【完結】辛口バーテンダーの別の顔はワイルド御曹司
8.やっぱり彼女が居るのかな
ゴロゴロと唸るような音に続いてドンっと大地が揺れるような、耳をつんざく大きな音がして道香は目が覚めた。
どうやら雷が近くに落ちたようだ。眠り始めてからどれくらい経ったのか、遮光カーテンのせいで時間はよく分からない。
すぐに身体を起こそうとして違和感に気づく。なぜなら道香はマサに後ろから抱きしめられていたからだ。
その腕を離そうと、マサの腕を掴むがびくともしない。
「ちょっと、腕離して」
寝ているマサに声を掛けてみるが、熟睡しているのか返事はない。
そのかわり、道香の首元に顔を埋めてキスをするようなそぶりを見せると「あや」と名前を呼んだ。
「道香だっつの」
誰と間違ってるのかと苦笑いして、道香は少しだけ胸がチクリとした。そんな女性がいるのに他の女をベッドにあげるとは。
マサに話をしたからだろうか、昔の彼氏を思い出してなんだかいたたまれない気持ちになって泣きそうになる。
ゆっくりと髪を撫でる大きな掌に驚きながらも、マサは「あや」を抱いて眠っているのだと、勘違いしないように思えば思うほどしんどくなった。
心の中で思う。惚れっぽくて盲信するタイプ。マサにそう言われたことを思い出す。
タクミとは別の意味でマサのことが気になる自分に嫌気がさす。
中途半端な自分を叱咤するように、また大きな雷鳴が轟いた。
「ん?お前震えてないか?起きてたのか」
「音に驚いてさっき起きた」
マサの寝起きの声は少し掠れている。まだ眠い様子だが、道香は今何時だろうと時間を気にした。
「18時前だな」
寝室入り口の壁掛け時計を見るとマサは道香を腕枕する手で器用に目を擦る。
「てことは?半日寝ちゃったね」
「まあまだ雨止んでないし、なんなら酷くなってるな」
無意識なのか、道香を抱き寄せる腕を強めるとまだ眠いなとマサは首筋に顔を埋める。
「私、抱き枕じゃないんだけど」
「人の肌ってあったかいよな」
一層強まる腕の呪縛に、道香は溜め息を吐き出す。
「喉渇いた」
「冷蔵庫にさっきの水入ってる」
そう言うとようやく道香を抱きしめていた腕を離してマサは仰向けになり、眠そうに眉を寄せて額に腕をあてた。
ベッドから出るとひんやりと冷たいフローリングを歩き、水と酒しか入っていない冷蔵庫からペットボトルを取り出す。
グラスを借りようかと思ったが、風呂上がりにそのまま口をつけて飲んだことを思い出し、道香はペットボトルからそのまま水を飲んだ。
二日酔いとまではいかないが、頭がボッーっとするのは久々の深酒のせいかも知れない。
「俺も喉渇いたから持ってきて」
冷蔵庫に手を掛けると、ベッドからマサが道香を呼び止める。
「マサさんて普段なんの仕事してんの」
「なんで。俺その話した?」
「タクミさんが言ってた」
「ああ、タクミがね」
「で?なんの仕事してんの」
「そういえば道香はなんの仕事してんの」
マサは水を飲むと再び寝転がり、質問には答えないで、道香にベッドに座るよう促して逆に尋ね返して来る。
聞かれると困るのか話したくないのか分からないが、今は答える気がないんだろう。
「アパレルの企画戦略室。まあ、デザインとか売り方とか営業に近いことも稀にするかな」
レディースに特化した若年層向けのブランドの名前を出す。
入社当初は店舗担当か営業企画が良かったのだが、入社後の店舗研修で成績が伸びず、もともとデザインなどの勉強をしていたのも相待って今の部署に配属された。
「すげえじゃん」
「凄くないよ。マサさんこそ何してるの」
「お前が知ってるただのバーの店員でいいじゃん」
「そりゃそうだけど」
のらりくらりかわすと、道香の腰元に腕を回して膝に頭を乗せる。
「その体勢キツくない」
笑いながら道香は何気なくマサの髪を撫でる。
「首が逝きそう」
「ならやめなよ」
爆笑する道香のお尻を叩くと、笑いすぎなんだよとマサは身体を起こした。
「服は渇いてるだろうし、雨は相変わらず酷いからタクシーで送ってやるよ」
「いいよ。傘貸してくれたら電車で帰るよ」
「お前忘れたのかよ。雨で服透けてたろ」
「あ……」
「ちょっと洗濯機見てくるわ」
マサは大きく伸びをして立ち上がると、バスルームに向かった。
「そんな気にかけてくれなくても、私はあやさんじゃないんだから……」
声に出すと更に破壊力があった。何かされたわけでもない。ただ優しく腕に包まれて眠っただけだ。なのに心が抉られたような気持ちになる。
リビングに戻ったマサがテレビをつける。大雨と雷警報を知らせるテロップが流れている。
「やっぱまだ警報出てんだな」
言いながらマサが洗い終えた道香の服をベッドルームに持ってきた。
「タクシーすぐ来るか分かんねえけど、着替えたらすぐ送ってやるから」
早く着替えろよと、ベッドルームの扉を閉めてマサはリビングのソファーに座ったようだった。
シャツを脱いで下着を履き替えると、いつもとは違う柔軟剤の香りがする服に袖を通す。パンストは伝染してしまっていたので履くのを諦めた。
今も窓を叩くような激しい雨が降っている。この雨はいつ止むんだろうか。唸るような雷が鳴り響いている。
「着替えたか」
ノックもせずに扉を開けるとマサはクローゼットを開けて適当に取り出したデニムを履く。タクシーが来たらしい。土砂降りの中すぐにマサの家を出た。
どうやら雷が近くに落ちたようだ。眠り始めてからどれくらい経ったのか、遮光カーテンのせいで時間はよく分からない。
すぐに身体を起こそうとして違和感に気づく。なぜなら道香はマサに後ろから抱きしめられていたからだ。
その腕を離そうと、マサの腕を掴むがびくともしない。
「ちょっと、腕離して」
寝ているマサに声を掛けてみるが、熟睡しているのか返事はない。
そのかわり、道香の首元に顔を埋めてキスをするようなそぶりを見せると「あや」と名前を呼んだ。
「道香だっつの」
誰と間違ってるのかと苦笑いして、道香は少しだけ胸がチクリとした。そんな女性がいるのに他の女をベッドにあげるとは。
マサに話をしたからだろうか、昔の彼氏を思い出してなんだかいたたまれない気持ちになって泣きそうになる。
ゆっくりと髪を撫でる大きな掌に驚きながらも、マサは「あや」を抱いて眠っているのだと、勘違いしないように思えば思うほどしんどくなった。
心の中で思う。惚れっぽくて盲信するタイプ。マサにそう言われたことを思い出す。
タクミとは別の意味でマサのことが気になる自分に嫌気がさす。
中途半端な自分を叱咤するように、また大きな雷鳴が轟いた。
「ん?お前震えてないか?起きてたのか」
「音に驚いてさっき起きた」
マサの寝起きの声は少し掠れている。まだ眠い様子だが、道香は今何時だろうと時間を気にした。
「18時前だな」
寝室入り口の壁掛け時計を見るとマサは道香を腕枕する手で器用に目を擦る。
「てことは?半日寝ちゃったね」
「まあまだ雨止んでないし、なんなら酷くなってるな」
無意識なのか、道香を抱き寄せる腕を強めるとまだ眠いなとマサは首筋に顔を埋める。
「私、抱き枕じゃないんだけど」
「人の肌ってあったかいよな」
一層強まる腕の呪縛に、道香は溜め息を吐き出す。
「喉渇いた」
「冷蔵庫にさっきの水入ってる」
そう言うとようやく道香を抱きしめていた腕を離してマサは仰向けになり、眠そうに眉を寄せて額に腕をあてた。
ベッドから出るとひんやりと冷たいフローリングを歩き、水と酒しか入っていない冷蔵庫からペットボトルを取り出す。
グラスを借りようかと思ったが、風呂上がりにそのまま口をつけて飲んだことを思い出し、道香はペットボトルからそのまま水を飲んだ。
二日酔いとまではいかないが、頭がボッーっとするのは久々の深酒のせいかも知れない。
「俺も喉渇いたから持ってきて」
冷蔵庫に手を掛けると、ベッドからマサが道香を呼び止める。
「マサさんて普段なんの仕事してんの」
「なんで。俺その話した?」
「タクミさんが言ってた」
「ああ、タクミがね」
「で?なんの仕事してんの」
「そういえば道香はなんの仕事してんの」
マサは水を飲むと再び寝転がり、質問には答えないで、道香にベッドに座るよう促して逆に尋ね返して来る。
聞かれると困るのか話したくないのか分からないが、今は答える気がないんだろう。
「アパレルの企画戦略室。まあ、デザインとか売り方とか営業に近いことも稀にするかな」
レディースに特化した若年層向けのブランドの名前を出す。
入社当初は店舗担当か営業企画が良かったのだが、入社後の店舗研修で成績が伸びず、もともとデザインなどの勉強をしていたのも相待って今の部署に配属された。
「すげえじゃん」
「凄くないよ。マサさんこそ何してるの」
「お前が知ってるただのバーの店員でいいじゃん」
「そりゃそうだけど」
のらりくらりかわすと、道香の腰元に腕を回して膝に頭を乗せる。
「その体勢キツくない」
笑いながら道香は何気なくマサの髪を撫でる。
「首が逝きそう」
「ならやめなよ」
爆笑する道香のお尻を叩くと、笑いすぎなんだよとマサは身体を起こした。
「服は渇いてるだろうし、雨は相変わらず酷いからタクシーで送ってやるよ」
「いいよ。傘貸してくれたら電車で帰るよ」
「お前忘れたのかよ。雨で服透けてたろ」
「あ……」
「ちょっと洗濯機見てくるわ」
マサは大きく伸びをして立ち上がると、バスルームに向かった。
「そんな気にかけてくれなくても、私はあやさんじゃないんだから……」
声に出すと更に破壊力があった。何かされたわけでもない。ただ優しく腕に包まれて眠っただけだ。なのに心が抉られたような気持ちになる。
リビングに戻ったマサがテレビをつける。大雨と雷警報を知らせるテロップが流れている。
「やっぱまだ警報出てんだな」
言いながらマサが洗い終えた道香の服をベッドルームに持ってきた。
「タクシーすぐ来るか分かんねえけど、着替えたらすぐ送ってやるから」
早く着替えろよと、ベッドルームの扉を閉めてマサはリビングのソファーに座ったようだった。
シャツを脱いで下着を履き替えると、いつもとは違う柔軟剤の香りがする服に袖を通す。パンストは伝染してしまっていたので履くのを諦めた。
今も窓を叩くような激しい雨が降っている。この雨はいつ止むんだろうか。唸るような雷が鳴り響いている。
「着替えたか」
ノックもせずに扉を開けるとマサはクローゼットを開けて適当に取り出したデニムを履く。タクシーが来たらしい。土砂降りの中すぐにマサの家を出た。
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