【完結】辛口バーテンダーの別の顔はワイルド御曹司
24.引っ越しのバタバタ
翌日、月曜日。
道香は出勤するとすぐに、上司である室長の村井を会議スペースに呼び出し、転居のために有休を使いたい旨を相談をした。
突然のことなので当然の如く理由を聞かれたが、粘着質のストーカーにつきまとわれていると話すに留め、ある事件で警察が拘留している今しかチャンスが無いと伝え、付き合ってる恋人と同居することにしたと、嘘ではないが真実は伏せて報告する。
そこまで聞くと村井は驚きはしていたが、事情が事情なので急ぐ転居なのだろうと、あっさり有休の許可を出してくれた。
しかし申し訳なさそうに、木曜の商談だけはやはり交代が利かないので出勤して欲しいと言われ、そのつもりでしたと返すと、今日も有休扱いにするからすぐに帰るよう心配と労いの言葉まで掛けてもらった。
道香はデスクに戻ると、有休申請書を作成し、今日から水曜、金曜の四日間分をプリントアウトして村井に提出すると早々と帰路についた。
「まさか今日も有休にしてもらえるとは」
電車に揺られながら道香はボソリと呟く。
ラッシュを過ぎた電車はかなり空いていて、道香は座席に座ってドッと押し寄せた疲れと戦いながら、自宅最寄駅で降りた。
午前中の明るいうちとは言え、時折振り返ったりしながら、身辺の変化には気を配って自宅まで歩いて帰宅する。
家に入るとすぐに鍵を閉め、ドアロックも忘れずに掛ける。
「はぁ、このピリピリはいつ終わるんだろうか……戸熊さんに連絡しておこう」
渡された名刺を見ながら番号をプッシュして電話を掛ける。
女性が電話に出たので、自分が被害に遭った暴行事件を戸熊に担当してもらっている旨を伝えて呼び出して貰う。しばらく待たされたが電話口から戸熊の声した。
「お忙しいところ急にご連絡して申し訳ありません」
『いえ、構いませんよ。その後ご不安なことはありませんか?』
「その件で転居を決めたのですが、勤務先と自宅が把握されている可能性があるのでご相談がしたくて」
『なるほど。では転居が済むまでの期間は重点的に石立さんの自宅付近の警らを強化するよう手配します。あとは会社の方ですね。表沙汰にはしたくないでしょうし、別の名目で出退勤の時間帯に警ら隊などを会社付近に回らせるようにします』
「すみません。こんな個人的なことでご迷惑をお掛けして」
『石立さんの場合は、千葉の件もありますし、嵯峨崎が狡猾ですからね。調べたところ被害女性がかなり居ましてね、今裏付けをとっているところです。詳しくはお話しできませんが、こちらの最善策としては嵯峨崎が直接、あるいは間接的に危害を加えられない状態で拘留中ですので、何卒ご理解をいただきたい』
「充分です。警ら強化の件、ご検討くださってありがとうございます。では、お忙しいところ失礼いたしました」
電話を切り戸熊とのやり取りを終えると、再び疲れが出てソファーに倒れ込む。
「はぁ……引っ越せば何か変わるのかな。いや、マサさんがいるから大丈夫!」
浮かび上がる不安を掻き消すと、早速ネットで検索して何件かリサイクル業者に問い合わせをする。マサが来る予定の水曜日の夕方以降に引き取りが可能なところを探した。
四軒目でやっと対応可能の回答があり、二束三文を覚悟の上で、引き取って貰う家具の概要を伝えて住所と連絡先を残す。名前を伝えるのは躊躇われたが、苗字だけで良さそうなので名前を伝える。
次に引っ越し業者に問い合わせをすると、今日見積もりで金曜転居が対応可能な業者を探す。こちらは閑散期なのかすぐに対応可能な業者が見つかり、出来れば女性スタッフを手配してほしい旨を伝えると、今日の15時に見積もりに来てもらえる話になった。
「そうだ、一応マサさんに連絡入れとこう」
メッセージアプリをタップして、今日から有休を取った件、戸熊からの回答の件、業者手配が済んだ件を端的に報告する。向こうは仕事中なので既読にならないが、手が空いた時に確認はしてくれるだろう。
「さて。まず家具の中身の片付けだな」
道香は早速旅行用の大きなトランクケースを取り出すと、チェストとクローゼットの中の洋服を取り出して入る限りを詰め込む。
同様にボストンバッグや大きめのトートバックも利用して、本やCDなど、売り払う家具に収納している物を出来るだけコンパクトにまとめる。
木曜は出勤とマサの実家への挨拶、金曜は引っ越しなのでその辺りは考えて、必要な服はハンガーに掛けてクローゼットにしまう。
「あ、今のうちに洗濯と布団干しとこう」
洗濯機のスタートボタンを押すと、ロフトに移動して布団を回収してベランダに干す。シーツは迷った結果、そのままにしておいた。
布団に関しては最終日まで使うので、引っ越し後に処分を考えることにする。
それを終えると、処分予定の家電に赤いマスキングテープを貼っていく。
「あ、冷蔵庫の中身!」
小さな一人用の冷蔵庫を開けると、それなりに食材が入っていた。日持ちする物は別として、出来れば水曜までに片付けたい。
「マサさんにご飯食べに来てもらおうかな」
思い立ってまたスマホを手に取ると、何度もごめんとスタンプを送り、食材の件の相談を兼ねて夜はうちに来れないか尋ねてみる。
「よし。もし来れなくても三食自炊で自分でなんとかしよう」
フロアモップを掛けてザッと掃除すると、早速昼ご飯を支度する。野菜を沢山消費できるのでスープを作る。食パンが余っているのでトーストしてそれと食べれば良い。
道香は時間を確認すると、もう12時半になっている。
慌てて鍋の火を弱めると、洗濯機から洗濯物を取り出してベランダに干して乾かす。
ピコンとメッセージを知らせる着信音がなったのでスマホを手に取ると、マサから返信が来た。
今日は早く上がれるそうなので、今夜早速来てくれるらしい。概要は把握したので詳細は来た時に聞くと書いてある。
道香は了解とスタンプを押して、スープの出来上がりを確認し、味を整えた。
リビングに食事を用意すると、慶子に持たされたポテトサラダも盛り付けて昼食をとる。野菜たっぷりの生姜をきかせた中華風スープと、トーストしたパンを切ってポテトサラダを乗せて食べる。
ふと、めぐみの見合いの件を思い出し、転居の報告を兼ねてメッセージを送った。
バタバタと昼食を終えると一時を過ぎている。慌てて食器を洗って片付けると、今度は持っていく家電に青いマスキングテープを貼っていく。
テレビやパソコン、コンポやプリンターなど急いで処分する必要がなく、買い直さずとも有れば助かる物だ。
それが終わると、処分する家具に緑のマスキングテープを貼っていく。これに関してはほぼある物全てなので、中身を取り出して整理しながら作業を進める。
一目惚れして買って大事に使い込んだドレッサーを見ると、処分するのを迷う。
「物の処分って、意外と疲れるんだな」
溜め息を吐き出してドレッサーにも緑のマスキングテープを貼り付けた。
残ったのは転居後に処分を検討する物だ。主に食器や掃除機などの掃除用具。念のため貼れる物には黄色のマスキングテープを貼って、スペースの空いたクローゼットにまとめて入れ込んだ。
ついでに風呂場やトイレの掃除を済ませると、ちょうど良いタイミングで引っ越し業者から電話があった。予定通り15時には見積もりに来るらしいので、それを確認して電話を切ると14時を回っている。
「時間が経つのが恐ろしく早いことよ……」
道香は盛大に溜め息を吐いて肩を落とした。
道香は出勤するとすぐに、上司である室長の村井を会議スペースに呼び出し、転居のために有休を使いたい旨を相談をした。
突然のことなので当然の如く理由を聞かれたが、粘着質のストーカーにつきまとわれていると話すに留め、ある事件で警察が拘留している今しかチャンスが無いと伝え、付き合ってる恋人と同居することにしたと、嘘ではないが真実は伏せて報告する。
そこまで聞くと村井は驚きはしていたが、事情が事情なので急ぐ転居なのだろうと、あっさり有休の許可を出してくれた。
しかし申し訳なさそうに、木曜の商談だけはやはり交代が利かないので出勤して欲しいと言われ、そのつもりでしたと返すと、今日も有休扱いにするからすぐに帰るよう心配と労いの言葉まで掛けてもらった。
道香はデスクに戻ると、有休申請書を作成し、今日から水曜、金曜の四日間分をプリントアウトして村井に提出すると早々と帰路についた。
「まさか今日も有休にしてもらえるとは」
電車に揺られながら道香はボソリと呟く。
ラッシュを過ぎた電車はかなり空いていて、道香は座席に座ってドッと押し寄せた疲れと戦いながら、自宅最寄駅で降りた。
午前中の明るいうちとは言え、時折振り返ったりしながら、身辺の変化には気を配って自宅まで歩いて帰宅する。
家に入るとすぐに鍵を閉め、ドアロックも忘れずに掛ける。
「はぁ、このピリピリはいつ終わるんだろうか……戸熊さんに連絡しておこう」
渡された名刺を見ながら番号をプッシュして電話を掛ける。
女性が電話に出たので、自分が被害に遭った暴行事件を戸熊に担当してもらっている旨を伝えて呼び出して貰う。しばらく待たされたが電話口から戸熊の声した。
「お忙しいところ急にご連絡して申し訳ありません」
『いえ、構いませんよ。その後ご不安なことはありませんか?』
「その件で転居を決めたのですが、勤務先と自宅が把握されている可能性があるのでご相談がしたくて」
『なるほど。では転居が済むまでの期間は重点的に石立さんの自宅付近の警らを強化するよう手配します。あとは会社の方ですね。表沙汰にはしたくないでしょうし、別の名目で出退勤の時間帯に警ら隊などを会社付近に回らせるようにします』
「すみません。こんな個人的なことでご迷惑をお掛けして」
『石立さんの場合は、千葉の件もありますし、嵯峨崎が狡猾ですからね。調べたところ被害女性がかなり居ましてね、今裏付けをとっているところです。詳しくはお話しできませんが、こちらの最善策としては嵯峨崎が直接、あるいは間接的に危害を加えられない状態で拘留中ですので、何卒ご理解をいただきたい』
「充分です。警ら強化の件、ご検討くださってありがとうございます。では、お忙しいところ失礼いたしました」
電話を切り戸熊とのやり取りを終えると、再び疲れが出てソファーに倒れ込む。
「はぁ……引っ越せば何か変わるのかな。いや、マサさんがいるから大丈夫!」
浮かび上がる不安を掻き消すと、早速ネットで検索して何件かリサイクル業者に問い合わせをする。マサが来る予定の水曜日の夕方以降に引き取りが可能なところを探した。
四軒目でやっと対応可能の回答があり、二束三文を覚悟の上で、引き取って貰う家具の概要を伝えて住所と連絡先を残す。名前を伝えるのは躊躇われたが、苗字だけで良さそうなので名前を伝える。
次に引っ越し業者に問い合わせをすると、今日見積もりで金曜転居が対応可能な業者を探す。こちらは閑散期なのかすぐに対応可能な業者が見つかり、出来れば女性スタッフを手配してほしい旨を伝えると、今日の15時に見積もりに来てもらえる話になった。
「そうだ、一応マサさんに連絡入れとこう」
メッセージアプリをタップして、今日から有休を取った件、戸熊からの回答の件、業者手配が済んだ件を端的に報告する。向こうは仕事中なので既読にならないが、手が空いた時に確認はしてくれるだろう。
「さて。まず家具の中身の片付けだな」
道香は早速旅行用の大きなトランクケースを取り出すと、チェストとクローゼットの中の洋服を取り出して入る限りを詰め込む。
同様にボストンバッグや大きめのトートバックも利用して、本やCDなど、売り払う家具に収納している物を出来るだけコンパクトにまとめる。
木曜は出勤とマサの実家への挨拶、金曜は引っ越しなのでその辺りは考えて、必要な服はハンガーに掛けてクローゼットにしまう。
「あ、今のうちに洗濯と布団干しとこう」
洗濯機のスタートボタンを押すと、ロフトに移動して布団を回収してベランダに干す。シーツは迷った結果、そのままにしておいた。
布団に関しては最終日まで使うので、引っ越し後に処分を考えることにする。
それを終えると、処分予定の家電に赤いマスキングテープを貼っていく。
「あ、冷蔵庫の中身!」
小さな一人用の冷蔵庫を開けると、それなりに食材が入っていた。日持ちする物は別として、出来れば水曜までに片付けたい。
「マサさんにご飯食べに来てもらおうかな」
思い立ってまたスマホを手に取ると、何度もごめんとスタンプを送り、食材の件の相談を兼ねて夜はうちに来れないか尋ねてみる。
「よし。もし来れなくても三食自炊で自分でなんとかしよう」
フロアモップを掛けてザッと掃除すると、早速昼ご飯を支度する。野菜を沢山消費できるのでスープを作る。食パンが余っているのでトーストしてそれと食べれば良い。
道香は時間を確認すると、もう12時半になっている。
慌てて鍋の火を弱めると、洗濯機から洗濯物を取り出してベランダに干して乾かす。
ピコンとメッセージを知らせる着信音がなったのでスマホを手に取ると、マサから返信が来た。
今日は早く上がれるそうなので、今夜早速来てくれるらしい。概要は把握したので詳細は来た時に聞くと書いてある。
道香は了解とスタンプを押して、スープの出来上がりを確認し、味を整えた。
リビングに食事を用意すると、慶子に持たされたポテトサラダも盛り付けて昼食をとる。野菜たっぷりの生姜をきかせた中華風スープと、トーストしたパンを切ってポテトサラダを乗せて食べる。
ふと、めぐみの見合いの件を思い出し、転居の報告を兼ねてメッセージを送った。
バタバタと昼食を終えると一時を過ぎている。慌てて食器を洗って片付けると、今度は持っていく家電に青いマスキングテープを貼っていく。
テレビやパソコン、コンポやプリンターなど急いで処分する必要がなく、買い直さずとも有れば助かる物だ。
それが終わると、処分する家具に緑のマスキングテープを貼っていく。これに関してはほぼある物全てなので、中身を取り出して整理しながら作業を進める。
一目惚れして買って大事に使い込んだドレッサーを見ると、処分するのを迷う。
「物の処分って、意外と疲れるんだな」
溜め息を吐き出してドレッサーにも緑のマスキングテープを貼り付けた。
残ったのは転居後に処分を検討する物だ。主に食器や掃除機などの掃除用具。念のため貼れる物には黄色のマスキングテープを貼って、スペースの空いたクローゼットにまとめて入れ込んだ。
ついでに風呂場やトイレの掃除を済ませると、ちょうど良いタイミングで引っ越し業者から電話があった。予定通り15時には見積もりに来るらしいので、それを確認して電話を切ると14時を回っている。
「時間が経つのが恐ろしく早いことよ……」
道香は盛大に溜め息を吐いて肩を落とした。
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