【コミカライズ原作】君とは二度、恋に落ちる〜初めましての彼に溺愛される理由〜
真実(1)
週末。悩みに悩んだ末、奏と会って話すことに決めた。
みなみには必死で止められたけれど、いつまでもこのままじゃいられないと思ったから。それに、昼間のお店で話す分には問題ないはずだと、昼の三時に駅前のカフェを指定した。
時間通りにお店に到着すると、窓際に奏の姿を見つける。入口に立っている私に気付くと、どこかきまりが悪そうに手をあげた。
「会えてよかった」
「うん……ごめんね。連絡、あまり返してなくて」
「仕方ないよ。俺のこと怖かったでしょ?」
「……」
怖くないと言ったら嘘になる。だけど素直に頷けなくて、無言のまま向かい側に席を下ろした。
メニューを見る余裕すらなく、適当にホットコーヒーを頼む。コーヒーが到着するまでの間は、奏も本題に入るのを避けていたのか、「仕事忙しい?」など他愛もない話を振ってくれたけれど、少しも頭に入ってこなかった。
「お待たせしました」
店員さんが、持ってきたコーヒーをテーブルに置く。これでもう誰も邪魔が入らないと判断したのか、奏がおもむろに口を開いた。
「この間の話だけど……。まず、怖い思いをさせてごめん。あんなに自分の似顔絵があったら、普通に引くよね。俺だったら怖いなって、冷静になった」
そう言って、奏が丁寧に深く頭を下げる。
「ううん……私もごめん。入るなって言われてたのに、勝手に漁るようなことして……」
「いや、怪しまれるようなことした俺が悪いし。花梨は何も悪くないよ」
そうは言っても、申し訳なさは消えない。気まずくて視線を逸らすと、奏が小さく深呼吸する音が聞こえた。
「それで……どこから話せばいいんだろ。少し長くなるかもしれないけど……全部聞いてくれる?」
「……うん」
「ありがとう。じゃあまず、先にひとつ謝らせて。俺が花梨と出会ったのは、偶然じゃないよ。花梨が言う通り、俺は花梨のことを知っててわざと仕事の依頼を受けたんだ。それは、黙っててごめん」
「え……」
あっさりと白状されて、開いた口が塞がらない。それじゃあ、従業員のみんなが言っていたことと同じだ。
「でも、奏も私たち初対面だって……」
「うん。俺が一方的に知ってたんだ。嘘ついてごめんね。……と言っても、つい最近まで、本当に実在するかどうかも分からなかったんだけど」
「……どういう意味?」
実在するとは、どういうことなのか。奏の言ってる意味が分からず、眉を寄せる。すると、奏は少し言い淀んだあとで、覚悟を決めたように口を開いた。
「もう何を言っても信じてもらえないかもしれないけど……俺ね、幻覚が見えるんだ。幻覚って言っても、大抵寝てる時だから、たぶん夢を見てるだけかもしれないけど。花梨とも、今まで夢の中で何度も何度も会ってたんだ」
「ちょ、ちょっと待って……何、言ってるの……?」
ストーカーよりももっと、とんでもないことを言われている気がしてならない。恐怖を通り越して、理解不能だ。
奏は「本当、信じられない話だよね」と呆れたように笑い、詳しい話を始めた。
「前にさ、大学の時、目を悪くしたって言ったでしょ。あの時は簡単に話したけど、本当はわりと大がかりな手術をして治したんだ」
奏は大学二年生の時、難治性の角膜炎を患ったと話す。治った後も後遺症として、角膜混濁が残ってしまい、視界が白く濁るようになったらしい。
片目で生活をすることを余儀なくされたが、奏はデザインを学ぶ学生。もともと視力が良くなかったこともあり、その状態での勉強は難しく、休学をした上で治療に専念したという。
「でも、結局良くならなくて。医者から角膜移植を勧められたんだ」
「移植……?」
その名の通り、ドナーから角膜をもらう手術のことだ。国内の角膜ドナーは数も少ない上に、待ち時間がとてつもなく長いらしく、当初は海外ドナーによる手術を受ける予定だった。けれど、奇跡的に国内ドナーが見つかり、予定より早く角膜手術を行ったと奏は話す。
「移植をしてしばらくは不便だったけど、休学して二年経つ頃には十分回復してて。それで、復学しようって決めたんだ」
「そう、だったんだね。でも、その話と何の関係が……?」
いまいち話の繋がりが見えず、首を傾げる。
「うん。それで……その手術の後からなんだ。夢を見るようになったのは。まったく知らない場所で、知らない人を見るようになった。まるで、誰かの人生に入り込んだみたいに」
「え……」
「その中でも、よく出てきた女の子がいて……。あまりに何度も何度も見るから、自分の記憶でしかないけど、絵を描くようになったんだ。はじめは記録として」
「それって……」
「そう。それが花梨。でも俺は花梨に会ったことはないし、実在する人物だってことも知らなかった。もはや幽霊なんじゃないかって疑ったりもしてた。……だから、前にたまたま見ていたテレビで花梨を見た時、本当に心臓が止まるかと思った。俺が想像していたよりは大人だったけど、夢で見る子はこの人じゃないかって」
奏の一言で、それが県民TVであることはすぐに分かった。だから彼の部屋に、私がテレビに出演した際の写真があったのだろうか。
「それで、すぐに会社名を調べたんだ。長年俺が夢で見てきた人が実在するのか確かめたくて。何とか接点を作れないだろうかと思ってたら、クラウドソーシングにリニューアルの案件が入ってて……。これだと思って応募したんだ」
「そんなことって……」
「信じられないよね。でも、嘘じゃない。無理に信じてとは言わないけど」
正直、奏の話は信じられない。でも、彼が嘘を言っているようには思えなくて、頭の中がひどく混乱していた。
みなみには必死で止められたけれど、いつまでもこのままじゃいられないと思ったから。それに、昼間のお店で話す分には問題ないはずだと、昼の三時に駅前のカフェを指定した。
時間通りにお店に到着すると、窓際に奏の姿を見つける。入口に立っている私に気付くと、どこかきまりが悪そうに手をあげた。
「会えてよかった」
「うん……ごめんね。連絡、あまり返してなくて」
「仕方ないよ。俺のこと怖かったでしょ?」
「……」
怖くないと言ったら嘘になる。だけど素直に頷けなくて、無言のまま向かい側に席を下ろした。
メニューを見る余裕すらなく、適当にホットコーヒーを頼む。コーヒーが到着するまでの間は、奏も本題に入るのを避けていたのか、「仕事忙しい?」など他愛もない話を振ってくれたけれど、少しも頭に入ってこなかった。
「お待たせしました」
店員さんが、持ってきたコーヒーをテーブルに置く。これでもう誰も邪魔が入らないと判断したのか、奏がおもむろに口を開いた。
「この間の話だけど……。まず、怖い思いをさせてごめん。あんなに自分の似顔絵があったら、普通に引くよね。俺だったら怖いなって、冷静になった」
そう言って、奏が丁寧に深く頭を下げる。
「ううん……私もごめん。入るなって言われてたのに、勝手に漁るようなことして……」
「いや、怪しまれるようなことした俺が悪いし。花梨は何も悪くないよ」
そうは言っても、申し訳なさは消えない。気まずくて視線を逸らすと、奏が小さく深呼吸する音が聞こえた。
「それで……どこから話せばいいんだろ。少し長くなるかもしれないけど……全部聞いてくれる?」
「……うん」
「ありがとう。じゃあまず、先にひとつ謝らせて。俺が花梨と出会ったのは、偶然じゃないよ。花梨が言う通り、俺は花梨のことを知っててわざと仕事の依頼を受けたんだ。それは、黙っててごめん」
「え……」
あっさりと白状されて、開いた口が塞がらない。それじゃあ、従業員のみんなが言っていたことと同じだ。
「でも、奏も私たち初対面だって……」
「うん。俺が一方的に知ってたんだ。嘘ついてごめんね。……と言っても、つい最近まで、本当に実在するかどうかも分からなかったんだけど」
「……どういう意味?」
実在するとは、どういうことなのか。奏の言ってる意味が分からず、眉を寄せる。すると、奏は少し言い淀んだあとで、覚悟を決めたように口を開いた。
「もう何を言っても信じてもらえないかもしれないけど……俺ね、幻覚が見えるんだ。幻覚って言っても、大抵寝てる時だから、たぶん夢を見てるだけかもしれないけど。花梨とも、今まで夢の中で何度も何度も会ってたんだ」
「ちょ、ちょっと待って……何、言ってるの……?」
ストーカーよりももっと、とんでもないことを言われている気がしてならない。恐怖を通り越して、理解不能だ。
奏は「本当、信じられない話だよね」と呆れたように笑い、詳しい話を始めた。
「前にさ、大学の時、目を悪くしたって言ったでしょ。あの時は簡単に話したけど、本当はわりと大がかりな手術をして治したんだ」
奏は大学二年生の時、難治性の角膜炎を患ったと話す。治った後も後遺症として、角膜混濁が残ってしまい、視界が白く濁るようになったらしい。
片目で生活をすることを余儀なくされたが、奏はデザインを学ぶ学生。もともと視力が良くなかったこともあり、その状態での勉強は難しく、休学をした上で治療に専念したという。
「でも、結局良くならなくて。医者から角膜移植を勧められたんだ」
「移植……?」
その名の通り、ドナーから角膜をもらう手術のことだ。国内の角膜ドナーは数も少ない上に、待ち時間がとてつもなく長いらしく、当初は海外ドナーによる手術を受ける予定だった。けれど、奇跡的に国内ドナーが見つかり、予定より早く角膜手術を行ったと奏は話す。
「移植をしてしばらくは不便だったけど、休学して二年経つ頃には十分回復してて。それで、復学しようって決めたんだ」
「そう、だったんだね。でも、その話と何の関係が……?」
いまいち話の繋がりが見えず、首を傾げる。
「うん。それで……その手術の後からなんだ。夢を見るようになったのは。まったく知らない場所で、知らない人を見るようになった。まるで、誰かの人生に入り込んだみたいに」
「え……」
「その中でも、よく出てきた女の子がいて……。あまりに何度も何度も見るから、自分の記憶でしかないけど、絵を描くようになったんだ。はじめは記録として」
「それって……」
「そう。それが花梨。でも俺は花梨に会ったことはないし、実在する人物だってことも知らなかった。もはや幽霊なんじゃないかって疑ったりもしてた。……だから、前にたまたま見ていたテレビで花梨を見た時、本当に心臓が止まるかと思った。俺が想像していたよりは大人だったけど、夢で見る子はこの人じゃないかって」
奏の一言で、それが県民TVであることはすぐに分かった。だから彼の部屋に、私がテレビに出演した際の写真があったのだろうか。
「それで、すぐに会社名を調べたんだ。長年俺が夢で見てきた人が実在するのか確かめたくて。何とか接点を作れないだろうかと思ってたら、クラウドソーシングにリニューアルの案件が入ってて……。これだと思って応募したんだ」
「そんなことって……」
「信じられないよね。でも、嘘じゃない。無理に信じてとは言わないけど」
正直、奏の話は信じられない。でも、彼が嘘を言っているようには思えなくて、頭の中がひどく混乱していた。
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