【コミカライズ原作】君とは二度、恋に落ちる〜初めましての彼に溺愛される理由〜
巡り合わせ(3)
人の波に逆らうように、無言のまま歩いて十分ほど。公園の広場のような場所のベンチに腰を下ろした。てっきりこの辺りはビルばかりだと思っていたから、都会のすぐそばに緑が見られるのは意外だった。
もう十月だというのに、東京はまだ過ごしやすい気温で、いかに自分の住んでいる街と離れているのかを実感する。
話し合いの場所を、お店でもホテルでもなく外を選んだのは、奏なりの気遣いなのだろうか。どちらにしろ、ベンチに座るまでの間で緊張は幾分ほぐれていて、落ち着いた気持ちで奏に向かい合った。
「本当にごめんね、急に。どうしても電話で済ませたくなくて……奏が帰って来るまで待ってようと思ったんだけど、待ちきれなかった」
「……ううん。俺もなかなか帰れなくてごめん。仕事立て込んでて」
「本当にそれだけ……?」
奏の仕事上、東京にずっといる必要性はあまり感じられなかった。だから、避けられているというか、わざと帰ってこないのかと思い始めていたのだ。
奏は少し考え込んだ後で、気まずそうに頷いた。
「それだけじゃ、ないよ。花梨に会うの、ちょっと怖くて」
「……どうして?」
「なんとなく振られるんじゃないかって思って。次会ったら最後になるかもって思ったら、避けちゃってた。ごめんね、肝心なところで男らしくなくて」
「そんな……」
そもそも奏にそう思わせてしまった原因は、私が彼と話すのを先延ばしにしてしまったからだ。私が逆の立場であれば、奏と同じことを考えたかもしれない。
奏は私以上に不安でいたのかもしれないと思ったら、自分がしてしまった行動をひどく反省した。
「ごめんね。でも、もうちゃんと決めてきたから、聞いて欲しくて」
「……うん。わかった」
奏から角膜移植の話を聞いた後、自分なりに記憶転移のことをたくさん調べたことを話す。
「結局、奏の話と同じ事例は見つけられなかったんだけど……やっぱり奏は嘘をつくような人じゃないって、信じてるから」
「うん、ありがとう」
「……でも、本当はね……信じたくない自分もいるって気付いたんだ」
「どういうこと?」
誠のお墓参りで気付いた、自分の気持ちを最初からひとつずつ話していく。
「初めて会ったとき、奏は私と初めてじゃないような不思議な感じがしたって言ったでしょ? それは私も同じだったの。前にも言ったと思うけど」
はじめから、なんとなく誠と重なるところがあった。だからこそ、どこかで会ったことがあるような、懐かしい気持ちになったのだ。
食べ物の好みが似ていて、香水の匂いも同じで、笑顔がどことなく似ていて――
「だけど、奏と付き合ってみたら、当たり前だけど全然別人で。いつしか二人を重ねないようになっていたんだ。私がそうしたくなかったからかもしれないけれど。ちゃんと奏自身と向き合って、恋愛したいと思ったから」
角膜移植の話を聞いたときは、半信半疑で、奏を信じたいけど信じたくないのが本音だった。だって、信じてしまったら、これからも奏を見るときに誠を重ねてしまいそうで怖いから。そんなこと、いつも真っ直ぐに私を思ってくれていた奏に失礼だし、私自身もそうしたくなかった。
そんな気持ちすべてを言葉にしている間、奏は私の言葉に口を挟むことなく、無言で相槌を打ってくれた。
「私は……奏に対して失礼なこととか、奏が嫌だと思うことはしたくないなって思ったの。奏を傷つけたくないから」
奏は無理に忘れなくていいとか、誠の代わりにしてくれていいとか、言ってくれたけれど、誰よりも私自身が嫌だった。
現に、奏だってそう言っていたんだから、尚更だ。
ここまで話して、導き出した結論を伝えるために一呼吸置く。
「……私、奏が好きだよ。彼に似てるとか、そんなこと一切関係なく」
「え……」
「たぶん、奏が思ってるよりもっと前から、奏に惹かれてたの。自分で気付かないなんて、本当呆れちゃうよね」
やっぱり最初から、昔の恋なんて引きずってなかったのだ。私は話せば話すほど、奏という人間に惹かれていたのだから。
「それで移植の話を聞いて、また彼と奏を重ねちゃう自分が嫌で……ずっと悩んでたんだけど。もうそれも終わりにする。悩んだって、その事実は消えることはないし、そのせいで奏との関係を終わらせるほうがずっと嫌だから」
「花梨……」
「それにね……」
前に、奏も言っていたこと。敢えてその言葉を、自分の言葉で繰り返す。
もう十月だというのに、東京はまだ過ごしやすい気温で、いかに自分の住んでいる街と離れているのかを実感する。
話し合いの場所を、お店でもホテルでもなく外を選んだのは、奏なりの気遣いなのだろうか。どちらにしろ、ベンチに座るまでの間で緊張は幾分ほぐれていて、落ち着いた気持ちで奏に向かい合った。
「本当にごめんね、急に。どうしても電話で済ませたくなくて……奏が帰って来るまで待ってようと思ったんだけど、待ちきれなかった」
「……ううん。俺もなかなか帰れなくてごめん。仕事立て込んでて」
「本当にそれだけ……?」
奏の仕事上、東京にずっといる必要性はあまり感じられなかった。だから、避けられているというか、わざと帰ってこないのかと思い始めていたのだ。
奏は少し考え込んだ後で、気まずそうに頷いた。
「それだけじゃ、ないよ。花梨に会うの、ちょっと怖くて」
「……どうして?」
「なんとなく振られるんじゃないかって思って。次会ったら最後になるかもって思ったら、避けちゃってた。ごめんね、肝心なところで男らしくなくて」
「そんな……」
そもそも奏にそう思わせてしまった原因は、私が彼と話すのを先延ばしにしてしまったからだ。私が逆の立場であれば、奏と同じことを考えたかもしれない。
奏は私以上に不安でいたのかもしれないと思ったら、自分がしてしまった行動をひどく反省した。
「ごめんね。でも、もうちゃんと決めてきたから、聞いて欲しくて」
「……うん。わかった」
奏から角膜移植の話を聞いた後、自分なりに記憶転移のことをたくさん調べたことを話す。
「結局、奏の話と同じ事例は見つけられなかったんだけど……やっぱり奏は嘘をつくような人じゃないって、信じてるから」
「うん、ありがとう」
「……でも、本当はね……信じたくない自分もいるって気付いたんだ」
「どういうこと?」
誠のお墓参りで気付いた、自分の気持ちを最初からひとつずつ話していく。
「初めて会ったとき、奏は私と初めてじゃないような不思議な感じがしたって言ったでしょ? それは私も同じだったの。前にも言ったと思うけど」
はじめから、なんとなく誠と重なるところがあった。だからこそ、どこかで会ったことがあるような、懐かしい気持ちになったのだ。
食べ物の好みが似ていて、香水の匂いも同じで、笑顔がどことなく似ていて――
「だけど、奏と付き合ってみたら、当たり前だけど全然別人で。いつしか二人を重ねないようになっていたんだ。私がそうしたくなかったからかもしれないけれど。ちゃんと奏自身と向き合って、恋愛したいと思ったから」
角膜移植の話を聞いたときは、半信半疑で、奏を信じたいけど信じたくないのが本音だった。だって、信じてしまったら、これからも奏を見るときに誠を重ねてしまいそうで怖いから。そんなこと、いつも真っ直ぐに私を思ってくれていた奏に失礼だし、私自身もそうしたくなかった。
そんな気持ちすべてを言葉にしている間、奏は私の言葉に口を挟むことなく、無言で相槌を打ってくれた。
「私は……奏に対して失礼なこととか、奏が嫌だと思うことはしたくないなって思ったの。奏を傷つけたくないから」
奏は無理に忘れなくていいとか、誠の代わりにしてくれていいとか、言ってくれたけれど、誰よりも私自身が嫌だった。
現に、奏だってそう言っていたんだから、尚更だ。
ここまで話して、導き出した結論を伝えるために一呼吸置く。
「……私、奏が好きだよ。彼に似てるとか、そんなこと一切関係なく」
「え……」
「たぶん、奏が思ってるよりもっと前から、奏に惹かれてたの。自分で気付かないなんて、本当呆れちゃうよね」
やっぱり最初から、昔の恋なんて引きずってなかったのだ。私は話せば話すほど、奏という人間に惹かれていたのだから。
「それで移植の話を聞いて、また彼と奏を重ねちゃう自分が嫌で……ずっと悩んでたんだけど。もうそれも終わりにする。悩んだって、その事実は消えることはないし、そのせいで奏との関係を終わらせるほうがずっと嫌だから」
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