向こうでマサが開けてくれないかと言うので、道香はドアロックを外すと鍵を開けた。

「道香……」

 マサはスマホを耳元から落とすと、痛々しく憔悴しきった道香を抱きしめる。

「鍵、閉めたいんだけど」

 道香は鼻を鳴らすと、とりあえず玄関のドアを閉めさせろと、マサに腕を解くように言い聞かせる。

「道香、どうしたんだよ」
「どうもしないですよ。盛長さん」

 鍵を閉めると部屋に戻ってソファーに座る。もちろんマサのことは構わずに、一人でソファーにもたれて疲れ切ったように目元を腕で覆う。

 その様子を部屋の入り口で見ていたマサが道香の隣に腰掛けると、肩を抱くのでそれを拒む。

「気安く触るのやめてもらっていいですか」

 自分で思うより冷淡な声が出た。マサは驚いたように目を見開いて固まっている。

「で?公私共にお忙しい専務がこんな夜中になんの用事ですか」

 道香はソファーにもたれて目元を覆ったままマサに話し掛ける。

「あのな道香。頼むから普通に話をさせてくれ」

 マサは道香の腕をどかせると、虚な目で天井を見上げる道香に頭を下げる。

「謝罪なら必要ないですよ。あなたを簡単に信じた私の責任なので」

「おい道香!」
「馴れ馴れしく名前呼ばないで貰えます?」

 態度を変えようとしない道香に、マサは困ったように息を吐き出すと、おもむろにスマホを取り出して写真を見るように言う。

「警察に届けたので現物はないが、芝田にクスリを盛られた。お前も使われたレイプドラッグの一種の睡眠薬だ」

 道香はチラリと視線だけ投げてスマホに映し出された錠剤を見た。

「で、それが私と何の関係があるんですか」
「タクミを焚き付けたのが芝田だからだ」
「……?」

 意味が分からず、道香はようやくマサの顔を見た。

「社内で俺がアスタリスクに出入りしてるのを知ってるやつはいない。だが芝田はそれを知っていた。そしてあの雨の日に道香と俺が、俺の家に行くのを見てた。と言うか後をつけてきてた」

「どういうこと?」
「あの女は俺のストーカーだ」

 マサは以前から生活に違和感を感じて個人的に興信所を雇って自分の身辺で不審者がいないか調べていたと言う。

「タクミにクスリを回してた証拠も出た。さっきまで警察に居たんだよ。戸熊さんに聞いてくれれば分かることだ」

「じゃあ、マサさんが原因なの?」
「俺も被害者だけどな」

 話が混み入りすぎて頭が追い付かない。道香は内容を整理しようとソファーに浅く座り直す。

「芝田は懲戒解雇。そして今回の件で拘留されてる」

 戸熊さんが今回の嫌がらせの電話の映像が欲しいと言っていたとマサは淡々と話す。

「それにしても話が出来すぎてない?」
「何がだ」

「なぜ彼女は、嵯峨崎に私を襲うように指示を出したの?」
「お前が雨の日俺んちから半日以上出てこなかったのを見た。ただそれだけの私怨だそうだ」

 タクミにコンタクトを取り、彼を焚き付けてクスリを渡し、道香を襲うように仕向けたのだという。しかし目論見は外れ、それが切っ掛けになり道香とマサの関係は一層強固になった。

「千葉もクスリを所持してたのは知ってるか?」
「知らない。聞いてない」

「戸熊さんの話では、千葉も芝田に金を握らされてお前を襲ったと証言してるらしい」
「なんでそこまで……」
「ストーカーの考えることまで知るか」

 マサは興信所のスタッフが撮影したらしい写真をいくつか見せてくれる。

「現物は警察に証拠として出したからスマホで悪いが確認してくれ」

 画面には人混みを避けて何かやり取りする芝田とタクミが写っている。芝田の無邪気な笑顔は道香をゾッとさせる。

「俺がいる時間に見たことはないが、タクミと店で会ってた可能性も高い。お前も会ってるかも知れない」

 それも今調べて貰ってる。マサはスマホを手元に戻すと、道香。と申し訳なさそうに名前を呼ぶ。

「もっと早く手を打てるはずだったのに、完全に俺に非がある。申し訳ない」

「本当にこれで終わるの?」
「主犯は芝田だ。今は余罪がないか戸熊さんたちが必死に調べてくれてる」

「転居先が漏れてる可能性は?」
「今のところそれは無い。興信所もしばらく芝田に張り付いてくれていたが、不動産屋に行った時は後をつけられてはいない」

「でも秘書なんだよね、個人情報なんて簡単に盗めるんじゃないの」

「あの女は第二秘書だからせいぜい商談のスケジュール管理程度しか任してない。そもそもストーカーだと把握して敢えて身近に置いて様子を見ていたからその辺りは注意を払って対処してた」

「なぜクスリを盛られるような失態を?」
「急な会議が入った連絡はしただろう?あの後商談のために移動すると聞かされて、移動中に芝田から渡された水を飲んだんだ。蓋は開いてなかったから油断した」

 それを聞いてゾッとする。

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