【コミカライズ原作】君とは二度、恋に落ちる〜初めましての彼に溺愛される理由〜

寧子さくら

愛してやまない(3)

 まどろみの中、ゆっくりと瞼を開ける。真っ白な広い天井を見て、ここが東京のホテルだということを思い出した。隣を見れば、奏が私を抱きしめたまま規則正しい寝息をかいている。あどけない寝顔から覗かせる長いまつげは、繊細でいて色気がある。きめ細かな肌をそっと撫でると、少しだけ顔をしかめて、彼が目を覚ました。

「ん……おはよ」
 
 くぐもった声で呟き、私を強く腕の中に抱きこんでしまう。柔らかな素肌同士が滑るように合わさって、昨日の快感とはまた違う、幸せの温度を覚えた。

「本物の花梨だ……」
「何それ、また夢見てたの?」
「んー、そうじゃないけど」
 
 聞いてみれば、私と出会ってから夢を見る機会は減っていたらしい。本物が目の前にいるのだから、見る必要はないのかもしれないけれど。

「でも朝起きて、花梨がいるって幸せ……」
「ふふ、相変わらず大げさだなぁ」
「本当に。このままどこにも行かないように、囲っておきたいくらい」
 
 まだ少し寝ぼけているのか、ぼんやりとした表情で呟きながら、猫のように頬ずりをする。ごく自然に唇が重なると、啄むような戯れのキスを交わした。

「そういえば、花梨はいつまでこっちにいられるの?」
「あ……何も考えてなかった。週末中に帰れれば、いつでも」
 
 奏に会えたらすぐ帰ってくるつもりだったし、何日も泊まる想定はしていなかった。我ながら昨晩は、衝動的に動いていたのだと改めて気付かされる。

「そっか、俺も花梨と一緒に帰ろうかなと思ってて」
 
 どうやら、東京での仕事はとっくに終わっていたらしい。それなのに戻ってこなかったのは、やっぱり私のせいでもある気がして、申し訳ない気持ちになった。

「せっかくだし、東京観光してから帰らない?」
「東京観光?」
「うん。花梨、あんまりこっち来たことないでしょ? 今度は俺が案内してあげたいなって」
 
 今まで東京に来たのは数える程度。特別憧れなどはなかったけれど、奏が生まれ育った場所ならば知りたいと思う。

「いいね、楽しそう!」
 
 二つ返事で頷けば、奏が嬉しそうに笑って、もう一度口づける。そのまま温かな手が、さするように背中を撫でると、昨夜の感覚が戻ってきた。

「奏……?」
「もう少し、こうしてから出よ」
 
 とっくに朝だというのに、再び甘ったるい空気に包まれる。奏の唇が乾いた肌に触れれば、至る所が潤っていく。この後の展開は容易く想像ができて、思わず彼の腕を掴んだ。

「ね、ねえ……もうしないよ?」
「なんで?」
「なんでって、昨日――」
 
 何度したと思っているのか。私の訴えは、すぐに奏の唇でかき消される。
 昨夜、ベッドで二度抱かれたあとに、お風呂場で一回。さらにはベッドに戻ってからもなお、彼の愛撫の手は止まないので、私のわずかな理性を総動員して制したというのに。

「回数とか関係ないよ。だって、何度しても足りないから」
「あっ……」
「ん……可愛い」
 
 奏の言い分も分かる。だけど、何度も『する』のと『できる』のは別問題だ。いや、こういうのは男性側の方が、難しいのではないだろうか。つまるところ、すべては奏のポテンシャル次第というか、なんというか……。

「また難しいこと考えてる?」
「えっ……」
「何も考えないで、花梨は抱かれてればいいよ。あ、でも、俺のことは考えて欲しいけど」
 
 矛盾した奏の発言にクスリと笑みをこぼしながらも、その余裕はあっという間になくなってしまう。微かな抵抗を残して、明るい部屋の中、昨夜から四度目の彼との時間を過ごした。

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