【コミカライズ原作】君とは二度、恋に落ちる〜初めましての彼に溺愛される理由〜
閉ざされた部屋(2)
「じゃあ……ひとつだけ、聞いてもいい?」
「うん?」
今まで敢えて聞いてこなかったこと。いや、正しくは一度尋ねてみようとしたが、的外れな答えが返ってきてやめた質問だ。今ならちゃんと聞けるかもしれない。
「奏はどうして、うちの会社の仕事を受けてくれたの?」
「どうしてって……前にも言ったけど、花梨の役に立ちたいから――」
「そうじゃなくて、それは付き合ってからの話、だよね? ずっと疑問だったの。何で奏みたいな有名なデザイナーが、うちみたいな小さな会社の仕事を受けてくれるのかなって」
「それは、たまたま案件を見かけたから」
「でも、奏ってもともとクラウドソーシング使ってなかったんだよね? たぶん、使わなくたって仕事はたくさんあるだろうし」
ポートフォリオでの実績や、いつも遅くまで仕事をしている彼を見れば、仕事に困っていないことなど安易に想像ができる。困っていないどころか、どの企業からも引っ張りだこだろう。
「……クラウドソーシング自体には興味があったんだ。それで、見てたらちょうどフルルがあったから興味を持って」
「でも、東京からわざわざ? うちは出せる報酬だって安かったし」
「それは――」
話し出してしまえば、返ってくるのは穴の開いた返答ばかりで、ついまくし立てるような言い方をしてしまう。別に、奏を責めたいわけじゃないのに。
「あ……ごめんね。急に。従業員のみんなが変なこと言い出すから」
「……変なことって?」
「えっと、実はみんなに奏と付き合ってることバレちゃったんだけど……。奏がわざとうちの仕事を狙って応募したんじゃないかとか、もともと私のことを知っていたんじゃないかとか、いろいろ……」
「え?」
さすがにストーカーと言われた話は除いて、みんなが話していたことを掻い摘んで説明する。いつの間にか奏の顔から笑顔は消え、真顔で私の話を聞いていた。
「なんて、そんなことあるわけないのにね! そもそも私たちはあの日が初対面だったわけで、他に接点もないし……」
「……」
何も言わない奏に、さすがに気分を害したのかもしれないと思い慌てて弁解する。けれど彼は、未だ口を開くことなく、何かを考えているようだった。
「奏……? どうしたの?」
いつものように、笑って「そんなことないよ」って、ただ一言否定してほしい。なのに、ただならぬ空気だけがその場に漂っている。そんな態度を取られてしまえば、嫌でも疑ってしまうのに。
「ねえ、何か言ってよ」
彼の肩を小さく揺すると、奏はビクリと体を動かし、やっと我に返ったようだった。
「えっ、ああ……ごめん。ちょっと考え事してて」
「考え事って?」
「ううん。もしかして俺、みんなに花梨のストーカーかなんかだと思われてるのかな」
「そ、そんなことは……」
あるのだが、さすがに認めるのは躊躇われる。けれどバレバレだったのか、奏は小さく笑った。
「はは、大丈夫。俺は花梨に危害を加えるようなことは絶対しないから。そこは信じて?」
「う、うん?」
奏はいつも通りだ。だけど、微かに違和感があった。それは先ほどから彼が、私の言うことに何一つ否定も肯定もしていないからだろうか。まるで、すべてを誤魔化すかのように、話を流されている気がする。
「あのさ、奏――っ……」
言いかけた私の口を塞ぐように、唇が重なる。ねっとりと絡みつくように、甘ったるい口づけのあと、鼻先がちょんと触れ合った。
「話は終わり?」
「うん。でも……」
「それなら、さっきの続き、しよ」
「あ……」
再びキスの予感に、普通だったら目を閉じるべきだ。けれど、はぐらかされた後だからか、何だかそんな気持ちにはなれなくて、そっと奏の胸を押し返した。
「……花梨?」
私からの拒否に、ひどく傷ついた子犬のような目で、彼がこちらを見る。なんだか悪いことをしてしまった気分になり、拒んだ理由を探す。
「あ、あの……お風呂入ってからにしよ?」
不自然じゃない理由を並べると、奏は安堵したように頷く。それから私の肩に腕を回し、誘うように覗き込んだ。
「そうだね。じゃあ、一緒に入る?」
「ええっ、お、お風呂はいいよ……」
「何で? 花梨の裸なら、もうたくさん見た気がするけど」
言いながら、つうっと指先が太腿をなぞる。一瞬ピクリと体が反応したけれど、すぐに悪戯な手を止めた。
「は、恥ずかしいから別で! 奏、先入ってきて?」
「……なんだ、残念。じゃあ先行ってくるね」
「うん、ごゆっくり」
名残惜しそうに額にキスを落として、奏が立ち上がる。洗面所のドアが閉まる音がして、ふう、と息を吐いた。
「うん?」
今まで敢えて聞いてこなかったこと。いや、正しくは一度尋ねてみようとしたが、的外れな答えが返ってきてやめた質問だ。今ならちゃんと聞けるかもしれない。
「奏はどうして、うちの会社の仕事を受けてくれたの?」
「どうしてって……前にも言ったけど、花梨の役に立ちたいから――」
「そうじゃなくて、それは付き合ってからの話、だよね? ずっと疑問だったの。何で奏みたいな有名なデザイナーが、うちみたいな小さな会社の仕事を受けてくれるのかなって」
「それは、たまたま案件を見かけたから」
「でも、奏ってもともとクラウドソーシング使ってなかったんだよね? たぶん、使わなくたって仕事はたくさんあるだろうし」
ポートフォリオでの実績や、いつも遅くまで仕事をしている彼を見れば、仕事に困っていないことなど安易に想像ができる。困っていないどころか、どの企業からも引っ張りだこだろう。
「……クラウドソーシング自体には興味があったんだ。それで、見てたらちょうどフルルがあったから興味を持って」
「でも、東京からわざわざ? うちは出せる報酬だって安かったし」
「それは――」
話し出してしまえば、返ってくるのは穴の開いた返答ばかりで、ついまくし立てるような言い方をしてしまう。別に、奏を責めたいわけじゃないのに。
「あ……ごめんね。急に。従業員のみんなが変なこと言い出すから」
「……変なことって?」
「えっと、実はみんなに奏と付き合ってることバレちゃったんだけど……。奏がわざとうちの仕事を狙って応募したんじゃないかとか、もともと私のことを知っていたんじゃないかとか、いろいろ……」
「え?」
さすがにストーカーと言われた話は除いて、みんなが話していたことを掻い摘んで説明する。いつの間にか奏の顔から笑顔は消え、真顔で私の話を聞いていた。
「なんて、そんなことあるわけないのにね! そもそも私たちはあの日が初対面だったわけで、他に接点もないし……」
「……」
何も言わない奏に、さすがに気分を害したのかもしれないと思い慌てて弁解する。けれど彼は、未だ口を開くことなく、何かを考えているようだった。
「奏……? どうしたの?」
いつものように、笑って「そんなことないよ」って、ただ一言否定してほしい。なのに、ただならぬ空気だけがその場に漂っている。そんな態度を取られてしまえば、嫌でも疑ってしまうのに。
「ねえ、何か言ってよ」
彼の肩を小さく揺すると、奏はビクリと体を動かし、やっと我に返ったようだった。
「えっ、ああ……ごめん。ちょっと考え事してて」
「考え事って?」
「ううん。もしかして俺、みんなに花梨のストーカーかなんかだと思われてるのかな」
「そ、そんなことは……」
あるのだが、さすがに認めるのは躊躇われる。けれどバレバレだったのか、奏は小さく笑った。
「はは、大丈夫。俺は花梨に危害を加えるようなことは絶対しないから。そこは信じて?」
「う、うん?」
奏はいつも通りだ。だけど、微かに違和感があった。それは先ほどから彼が、私の言うことに何一つ否定も肯定もしていないからだろうか。まるで、すべてを誤魔化すかのように、話を流されている気がする。
「あのさ、奏――っ……」
言いかけた私の口を塞ぐように、唇が重なる。ねっとりと絡みつくように、甘ったるい口づけのあと、鼻先がちょんと触れ合った。
「話は終わり?」
「うん。でも……」
「それなら、さっきの続き、しよ」
「あ……」
再びキスの予感に、普通だったら目を閉じるべきだ。けれど、はぐらかされた後だからか、何だかそんな気持ちにはなれなくて、そっと奏の胸を押し返した。
「……花梨?」
私からの拒否に、ひどく傷ついた子犬のような目で、彼がこちらを見る。なんだか悪いことをしてしまった気分になり、拒んだ理由を探す。
「あ、あの……お風呂入ってからにしよ?」
不自然じゃない理由を並べると、奏は安堵したように頷く。それから私の肩に腕を回し、誘うように覗き込んだ。
「そうだね。じゃあ、一緒に入る?」
「ええっ、お、お風呂はいいよ……」
「何で? 花梨の裸なら、もうたくさん見た気がするけど」
言いながら、つうっと指先が太腿をなぞる。一瞬ピクリと体が反応したけれど、すぐに悪戯な手を止めた。
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