【完結】辛口バーテンダーの別の顔はワイルド御曹司
18.近付く距離
マサは事件の日に電話をくれた。確かになぜ電話を掛けて来たか分からない他愛無い会話しか交わさなかったが、あの連絡のおかげで道香は酷い被害に遭わずに済んだ。
「あのSOSの電話で俺は好かれてるかも知れないって、むしろ頼りにされてるんだと思ったら、あんなに憔悴して傷付いてる道香を無理にでも自分の手で、俺自身で上書きしたかった」
つけ入って、思いも伝えず身体を奪ったのは本当に自己中心的なエゴだったとマサが頭を下げて、言い訳のように続ける。
「あんな時に好きだって伝えても、同情されてると道香が思うのは分かってた。だからって言わずにいたことでもっと傷付けたな」
自嘲して髪を掻き乱すと、もっと早く電話してれば違ったなと戻せない時間を悔いるように呟く。
マサは自分と同じように出会った日には興味本位でも好意を寄せてくれていた。雨宿りのあの時に、少し勇気を振り絞っていれば、道香はそう思うと涙が溢れてくる。
違うのマサさんと呟くと道香は泣きながら話始める。
「雨宿りの時……凄くドキドキして、だけど尻軽だって思われたくなくて。でも、重なった手が熱くて、なかなか寝付けなくて。私が勇気を出して伝えてれば」
「俺も、軽い遊びと勘違いされたとしても、きちんとあの時に気持ちを伝えてればって思う」
決して戻せない後悔を二人で口にする。
「道香、大事なことだ。俺はお前が好きだしずっとそばにいて、どんな時も守ってやりたい」
「マサさん……」
「俺はお前が好きだよ」
マサは道香を抱きしめると、優しく包むように髪や背中を撫でる。その腕の中の心地好さを思い出し、道香の目からまた涙が溢れる。
「頼むから泣くな道香。俺はどうした良い?なにをしてやれる?」
腕を緩めて道香の髪を掻き上げると、その顔を覗き込んで悲痛な声で訴える。
「私はマサさんが好き。でも、あんな目に遭うような危機感のないどうしようもない女なの」
泣きじゃくりながらそう言うと、道香は俯いてマサから視線を外す。
マサが大きく溜め息を吐き出したので、道香は呆れられたと更に心が抉られる気分だった。
「道香、自分で言うのもなんだけど、俺はある程度将来が保証された優良物件だ」
マサは再び道香の髪を掻き上げて頬に手を添えると愛おしそうに撫でる。
「確かにお前は今までいい恋愛や恋をしてこなかったのかも知れない。もしかしたら俺に飽きるかも知れない。だけど俺は道香を手放す気はない。そんなダメ男にまた捕まったんだよ」
「優良なのかダメなのかどっちなのよ」
「肩書きだけなら立派だろ」
「そうね」
「でもお前がいてくれないと寂しい」
「お前じゃない、道香だよ」
道香はようやく笑顔を浮かべると、随分短く切ったんだねと呟いて、整髪料で整えられたマサの髪を撫でる。
「一応な。役員があの髪型はマズいって言われて仕方なく」
「似合ってるよ」
「そうか。そりゃ良かった」
長くて寝乱れてる姿も好きだったけどと道香が言うと、マサは困ったように笑った。
「飯はもういいか?」
「うん」
「なら風呂に入るか」
「うん」
「なら冷えるから湯を貯めないとな」
掃除サボってたから洗ってくるわとネクタイを外し、ジャケットとベストをその場で脱ぐと、マサは腕捲りしながらバスルームへ向かった。
道香はマサの匂いがするジャケットとベストをギュッと抱き寄せると、シワにならないようにベッドルームのクローゼットを開けてハンガーに掛けた。
ベッドに座って壁時計を見ると23時を過ぎている。バスルームからマサが戻ると、湯船が張られる水音が微かに聞こえる。
マサは道香の隣に座ると、肩を抱き寄せて髪の上からキスをしながら、何か思い出したらしい。
「引越しの話をし忘れてたな」
「ああ!」
思い出したように道香が大きく反応する。
「ここは学生の時から住んでる親の持ち家なんだ」
「そうなんだ」
さすが御曹司だなと道香はスッと真顔になる。
「実はアスタリスクのオーナーが怪我して入院してたんだ。でもようやく退院の目処もついた」
「恩があるとは言ってたけど、どうしてアスタリスクで働いてるの?」
「大学の頃、クサクサしててな。家業なんか継ぎたくねえって荒れてたんだ」
「へえ……」
「たまたまその時にバイトをしてみないか声を掛けられたんだ」
「お世話になったってそう言うこと?」
「いや、実はオーナーは親父の先輩でな。グラブレのパタンナーだった人なんだ」
「え、元社員ってこと?」
「親父から放蕩息子の話を聞いて、なんとか力になりたいって、一時的に親代わりをしてくれた人なんだよ」
「そうだったんだ。じゃあ具合いが悪い間だけヘルプで戻ってたって事?」
「いや、気分転換になるからそれは関係なくちょくちょく顔出してるんだよ」
色んな人が出入りするだろう?とマサは言うと、慢心しないためにあそこは大事な場所なのだと説明してくれた。
「実家の仕事に向き合えるようになったのは、元パタンナーの先輩の教えがあったからなの?」
「そうだな。オーナーから聞いてなければ、家業に魅力は感じてなかっただろうな」
「なるほど、それは恩人だね」
「道香のことも気に掛けてたから今度一緒に行こうな」
「うん。一緒になら大丈夫だと思う」
道香は無意識に固くなってしまう表情を和らげると、お店に罪はないもんねと苦笑いする。
「それで、道香は俺と住むのは嫌か」
「急で驚いてるけど嫌ではないよ。ちょうど引っ越しを考え始めてたし」
「そうなのか?」
「うん。学生時代から同じ部屋で。学生向けの物件だし、そろそろ出ないといけない気もしてて」
マサは役職が変わったこともあり、今回の騒動も踏まえて、セキュリティのしっかりした場所に住まいを変えるつもりだと言った。
確かに会社の、それもグラブレのような企業の役員であれば、今のマンションでは心許ない部分があるのかも知れない。
「俺、趣味はバイク程度で、それに仕事が忙しいから使う機会がなくて無駄に金は貯まってるんだ」
「ん?」
「新居、買おうと思ってる」
「え!買うの」
ちょっとスーパーで大根を買うのとは訳が違う。なのにマサはさらりと言ってのける。
「もちろん道香も住む家だから、条件を絞ってその中から一緒に選んでもらう。だけど今回のことも有るし、あまり時間は取りたくない。それでも良いか」
「マサさん、本当に私なんかで良いの?」
「今更だろ」
「でも……」
「俺はあんまりそういう表現とか得意じゃないし、何度も言うのは照れるけど、結婚を見据えてきちんと付き合っていけたらと思ってる」
「けっ……こん?」
「まだ32だけど、役員になったことで親父がやかましくてな。付き合ってる相手がいる話はしたから、無理に見合いをさせるつもりはないだろうけど、結婚の話はうるさいくらいされてんだよ」
げんなりと気が滅入ったように吐き出すと、だからって仕事辞めて家に入れとかそういう話じゃないからなとマサは改める。
「とりあえずその辺りは追々考えてくれれば良いし、俺は道香となら上手くやっていけると思ってるから」
普通に恋人同士同棲するくらいに考えてくれれば良いからと、マサは結婚というワードを会話から取っ払った。
「じゃ、とりあえず風呂入るか」
「あ、うん」
道香は未だ結婚というパワーワードと心の中で格闘していた。
「あのSOSの電話で俺は好かれてるかも知れないって、むしろ頼りにされてるんだと思ったら、あんなに憔悴して傷付いてる道香を無理にでも自分の手で、俺自身で上書きしたかった」
つけ入って、思いも伝えず身体を奪ったのは本当に自己中心的なエゴだったとマサが頭を下げて、言い訳のように続ける。
「あんな時に好きだって伝えても、同情されてると道香が思うのは分かってた。だからって言わずにいたことでもっと傷付けたな」
自嘲して髪を掻き乱すと、もっと早く電話してれば違ったなと戻せない時間を悔いるように呟く。
マサは自分と同じように出会った日には興味本位でも好意を寄せてくれていた。雨宿りのあの時に、少し勇気を振り絞っていれば、道香はそう思うと涙が溢れてくる。
違うのマサさんと呟くと道香は泣きながら話始める。
「雨宿りの時……凄くドキドキして、だけど尻軽だって思われたくなくて。でも、重なった手が熱くて、なかなか寝付けなくて。私が勇気を出して伝えてれば」
「俺も、軽い遊びと勘違いされたとしても、きちんとあの時に気持ちを伝えてればって思う」
決して戻せない後悔を二人で口にする。
「道香、大事なことだ。俺はお前が好きだしずっとそばにいて、どんな時も守ってやりたい」
「マサさん……」
「俺はお前が好きだよ」
マサは道香を抱きしめると、優しく包むように髪や背中を撫でる。その腕の中の心地好さを思い出し、道香の目からまた涙が溢れる。
「頼むから泣くな道香。俺はどうした良い?なにをしてやれる?」
腕を緩めて道香の髪を掻き上げると、その顔を覗き込んで悲痛な声で訴える。
「私はマサさんが好き。でも、あんな目に遭うような危機感のないどうしようもない女なの」
泣きじゃくりながらそう言うと、道香は俯いてマサから視線を外す。
マサが大きく溜め息を吐き出したので、道香は呆れられたと更に心が抉られる気分だった。
「道香、自分で言うのもなんだけど、俺はある程度将来が保証された優良物件だ」
マサは再び道香の髪を掻き上げて頬に手を添えると愛おしそうに撫でる。
「確かにお前は今までいい恋愛や恋をしてこなかったのかも知れない。もしかしたら俺に飽きるかも知れない。だけど俺は道香を手放す気はない。そんなダメ男にまた捕まったんだよ」
「優良なのかダメなのかどっちなのよ」
「肩書きだけなら立派だろ」
「そうね」
「でもお前がいてくれないと寂しい」
「お前じゃない、道香だよ」
道香はようやく笑顔を浮かべると、随分短く切ったんだねと呟いて、整髪料で整えられたマサの髪を撫でる。
「一応な。役員があの髪型はマズいって言われて仕方なく」
「似合ってるよ」
「そうか。そりゃ良かった」
長くて寝乱れてる姿も好きだったけどと道香が言うと、マサは困ったように笑った。
「飯はもういいか?」
「うん」
「なら風呂に入るか」
「うん」
「なら冷えるから湯を貯めないとな」
掃除サボってたから洗ってくるわとネクタイを外し、ジャケットとベストをその場で脱ぐと、マサは腕捲りしながらバスルームへ向かった。
道香はマサの匂いがするジャケットとベストをギュッと抱き寄せると、シワにならないようにベッドルームのクローゼットを開けてハンガーに掛けた。
ベッドに座って壁時計を見ると23時を過ぎている。バスルームからマサが戻ると、湯船が張られる水音が微かに聞こえる。
マサは道香の隣に座ると、肩を抱き寄せて髪の上からキスをしながら、何か思い出したらしい。
「引越しの話をし忘れてたな」
「ああ!」
思い出したように道香が大きく反応する。
「ここは学生の時から住んでる親の持ち家なんだ」
「そうなんだ」
さすが御曹司だなと道香はスッと真顔になる。
「実はアスタリスクのオーナーが怪我して入院してたんだ。でもようやく退院の目処もついた」
「恩があるとは言ってたけど、どうしてアスタリスクで働いてるの?」
「大学の頃、クサクサしててな。家業なんか継ぎたくねえって荒れてたんだ」
「へえ……」
「たまたまその時にバイトをしてみないか声を掛けられたんだ」
「お世話になったってそう言うこと?」
「いや、実はオーナーは親父の先輩でな。グラブレのパタンナーだった人なんだ」
「え、元社員ってこと?」
「親父から放蕩息子の話を聞いて、なんとか力になりたいって、一時的に親代わりをしてくれた人なんだよ」
「そうだったんだ。じゃあ具合いが悪い間だけヘルプで戻ってたって事?」
「いや、気分転換になるからそれは関係なくちょくちょく顔出してるんだよ」
色んな人が出入りするだろう?とマサは言うと、慢心しないためにあそこは大事な場所なのだと説明してくれた。
「実家の仕事に向き合えるようになったのは、元パタンナーの先輩の教えがあったからなの?」
「そうだな。オーナーから聞いてなければ、家業に魅力は感じてなかっただろうな」
「なるほど、それは恩人だね」
「道香のことも気に掛けてたから今度一緒に行こうな」
「うん。一緒になら大丈夫だと思う」
道香は無意識に固くなってしまう表情を和らげると、お店に罪はないもんねと苦笑いする。
「それで、道香は俺と住むのは嫌か」
「急で驚いてるけど嫌ではないよ。ちょうど引っ越しを考え始めてたし」
「そうなのか?」
「うん。学生時代から同じ部屋で。学生向けの物件だし、そろそろ出ないといけない気もしてて」
マサは役職が変わったこともあり、今回の騒動も踏まえて、セキュリティのしっかりした場所に住まいを変えるつもりだと言った。
確かに会社の、それもグラブレのような企業の役員であれば、今のマンションでは心許ない部分があるのかも知れない。
「俺、趣味はバイク程度で、それに仕事が忙しいから使う機会がなくて無駄に金は貯まってるんだ」
「ん?」
「新居、買おうと思ってる」
「え!買うの」
ちょっとスーパーで大根を買うのとは訳が違う。なのにマサはさらりと言ってのける。
「もちろん道香も住む家だから、条件を絞ってその中から一緒に選んでもらう。だけど今回のことも有るし、あまり時間は取りたくない。それでも良いか」
「マサさん、本当に私なんかで良いの?」
「今更だろ」
「でも……」
「俺はあんまりそういう表現とか得意じゃないし、何度も言うのは照れるけど、結婚を見据えてきちんと付き合っていけたらと思ってる」
「けっ……こん?」
「まだ32だけど、役員になったことで親父がやかましくてな。付き合ってる相手がいる話はしたから、無理に見合いをさせるつもりはないだろうけど、結婚の話はうるさいくらいされてんだよ」
げんなりと気が滅入ったように吐き出すと、だからって仕事辞めて家に入れとかそういう話じゃないからなとマサは改める。
「とりあえずその辺りは追々考えてくれれば良いし、俺は道香となら上手くやっていけると思ってるから」
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