【コミカライズ原作】君とは二度、恋に落ちる〜初めましての彼に溺愛される理由〜
閉ざされた部屋(3)
やはり、今日の奏は変だ。なんだか私に隠し事をしているみたいに。それに先ほど、話を逸らされたのも気になっていた。
奏は一体、何を考えているんだろう……。
広い部屋の中、意識しないようにしても目に付くのは、閉ざされた寝室の隣の部屋。以前、散らかってるから入らないでと言われた奏の仕事部屋だ。
この部屋に何度か来てはいるが、一度もあの部屋が開いてるのを見たことがない。奏を疑いたいわけじゃないのに、前に奏をストーカーだと怪しんだみなみに言われた言葉を、今になって思い出してしまう。「部屋入ったら、自分の写真だらけでした~なんてベタなことない?」と。
さらに、従業員のみんなも変なことを言うから、ますます怪しいと思ってしまう。
お風呂場からは、シャワーが流れる音が聞こえてくる。確認するなら、今しかない。おそるおそる立ち上がり部屋の前に立つと、大きく深呼吸をした。
「そうだよ。ちょっと、見るだけだから……」
奏の疑いを晴らすだけ。ただ、それだけ。心の中で言い訳を作り、自分の行動を正当化する。
ドアの作りは私の部屋と同じもの。鍵もついていない。ドアノブに手をかけると、古く錆びているのではと錯覚してしまうほど重く感じられた。
でも、もう後には戻らない。覚悟を決めてドアを開けると、真っ暗な部屋にデスクと、その横に引っ越し用の段ボールが積まれていた。
「あれ……」
まだ片付いていないからと言ったのは、嘘ではなかったのか。想像していた最悪の光景は回避できたと胸をなでおろす。そんなドラマみたいな話があるわけない、と。
それでも念のためと、彼のデスクまで足を伸ばした。机の上には、デスクトップのモニターが二台と、キーボードにペンタブレット。その横にはノートパソコンまである。本当にただの仕事部屋のようだ。
いくら怪しいからといって、疑ってしまった自分を深く反省する。そもそも合鍵をもらっているのだから、そんな危ないものを置いておくわけがない。いくら部屋に入るなと釘を刺しておいても、「見るな」と言われれば見たくなるのが人間のサガってものなのだし。
奏が戻ってくる前に部屋を出ようとして、デスクの奥にある分厚いファイルが気になってしまい立ち止まる。部屋を見る限り紙の書類なんてものは一切ないし、会社に来た時だって、彼はノートパソコンひとつで仕事をしていた。
だからこそ、そのファイルがひとつだけ異質なものに見えて、思わず手に取ってしまった。そしてその数秒後。私は本気で後悔することになる――
「わっ」
ファイルと手に取ると、中身がまとまっていなかったのか、無数の紙がバサバサとデスクの上に広がる。慌ててかき集めて、そこに書かれていた絵に思わず手を止めた。
「な、なに、これ……」
笑った顔や、怒り顔、泣き顔から寝顔まで。まるでキャンバスの上で生きているかのように生き生きとした表情の少女が、何枚にも渡って描かれている。
年齢は十代くらいだろうか。まだ垢ぬけていなくて、あどけなくて、そして――
「これ……私……?」
二十八歳の私ではない。もっと、若かりし頃の私にそっくりな絵が何枚も、何十枚も。
さらに絵の中に混ざって、フルルの企業ホームページや、県民TVに出演した際の私の写真などが挟まっていた。
「あ……」
これは、奏が描いたものなの……?
本当に、ストーカーが撮った写真のように、何人もの『私』が目の前に映し出されている。
どうしよう、怖い。もし本当に、奏がストーカーだったとしたら――
今までの私との出会いも、すべて作りこまれたものだったということ……? でも、一体何のために……。
理由はまったく想像がつかない。けれど、奏の私に対する執着は本物だと悟り、背中にゾクリと寒気が入った。先ほど食べたものが、胃の中から上がってきそうだ。
気持ち悪さに口元を抑え込んだ瞬間、お風呂場でシャワーを止める音がして、慌ててファイルをしまい込んだ。
怪しまれないように元にあった場所へ戻すと、奏の部屋を出る。何も知らないふりをするべきなのだろうか……。
だけど、今更平然を装うなんて絶対にできない。どうしたら……。
ぐるぐると考えて、頭の中はぐちゃぐちゃだ。そのうちにシャワーを浴び終わったのか、今度はお風呂場のドアが開く音がして、反射的に荷物を手に取っていた。
そして、無意識のうちに奏の部屋を後にしたのだった。
奏は一体、何を考えているんだろう……。
広い部屋の中、意識しないようにしても目に付くのは、閉ざされた寝室の隣の部屋。以前、散らかってるから入らないでと言われた奏の仕事部屋だ。
この部屋に何度か来てはいるが、一度もあの部屋が開いてるのを見たことがない。奏を疑いたいわけじゃないのに、前に奏をストーカーだと怪しんだみなみに言われた言葉を、今になって思い出してしまう。「部屋入ったら、自分の写真だらけでした~なんてベタなことない?」と。
さらに、従業員のみんなも変なことを言うから、ますます怪しいと思ってしまう。
お風呂場からは、シャワーが流れる音が聞こえてくる。確認するなら、今しかない。おそるおそる立ち上がり部屋の前に立つと、大きく深呼吸をした。
「そうだよ。ちょっと、見るだけだから……」
奏の疑いを晴らすだけ。ただ、それだけ。心の中で言い訳を作り、自分の行動を正当化する。
ドアの作りは私の部屋と同じもの。鍵もついていない。ドアノブに手をかけると、古く錆びているのではと錯覚してしまうほど重く感じられた。
でも、もう後には戻らない。覚悟を決めてドアを開けると、真っ暗な部屋にデスクと、その横に引っ越し用の段ボールが積まれていた。
「あれ……」
まだ片付いていないからと言ったのは、嘘ではなかったのか。想像していた最悪の光景は回避できたと胸をなでおろす。そんなドラマみたいな話があるわけない、と。
それでも念のためと、彼のデスクまで足を伸ばした。机の上には、デスクトップのモニターが二台と、キーボードにペンタブレット。その横にはノートパソコンまである。本当にただの仕事部屋のようだ。
いくら怪しいからといって、疑ってしまった自分を深く反省する。そもそも合鍵をもらっているのだから、そんな危ないものを置いておくわけがない。いくら部屋に入るなと釘を刺しておいても、「見るな」と言われれば見たくなるのが人間のサガってものなのだし。
奏が戻ってくる前に部屋を出ようとして、デスクの奥にある分厚いファイルが気になってしまい立ち止まる。部屋を見る限り紙の書類なんてものは一切ないし、会社に来た時だって、彼はノートパソコンひとつで仕事をしていた。
だからこそ、そのファイルがひとつだけ異質なものに見えて、思わず手に取ってしまった。そしてその数秒後。私は本気で後悔することになる――
「わっ」
ファイルと手に取ると、中身がまとまっていなかったのか、無数の紙がバサバサとデスクの上に広がる。慌ててかき集めて、そこに書かれていた絵に思わず手を止めた。
「な、なに、これ……」
笑った顔や、怒り顔、泣き顔から寝顔まで。まるでキャンバスの上で生きているかのように生き生きとした表情の少女が、何枚にも渡って描かれている。
年齢は十代くらいだろうか。まだ垢ぬけていなくて、あどけなくて、そして――
「これ……私……?」
二十八歳の私ではない。もっと、若かりし頃の私にそっくりな絵が何枚も、何十枚も。
さらに絵の中に混ざって、フルルの企業ホームページや、県民TVに出演した際の私の写真などが挟まっていた。
「あ……」
これは、奏が描いたものなの……?
本当に、ストーカーが撮った写真のように、何人もの『私』が目の前に映し出されている。
どうしよう、怖い。もし本当に、奏がストーカーだったとしたら――
今までの私との出会いも、すべて作りこまれたものだったということ……? でも、一体何のために……。
理由はまったく想像がつかない。けれど、奏の私に対する執着は本物だと悟り、背中にゾクリと寒気が入った。先ほど食べたものが、胃の中から上がってきそうだ。
気持ち悪さに口元を抑え込んだ瞬間、お風呂場でシャワーを止める音がして、慌ててファイルをしまい込んだ。
怪しまれないように元にあった場所へ戻すと、奏の部屋を出る。何も知らないふりをするべきなのだろうか……。
だけど、今更平然を装うなんて絶対にできない。どうしたら……。
ぐるぐると考えて、頭の中はぐちゃぐちゃだ。そのうちにシャワーを浴び終わったのか、今度はお風呂場のドアが開く音がして、反射的に荷物を手に取っていた。
そして、無意識のうちに奏の部屋を後にしたのだった。
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