【完結】辛口バーテンダーの別の顔はワイルド御曹司
6.酔ったら話上戸になるのかも
「……へえ。それでタクミが好きなわけか」
「そういうんじゃないかも知れない。どっちかっていうと恩人に感謝してるだけ」
「店に通っといてよく言うよ」
「いや、話してみたらやっぱりいい人で、相談とか乗ってくれるし」
「タクミが相談を受けてんの?」
マサは少なくなっていく客の会計などを済ませながら、道香の話を興味深そうに聞いていた。
「なんで?めぐみも言ってたけど、タクミさんて裏の顔でもあるの?」
「どうだろうな。他人に関心ないやつが人助けしたくらいだし、金品要求してもおかしくない。アイツそういやつだよ」
「そんな……私、言われたことないけど」
「アンタが懐くから毒気抜かれただけじゃないのか」
マサは呼ばれてオーダーを取りにカウンターを離れる。深夜四時を回ると、週末といえど客もまばらになってきた。
確かに困っているところを颯爽と助けてくれて、落ち着くまでこの店に留まらせてくれた上に、家の近くまでタクシーで送ってくれた。
あの時はマスターがいたからそこまでしてくれたのかも知れない。
タバコ休憩であの辺りにいたとは言っていたが、実際タクミからタバコの香りがしたことはない。
カウンターに戻ってきたマサに何気なく尋ねることにする。どうか違って欲しいと思いながら。
「タクミさんてタバコ吸うのかな」
「いや、見たことねえけど」
「タクミさんて本当にゲイなの?」
「個人の嗜好まで知らねえな。アイツがそう言ったのか」
「うん。助けてくれた時、タバコ休憩であの辺りにいたって。あとは何度も通ううちに秘密だけど自分はゲイなんだって」
「……ファンだのなんだの騒ぐのは良いけど深入りすんな。俺は噂程度しか知らないけど、ロクな噂じゃねえから」
「でもそんな嘘吐いて意味あるのかな」
「さあな、アイツが何考えてるかなんて知らねえよ」
マサは最後の一組になった客の対応を終えると、クローズの札を下げて扉を閉めた。
「で?それでもやっぱりお前はタクミが気になるのか」
「お前じゃない、道香」
「……はぁ。道香はタクミが好きなのか?」
酒飲みすぎだろと心底面倒臭そうに溜め息を吐き出すと、マサは最後の客の残していったグラスを片付け始める。
好きなのかと尋ねられ、中性的で色っぽいタクミを思い浮かべる。出会いのインパクトが強すぎて、好きと言うより感謝が勝るような気がしてきた。
「タクミさんて、なんか掴めないと言うか、見た目も綺麗だけどミステリアスで、興味が湧くって感じかも知れない」
「お前相当アレだろ」
「なにが」
「惚れっぽくて盲信するタイプ」
カウンター越しにグラスを洗いながらマサが呆れたような顔をしている。
「盲信して撃沈したこともたくさん」
「どうせミーハーなやつだろ」
曇り一つ残らないように磨き上げたグラスを照明に当てて確認すると、マサは片付けの手を止めずに道香にそう言い捨てた。
「ねえ、奢るから一緒に飲もう」
「は?」
「二、三杯でいいから一緒に飲もう!」
「二、三杯って随分と飲ませるな」
「飲まなきゃ話せない話もあるわけよ」
「飲まなきゃ聞けない話かよ」
マサは諦めたようにグラスを手に取ると、適当に氷を入れたグラスにウイスキーを注いで、道香のグラスに合わせて乾杯する。
「で?そこまでして話したいってなんだよ。またタクミか?」
「違う違う。恋で溺死した話」
「なんだよそれ。お前の色恋に興味ねえよ」
「お前じゃなくて道香!」
何回言わせんのよと道香はハイボールを一口飲んで、過去にあった出来事を淡々と話始める。
短大を出てすぐ就職には迷いがあったので、改めて専門学校に通い始めた時だった。
初めてまともに彼氏と呼べる恋人が出来て舞い上がっていた。彼に呼ばれたら昼夜問わず駆け付けて相手をした。
望まれればご飯も作ったし部屋も片付けた。付き合うというのはそう言うことだと思っていた。けれどそのうちお金の無心をされるようになった。
そしていつものように彼に頼まれ部屋の片付けをしていた時、ゴミ箱に使用済みのコンドームとベッドに鼻につく香水の匂いが残っていた。
それでも彼を信じたかった。何番目だろうと彼女でいたかった。行く度に変わる、むせ返るような香水の匂いで吐きそうになる。不機嫌になると彼は仕方がないなと呟いて、そのベッドにくみふせて作業のように道香を抱いた。
そんなことを繰り返しているうちに気が付けば二百万ほどむしり取られて彼は姿を消した。
情けない昔話をしている間、マサは口を挟むことなく静かにウイスキーを飲んでいた。
「私、恋愛が下手みたい。信じてればどうにかなると思っちゃうんだよね。でもそのあとだってロクなのと付き合ってない」
「確かに。お前、タクミのファンだもんな」
「タクミさんはそんなことしないよ」
「じゃあ付き合えば分かるんじゃねえの」
「でもタクミさんゲイだって」
「んなもん女避けの常套句に決まってんだろ」
アイツこそいつも違う匂いさせてるぞとマサが顔をしかめる。
「女避け。恋する前から玉砕か……」
「見る目養ったと思え。アイツ相手じゃ火傷どころで済まないぞ」
マサは憐むように道香を見て、ウイスキーを一気に飲み干した。
「そういうんじゃないかも知れない。どっちかっていうと恩人に感謝してるだけ」
「店に通っといてよく言うよ」
「いや、話してみたらやっぱりいい人で、相談とか乗ってくれるし」
「タクミが相談を受けてんの?」
マサは少なくなっていく客の会計などを済ませながら、道香の話を興味深そうに聞いていた。
「なんで?めぐみも言ってたけど、タクミさんて裏の顔でもあるの?」
「どうだろうな。他人に関心ないやつが人助けしたくらいだし、金品要求してもおかしくない。アイツそういやつだよ」
「そんな……私、言われたことないけど」
「アンタが懐くから毒気抜かれただけじゃないのか」
マサは呼ばれてオーダーを取りにカウンターを離れる。深夜四時を回ると、週末といえど客もまばらになってきた。
確かに困っているところを颯爽と助けてくれて、落ち着くまでこの店に留まらせてくれた上に、家の近くまでタクシーで送ってくれた。
あの時はマスターがいたからそこまでしてくれたのかも知れない。
タバコ休憩であの辺りにいたとは言っていたが、実際タクミからタバコの香りがしたことはない。
カウンターに戻ってきたマサに何気なく尋ねることにする。どうか違って欲しいと思いながら。
「タクミさんてタバコ吸うのかな」
「いや、見たことねえけど」
「タクミさんて本当にゲイなの?」
「個人の嗜好まで知らねえな。アイツがそう言ったのか」
「うん。助けてくれた時、タバコ休憩であの辺りにいたって。あとは何度も通ううちに秘密だけど自分はゲイなんだって」
「……ファンだのなんだの騒ぐのは良いけど深入りすんな。俺は噂程度しか知らないけど、ロクな噂じゃねえから」
「でもそんな嘘吐いて意味あるのかな」
「さあな、アイツが何考えてるかなんて知らねえよ」
マサは最後の一組になった客の対応を終えると、クローズの札を下げて扉を閉めた。
「で?それでもやっぱりお前はタクミが気になるのか」
「お前じゃない、道香」
「……はぁ。道香はタクミが好きなのか?」
酒飲みすぎだろと心底面倒臭そうに溜め息を吐き出すと、マサは最後の客の残していったグラスを片付け始める。
好きなのかと尋ねられ、中性的で色っぽいタクミを思い浮かべる。出会いのインパクトが強すぎて、好きと言うより感謝が勝るような気がしてきた。
「タクミさんて、なんか掴めないと言うか、見た目も綺麗だけどミステリアスで、興味が湧くって感じかも知れない」
「お前相当アレだろ」
「なにが」
「惚れっぽくて盲信するタイプ」
カウンター越しにグラスを洗いながらマサが呆れたような顔をしている。
「盲信して撃沈したこともたくさん」
「どうせミーハーなやつだろ」
曇り一つ残らないように磨き上げたグラスを照明に当てて確認すると、マサは片付けの手を止めずに道香にそう言い捨てた。
「ねえ、奢るから一緒に飲もう」
「は?」
「二、三杯でいいから一緒に飲もう!」
「二、三杯って随分と飲ませるな」
「飲まなきゃ話せない話もあるわけよ」
「飲まなきゃ聞けない話かよ」
マサは諦めたようにグラスを手に取ると、適当に氷を入れたグラスにウイスキーを注いで、道香のグラスに合わせて乾杯する。
「で?そこまでして話したいってなんだよ。またタクミか?」
「違う違う。恋で溺死した話」
「なんだよそれ。お前の色恋に興味ねえよ」
「お前じゃなくて道香!」
何回言わせんのよと道香はハイボールを一口飲んで、過去にあった出来事を淡々と話始める。
短大を出てすぐ就職には迷いがあったので、改めて専門学校に通い始めた時だった。
初めてまともに彼氏と呼べる恋人が出来て舞い上がっていた。彼に呼ばれたら昼夜問わず駆け付けて相手をした。
望まれればご飯も作ったし部屋も片付けた。付き合うというのはそう言うことだと思っていた。けれどそのうちお金の無心をされるようになった。
そしていつものように彼に頼まれ部屋の片付けをしていた時、ゴミ箱に使用済みのコンドームとベッドに鼻につく香水の匂いが残っていた。
それでも彼を信じたかった。何番目だろうと彼女でいたかった。行く度に変わる、むせ返るような香水の匂いで吐きそうになる。不機嫌になると彼は仕方がないなと呟いて、そのベッドにくみふせて作業のように道香を抱いた。
そんなことを繰り返しているうちに気が付けば二百万ほどむしり取られて彼は姿を消した。
情けない昔話をしている間、マサは口を挟むことなく静かにウイスキーを飲んでいた。
「私、恋愛が下手みたい。信じてればどうにかなると思っちゃうんだよね。でもそのあとだってロクなのと付き合ってない」
「確かに。お前、タクミのファンだもんな」
「タクミさんはそんなことしないよ」
「じゃあ付き合えば分かるんじゃねえの」
「でもタクミさんゲイだって」
「んなもん女避けの常套句に決まってんだろ」
アイツこそいつも違う匂いさせてるぞとマサが顔をしかめる。
「女避け。恋する前から玉砕か……」
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