【コミカライズ原作】君とは二度、恋に落ちる〜初めましての彼に溺愛される理由〜
真実(2)
「花梨は、記憶転移って知ってる?」
「記憶、転移?」
「うん。幻覚なのか、夢を見るようになって、原因を調べてみたんだ」
記憶転移とは、臓器移植によって、ドナーの記憶や趣味趣向、そして性格などの一部が移ってしまう現象のことらしい。そんな映画を昔観たことがあるような気がするが、あくまでそれはフィクションの中の世界。現実にそんなことが起こるとは考えられなかった。
「俺も最初は半信半疑だったけど……。でも、確かにその頃から食の好みとかも変わった気がするんだ。今まで食べられなかったものが好きになったり。本当に不思議な話だけど」
「でも、仮にその話が本当だとしたら……」
奏の角膜移植の提供者は――
「うん。ドナーは……花梨の元カレなんじゃないかなって思ってる」
話の流れから薄々感じていたこと。
通常、提供者も受給者も、互いの情報については一切明かされないらしい。詳しいことは分からないけれど、おそらく移植後の様々なトラブルを回避する為だろう。
それでも、奏がそう言い切るには、きっと十分な理由があったからだ。
「彼が亡くなった時期を考えてもタイミングが合うし、何より俺が見てきた夢がその証拠だと思う。こっちに来て花梨と出会って、確信に変わったんだ。花梨のことだけじゃない、この辺りはやけに見覚えのある景色ばかりだったから」
「じゃあ、清田酒造に行ったときは……?」
奏にこの街を案内するときに行った、誠の実家。あの時、おばさんの反応を含めて何か違和感があった。
「うん。なぜか懐かしいなって思ったんだ。おばさんだって、何度か見覚えがある感じがしたから。本人たちにはこのこと言わないで欲しいんだけど」
「それは、もちろんだけど……」
ここまで話を聞いて、過去の奏への言動への疑問を思い出す。そして、それらをひとつずつ紐解き始めた。
「あのさ……奏が使ってる香水って、いつから使ってるの?」
はじめに感じた、誠と同じ匂い。最近はもう付けていないような気がしたけれど、確かにあれは誠と同じ香水だった。
「それも手術のあとに変えたんだ。急に今まで使ってた匂いが苦手になっちゃって。前に海に行ったとき、花梨に言われてまさかと思ったけど」
「……私の好きな食べ物とか、朝苦手なこと知ってたのは?」
それだけじゃない。奏は私が話していないことでも、あたかも知っているような素振りを見せることが度々あった。
「うーん……正直俺も分かんないけど、なんとなく知ってたことばかりで。もしかしたら夢で見てたのかも。あとは、俺の想像もあるのかな。花梨のイメージを勝手に作ってたとか」
「それじゃあ……」
奏にこの街を案内した帰り、車の中で誠の最後の言葉と同じ台詞を口にしたことについてはどうだろうか。尋ねようとしたところで、口を噤む。
本人が分からないのであれば、それ以上問い詰めることはできないのだから。
「さっきも話したけど、全部信じてとは言わないよ。自分でも、信じられないことばかりだから、花梨が混乱する気持ちもわかってる。でも、もう花梨に嘘はつきたくないから。その気持ちだけは信じて欲しい」
言い切って、奏が真剣な眼差しで私を射貫く。やはり奏の言っていることはまだ信じられないけれど、その瞳だけは、嘘など微塵も存在しないように思えた。
「……どうして言ってくれなかったの?」
仮に今の話がすべて本当だとして。だとすれば、奏はもっと前からこの事実に気付いていたはずだ。おそらく、私たちが付き合う前から。
それならなぜ、もっと早く話してくれなかったのか。話してくれれば、こうやって奏を疑うことだってなかったかもしれないのに。
「一番は、やっぱり信じてもらえないかもって思ったから。頭おかしい奴だって思われてもおかしくないしね」
「それは……否定できないけど」
「だよね。あと、もうひとつは……その……」
奏は何かを言いかけて、口ごもる。けれど、彼が話してくれるまで、次の言葉をじっと待った。
「記憶、転移?」
「うん。幻覚なのか、夢を見るようになって、原因を調べてみたんだ」
記憶転移とは、臓器移植によって、ドナーの記憶や趣味趣向、そして性格などの一部が移ってしまう現象のことらしい。そんな映画を昔観たことがあるような気がするが、あくまでそれはフィクションの中の世界。現実にそんなことが起こるとは考えられなかった。
「俺も最初は半信半疑だったけど……。でも、確かにその頃から食の好みとかも変わった気がするんだ。今まで食べられなかったものが好きになったり。本当に不思議な話だけど」
「でも、仮にその話が本当だとしたら……」
奏の角膜移植の提供者は――
「うん。ドナーは……花梨の元カレなんじゃないかなって思ってる」
話の流れから薄々感じていたこと。
通常、提供者も受給者も、互いの情報については一切明かされないらしい。詳しいことは分からないけれど、おそらく移植後の様々なトラブルを回避する為だろう。
それでも、奏がそう言い切るには、きっと十分な理由があったからだ。
「彼が亡くなった時期を考えてもタイミングが合うし、何より俺が見てきた夢がその証拠だと思う。こっちに来て花梨と出会って、確信に変わったんだ。花梨のことだけじゃない、この辺りはやけに見覚えのある景色ばかりだったから」
「じゃあ、清田酒造に行ったときは……?」
奏にこの街を案内するときに行った、誠の実家。あの時、おばさんの反応を含めて何か違和感があった。
「うん。なぜか懐かしいなって思ったんだ。おばさんだって、何度か見覚えがある感じがしたから。本人たちにはこのこと言わないで欲しいんだけど」
「それは、もちろんだけど……」
ここまで話を聞いて、過去の奏への言動への疑問を思い出す。そして、それらをひとつずつ紐解き始めた。
「あのさ……奏が使ってる香水って、いつから使ってるの?」
はじめに感じた、誠と同じ匂い。最近はもう付けていないような気がしたけれど、確かにあれは誠と同じ香水だった。
「それも手術のあとに変えたんだ。急に今まで使ってた匂いが苦手になっちゃって。前に海に行ったとき、花梨に言われてまさかと思ったけど」
「……私の好きな食べ物とか、朝苦手なこと知ってたのは?」
それだけじゃない。奏は私が話していないことでも、あたかも知っているような素振りを見せることが度々あった。
「うーん……正直俺も分かんないけど、なんとなく知ってたことばかりで。もしかしたら夢で見てたのかも。あとは、俺の想像もあるのかな。花梨のイメージを勝手に作ってたとか」
「それじゃあ……」
奏にこの街を案内した帰り、車の中で誠の最後の言葉と同じ台詞を口にしたことについてはどうだろうか。尋ねようとしたところで、口を噤む。
本人が分からないのであれば、それ以上問い詰めることはできないのだから。
「さっきも話したけど、全部信じてとは言わないよ。自分でも、信じられないことばかりだから、花梨が混乱する気持ちもわかってる。でも、もう花梨に嘘はつきたくないから。その気持ちだけは信じて欲しい」
言い切って、奏が真剣な眼差しで私を射貫く。やはり奏の言っていることはまだ信じられないけれど、その瞳だけは、嘘など微塵も存在しないように思えた。
「……どうして言ってくれなかったの?」
仮に今の話がすべて本当だとして。だとすれば、奏はもっと前からこの事実に気付いていたはずだ。おそらく、私たちが付き合う前から。
それならなぜ、もっと早く話してくれなかったのか。話してくれれば、こうやって奏を疑うことだってなかったかもしれないのに。
「一番は、やっぱり信じてもらえないかもって思ったから。頭おかしい奴だって思われてもおかしくないしね」
「それは……否定できないけど」
「だよね。あと、もうひとつは……その……」
奏は何かを言いかけて、口ごもる。けれど、彼が話してくれるまで、次の言葉をじっと待った。
「恋愛」の人気作品
書籍化作品
-
-
37
-
-
444
-
-
63
-
-
222
-
-
3395
-
-
314
-
-
6
-
-
125
-
-
58
コメント