【コミカライズ原作】君とは二度、恋に落ちる〜初めましての彼に溺愛される理由〜
閉ざされた部屋(4)
奏の部屋を飛び出した後すぐに彼から連絡があったけれど、「急ぎの仕事が入った」と伝えたら、あっさりと納得してくれた。さらには「朝起こそうか?」なんて、ごく普通の連絡をしてきたものだから、きっと私が彼の部屋に入ったことには気付いていないのだろう。
さすがに、あんなものを見た後でいつも通り話せるテンションではなかったので、断っておいたけれど。
翌日。当たり前のように仕事が手につかなかった私は、夜にみなみと緊急集会を開いていた。
「うわ~……だから言ったじゃん。完全にクロだね」
「……や、やっぱり?」
「いや、そうでしょ。よく今まで無事だったね? 写真じゃなくて似顔絵ってところがマニアックだわ……」
心底気持ちが悪いのか、みなみは全身を身震いさせる。
「一緒に飲んだ時は、私も良い人かもって思ったんだけど……人は見かけによらないね」
「私だって思わなかったよ。でも、本当にストーカー? なのかな……」
「え、なに。この期に及んで、まだ庇おうとしてる? 怖くないの?」
「そりゃ怖かったよ! 怖かったけど……やっぱりそんな風には見えなくて……」
絵を見た瞬間は、得体の知れない恐怖に襲われてどうにかなりそうだった。けれど、後から冷静になったのだ。
みんなはストーカーだのなんだの、好き勝手言っていたけれど、私にはそうは見えなかった。すごく優しくて、私のことを真っ直ぐに想ってくれる人だから。
そんな私の思考がお花畑すぎたのか、みなみは呆れたように深くため息をついた。
「あのね、ストーカーとかやばい人って良い人なのよ。正しくは、良い人を演じてるの! 相手に怪しまれないように近づいて、漬け込んでいくんだよ」
「言いたいことはわかるけど……。私、そんなに人見る目ない……?」
恋愛は別にしても、仕事で人と会う機会は多い分、そこそこ見る目はあると自負してきた。だからこそ奏だって、やっぱりただのストーカーみたいな悪い人には見えなくて、怖いと思う反面、信じられていない自分もいる。
それに何より、奏に確実に惹かれ始めていたから、そう簡単には割り切れないのだ。そんな私の気持ちを汲んでなのか、みなみは言葉を選びながら話し始めた。
「うーん……言い方は悪いけど、花梨は男に免疫がないから、騙されちゃったんじゃない。もし花梨があの人のこと好きになってたとしても、それって洗脳にも近いっていうか……。花梨が悪いというよりは、向こうの方が上手だったんだよ」
「……」
騙されたと思いたくないのは、自分自身のプライドなのか。未だにどこかで認めていない私を、みなみは諭すように覗き込む。
「とにかく、何かあってからじゃ遅いんだから。むやみに部屋行ったり、二人で会わないように。いいね?」
「でも、同じマンションに住んでるし……」
「そうだった……。冷静に同じマンションに引っ越してくるって、やばくない?」
そう言って、みなみが本日二度目の身震いをぶるり。確かにそう言われてみれば、そんな気もしてくる。本当に今更だ。
「とりあえず今日は私の家に来たら? これからのことは一緒に考えようよ」
「うん……。でも明日も仕事だし着替えとかもあるから、家に帰るよ」
「……本当に大丈夫?」
「大丈夫。私の部屋の鍵は渡してないし、さすがにマンションの中でどうってことはないと思うから」
「はあ……。でも、何かあったら連絡してね? いつでも電話出れるようにしとくから」
みなみは最後まで納得していないようだが、ひとまず今日は家に帰ることにした。
時刻を確認すると、ちょうど奏からのメッセージが一件。今日、会って話ができないかという連絡が、一時間も前に来ていた。
「どうしたの?」
「奏から、会えないかって……」
「ええ、ダメだよ? シカトしなよ。あ、いや……変な態度取っても怪しまれちゃうかも。普通に返信したほうがいいよね」
「うん、とりあえず今日は会えないって返しておくよ」
なんとなく、奏は私の異変に気付いているような気がした。どちらにしろ今会っても、普通に話すことすらままならないだろうから、会う選択肢はないのだけれど。
適当な理由をつけて奏に断りの連絡を入れると、みなみとの話に戻った。
珍しくお互いに飲み過ぎることなく帰宅したのは、夜の十時過ぎ。今日はお酒を飲んでもちっとも酔えなくて、逆に目が冴えてしまった気がする。それもみなみに「いつでも逃げれるように」なんて、耳にタコができるほどの忠告を受けていたせいだ。
しかしながら、彼女が私のことを心配してくれる気持ちはひしひしと伝わってきたし、私自身も警戒心が高まってしまい、何だか気が抜けない時間を過ごしたのだった。
「はあ……」
スマートフォンを見れば、あの後すぐ奏から来た連絡がそのまま。「何時でもいいから会いたい」と言われ、断る理由が思い浮かばず、放置していたのだ。
みなみには警察への相談も勧められたけれど、実際ストーカー行為なんてされたわけではないし、警察は相手にしてくれないだろうと判断した。
それに、やはり心のどこかで、奏はそんな人じゃないとまだ彼を信じていた。なぜなら、あのファイルにあった情報だけでは、判断しきれないと思ったから。
加えて、気になることがあった。あの紙に描かれた私が、幼かったということ。もちろん想像で描いたのかもしれないが、なぜ、今よりも若い私を描く必要があったのか。
もしかすると奏にとっては、大した意味はないのかもしれないけれど、私にはそれが引っかかっていた。
「ちゃんと、話さないとダメだよね……」
どちらにしろ、このままではいけない。そう思うのに、どうしたらいいかわからない。悶々と頭を悩ませていると、部屋にチャイムの音が響き、体を強張らせた。
こんな時間に、一体誰だろう……。
インターホンのモニターは真っ白で、何も映っていない。つまり、チャイムが鳴ったのはエントランスではなく玄関先なのだ。
奏かもしれないと思うと、反射的に体が震える。念のため鍵を閉めたか確認しようとおそるおそる廊下へと出ると、もう一度チャイムが鳴った。
どうしよう……怖い。つい先ほどまで、彼を信じたいと思っていたのに。
鍵は閉まっている。このまま帰ってなかったことにして――
「……花梨、帰ってるんでしょ」
「っ……」
玄関のドア越しに、奏の声が聞こえる。思わず声が出そうになって、慌てて口を塞ぐと、彼に気付かれないようにドアへと近づいた。
「ごめん、部屋まできて。もし、そこにいるなら聞いて欲しい」
ドアのせいで聞こえは悪いけれど、しっかりと奏の声が耳に届く。
「昨日、俺の部屋入ったよね……。ファイル、ずれてたの見たんだ」
やっぱり、気付いてたんだ……。
「何を言っても言い訳にしか聞こえないと思うから、先に言わせて。怖い思いさせてごめん。でも、ちゃんと話しておきたくて……ずっと言えなかった、本当のこと。怖いなら外でもどこでもいいから、会って話したい。……また連絡するね」
そう言い残し、ドアの前から足音が遠ざかっていく。やがて足音が聞こえなくなると、緊張の糸が切れ、その場にへなへなと座り込んだ。
本当のことって、何……?
先ほどの恐怖はいつしか消えていて、奏が何を言おうとしたのか疑問が浮かんで来る。その夜は、奏のことばかりを考えていたら、うまく寝付くことができなかった。
さすがに、あんなものを見た後でいつも通り話せるテンションではなかったので、断っておいたけれど。
翌日。当たり前のように仕事が手につかなかった私は、夜にみなみと緊急集会を開いていた。
「うわ~……だから言ったじゃん。完全にクロだね」
「……や、やっぱり?」
「いや、そうでしょ。よく今まで無事だったね? 写真じゃなくて似顔絵ってところがマニアックだわ……」
心底気持ちが悪いのか、みなみは全身を身震いさせる。
「一緒に飲んだ時は、私も良い人かもって思ったんだけど……人は見かけによらないね」
「私だって思わなかったよ。でも、本当にストーカー? なのかな……」
「え、なに。この期に及んで、まだ庇おうとしてる? 怖くないの?」
「そりゃ怖かったよ! 怖かったけど……やっぱりそんな風には見えなくて……」
絵を見た瞬間は、得体の知れない恐怖に襲われてどうにかなりそうだった。けれど、後から冷静になったのだ。
みんなはストーカーだのなんだの、好き勝手言っていたけれど、私にはそうは見えなかった。すごく優しくて、私のことを真っ直ぐに想ってくれる人だから。
そんな私の思考がお花畑すぎたのか、みなみは呆れたように深くため息をついた。
「あのね、ストーカーとかやばい人って良い人なのよ。正しくは、良い人を演じてるの! 相手に怪しまれないように近づいて、漬け込んでいくんだよ」
「言いたいことはわかるけど……。私、そんなに人見る目ない……?」
恋愛は別にしても、仕事で人と会う機会は多い分、そこそこ見る目はあると自負してきた。だからこそ奏だって、やっぱりただのストーカーみたいな悪い人には見えなくて、怖いと思う反面、信じられていない自分もいる。
それに何より、奏に確実に惹かれ始めていたから、そう簡単には割り切れないのだ。そんな私の気持ちを汲んでなのか、みなみは言葉を選びながら話し始めた。
「うーん……言い方は悪いけど、花梨は男に免疫がないから、騙されちゃったんじゃない。もし花梨があの人のこと好きになってたとしても、それって洗脳にも近いっていうか……。花梨が悪いというよりは、向こうの方が上手だったんだよ」
「……」
騙されたと思いたくないのは、自分自身のプライドなのか。未だにどこかで認めていない私を、みなみは諭すように覗き込む。
「とにかく、何かあってからじゃ遅いんだから。むやみに部屋行ったり、二人で会わないように。いいね?」
「でも、同じマンションに住んでるし……」
「そうだった……。冷静に同じマンションに引っ越してくるって、やばくない?」
そう言って、みなみが本日二度目の身震いをぶるり。確かにそう言われてみれば、そんな気もしてくる。本当に今更だ。
「とりあえず今日は私の家に来たら? これからのことは一緒に考えようよ」
「うん……。でも明日も仕事だし着替えとかもあるから、家に帰るよ」
「……本当に大丈夫?」
「大丈夫。私の部屋の鍵は渡してないし、さすがにマンションの中でどうってことはないと思うから」
「はあ……。でも、何かあったら連絡してね? いつでも電話出れるようにしとくから」
みなみは最後まで納得していないようだが、ひとまず今日は家に帰ることにした。
時刻を確認すると、ちょうど奏からのメッセージが一件。今日、会って話ができないかという連絡が、一時間も前に来ていた。
「どうしたの?」
「奏から、会えないかって……」
「ええ、ダメだよ? シカトしなよ。あ、いや……変な態度取っても怪しまれちゃうかも。普通に返信したほうがいいよね」
「うん、とりあえず今日は会えないって返しておくよ」
なんとなく、奏は私の異変に気付いているような気がした。どちらにしろ今会っても、普通に話すことすらままならないだろうから、会う選択肢はないのだけれど。
適当な理由をつけて奏に断りの連絡を入れると、みなみとの話に戻った。
珍しくお互いに飲み過ぎることなく帰宅したのは、夜の十時過ぎ。今日はお酒を飲んでもちっとも酔えなくて、逆に目が冴えてしまった気がする。それもみなみに「いつでも逃げれるように」なんて、耳にタコができるほどの忠告を受けていたせいだ。
しかしながら、彼女が私のことを心配してくれる気持ちはひしひしと伝わってきたし、私自身も警戒心が高まってしまい、何だか気が抜けない時間を過ごしたのだった。
「はあ……」
スマートフォンを見れば、あの後すぐ奏から来た連絡がそのまま。「何時でもいいから会いたい」と言われ、断る理由が思い浮かばず、放置していたのだ。
みなみには警察への相談も勧められたけれど、実際ストーカー行為なんてされたわけではないし、警察は相手にしてくれないだろうと判断した。
それに、やはり心のどこかで、奏はそんな人じゃないとまだ彼を信じていた。なぜなら、あのファイルにあった情報だけでは、判断しきれないと思ったから。
加えて、気になることがあった。あの紙に描かれた私が、幼かったということ。もちろん想像で描いたのかもしれないが、なぜ、今よりも若い私を描く必要があったのか。
もしかすると奏にとっては、大した意味はないのかもしれないけれど、私にはそれが引っかかっていた。
「ちゃんと、話さないとダメだよね……」
どちらにしろ、このままではいけない。そう思うのに、どうしたらいいかわからない。悶々と頭を悩ませていると、部屋にチャイムの音が響き、体を強張らせた。
こんな時間に、一体誰だろう……。
インターホンのモニターは真っ白で、何も映っていない。つまり、チャイムが鳴ったのはエントランスではなく玄関先なのだ。
奏かもしれないと思うと、反射的に体が震える。念のため鍵を閉めたか確認しようとおそるおそる廊下へと出ると、もう一度チャイムが鳴った。
どうしよう……怖い。つい先ほどまで、彼を信じたいと思っていたのに。
鍵は閉まっている。このまま帰ってなかったことにして――
「……花梨、帰ってるんでしょ」
「っ……」
玄関のドア越しに、奏の声が聞こえる。思わず声が出そうになって、慌てて口を塞ぐと、彼に気付かれないようにドアへと近づいた。
「ごめん、部屋まできて。もし、そこにいるなら聞いて欲しい」
ドアのせいで聞こえは悪いけれど、しっかりと奏の声が耳に届く。
「昨日、俺の部屋入ったよね……。ファイル、ずれてたの見たんだ」
やっぱり、気付いてたんだ……。
「何を言っても言い訳にしか聞こえないと思うから、先に言わせて。怖い思いさせてごめん。でも、ちゃんと話しておきたくて……ずっと言えなかった、本当のこと。怖いなら外でもどこでもいいから、会って話したい。……また連絡するね」
そう言い残し、ドアの前から足音が遠ざかっていく。やがて足音が聞こえなくなると、緊張の糸が切れ、その場にへなへなと座り込んだ。
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