【コミカライズ原作】君とは二度、恋に落ちる〜初めましての彼に溺愛される理由〜
二度目の恋は甘くて甘い(1)
あれから数週間。暑さはすっかり落ち着き、乾いた風に乗って少しずつ秋の気配が近づいていた。この辺りは暑い時期よりも、寒い時期のほうが長い。だから、私にとっては慣れ親しんだ季節だ。
「おお~すごい! 急にスタイリッシュになりましたね!?」
今日は、小鳥谷さんへ依頼していたデザインの納品日で、送られてきたデータを早速従業員のみんなと確認する。無駄がなく、それでいて企業のイメージを崩さないような温かみのあるデザイン。今まで商品を貼り付けただけのページは、カテゴリ毎の紹介ページで見やすく分けられ、ユーザーが欲しい商品へすぐにたどり着けるようになっていた。加えて、その後の関連商品への導線までも完璧だ。
「こんな素敵なサイト作っていただけるなんて、感激です~」
中里ちゃんはうっとりと画面を見つめながら、サイトの至る所をクリックしては感嘆の声を漏らしている。
そして――
「いえいえ。実際にフルルさんのことを伺ったり、この辺りを案内してもらって、インスピレーションが湧いたんです。月舘社長のおかげですよ」
もう秋だというのに爽やかに、相変わらずキラキラと輝く笑顔を浮かべるこの男性は、紛れもなくサイトの作成者だ。かけている眼鏡が、今は仕事モードであることを象徴していた。
「しかも、小鳥谷さんがまたデザイナーとして入ってくれるなんて、社長どんな手使ったんですか!?」
「それはもう――」
「使ってないからね!? 何も!?」
あれから恋人になってしまった私と小鳥谷さんは、そのまま交際を続けていることになっている。もちろん、会社のみんなには伏せているけれど。
そして東京にいるはずの彼が、なぜここにいるかというと――
「でも驚きましたよ。まさかこっちに引っ越してきちゃうなんて!」
「あまりにこの街が気に入ってしまって。僕はフリーのデザイナーだから、住む場所はどこでも構わないので。これも月舘社長がこの街の良さをプレゼンしてくれたおかげですね」
「プレゼンしてませんよ!?」
そう、なんと小鳥谷さんは、つい最近東京から引っ越してきたのだ。
そして今後も、フルルの仕事を受けてくれるという。もちろんフリーのデザイナーであることは変わらないから、こうやって会社に来る頻度は高くないのだけれど。
「本当、社長と何かあったのかと思いましたよ~!」
「ああ、それは――」
「ないよ!? 何も!?」
「社長、さっきから大声出して何なんですか。逆に怪しいですよ」
横から葛巻くんに冷静にツッコミを受けて、しゅんと肩を落とす。でもこうでもしないと、小鳥谷さんはポロッと私たちの関係を暴露してしまいそうだから。
ひとまず付き合うことになったと言っても、彼が引っ越してくるまでは電話とメッセージでのやり取りしかしていないし、未だに付き合っている実感はない。
いつ終わるかも分からない関係だからこそ、みんなにはバレないように仕事がしたい、というのが私の本音だった。それに、中里ちゃん辺りに知られてしまったら、すぐにからかわれて、まともに仕事なんてしていられなさそうだし。
小鳥谷さんと目が合うと、私の考えを見抜いているのか、含みのある笑みを浮かべている。……本当に、いつバレてもおかしくなさそうだ。
気持ちを引き締めていると、小鳥谷さんが思い出したように口を開いた。
「そういえば、清田酒造さんのお酒なんですが、名入れの対応も増やすのはいかがでしょう?」
「名入れ、ですか?」
「はい、以前いただいた身内用に作成したラベルのボトル。ああいう感じで、冠婚葬祭用などに特別な商品を作れば、多少の価格アップもはかれますし、需要も見込めると思うんですよね。良い商品というのは、自宅用よりもギフトとして選ばれる傾向にありますし」
清田酒造でもらった、何も文字が書いていないカラフルなお酒のラベル。確かあれは、親戚の結婚式用に特別に作ったものだと言っていた。他サイトでも名入れの商品はたくさんあるし、コストもかからないのであれば検討してみてもいいかもしれない。
「あの、身内用のラベルってなんですか?」
私たちの会話に、中里ちゃんが興味津々に加わってくる。
「ええ、実は前に清田酒造さんに案内してもらった際に……」
説明をしながら、小鳥谷さんがホテルで撮ったらしき一升瓶の写真をみんなに見せる。それを見て、あの夜の出来事が一瞬でフラッシュバックしてきた。
「本当に美味しいですよね、清田酒造さんのお酒。一升瓶なんてどうしようかと思ったんですが、意外と飲めちゃいました」
「お一人で、ですか? 小鳥谷さんってお酒強いんですね」
「少し知り合いに手伝ってもらったのですが、あとは一人で。そこまで強くはないんですが、飲んでくれる相手がいないので頑張りました」
言いながら小鳥谷さんと再び目が合い、どきりとする。同時に、口が滑って私と飲んでたことを言ってしまいそうな気がして、慌てて話を変えた。
「ええと、それで、名入れラベルを作る話ですよね。すごくいいアイディアだと思います」
「はい。もし清田酒造さんが問題なければ、ラベルのデザインくらいなら僕もお手伝いできますし」
「え、よろしいんですか?」
「もちろんです。せっかくご縁があったんですから力になりたくて」
「ありがとうございます……。後ほどご相談してみますね」
「ぜひ。と言いつつ、もうラフは作ってみたんですけど。清田酒造さんのイメージはそのままで、華やかさをプラスしてみました」
小鳥谷さんがパソコンで酒瓶のラベルのサンプルを見せてくれる。ラフと言いつつ完成度が高い。もうこのままオーケーを出してもいいくらい。
「すごい、お洒落~! 素敵ですね!」
そして、フルルのお洒落番長中里ちゃんの太鼓判までも。
はじめから分かっていたことだが、小鳥谷さんはとても優秀だ。私がそう評価するのもおこがましいくらいに。本当に、どうしてこの会社を気にかけてくれるのか、分からないほど。
一度電話で聞いたことがあるが、「花梨の役に立ちたくて」なんて、想像とは違う答えが返ってきたので、恥ずかしくなる前に質問をやめた。
「……それじゃ、僕はこの辺で失礼します。また調整したものをお送りしますから」
「は、はい。ありがとうございました」
さっとパソコンをしまい込んだ小鳥谷さんの後を追って、オフィスの入口まで見送りに向かう。入口で二人きりになると、みんなが見えなくなったことを確認し、小鳥谷さんが私の手を引いた。
「ねえ、ちょっと疲れてる?」
「え?」
「何か、少し目が疲れてるような。昨日も遅くまで仕事してたの?」
オフィスだと言うのに、スッと彼の手が伸びてきて、しなやかな指がこめかみの辺りを撫でる。眼鏡の奥にのぞく彼の瞳と目が合うと、吸い込まれてしまいそうで、視線を逸らした。
「いえ、昨日は早く寝ましたけど……ちょっとパソコンの画面見過ぎてるからかも」
「そっか。花梨はいつも働き過ぎだから、無理しないでね」
そのまま指先が頬へ、顎へとなぞるように降りてくると、胸が大きく高鳴った。
「そんな中お誘いするのもちょっと気が引けるけど……今日の夜会えたりする?」
「大丈夫……あ、でも、ちょっと遅くなるかも、です」
「待ってるから、終わったら連絡して?」
「はい……」
「うん、でしょ。また敬語になってる」
付き合い始めて、敬語はやめるようにと言われたけれど、やっぱりまだ慣れない。
「じゃあ、またあとで」
柔らかな笑みをたたえて、彼はオフィスを去っていった。懐かしい爽やかな香りを残して。
「おお~すごい! 急にスタイリッシュになりましたね!?」
今日は、小鳥谷さんへ依頼していたデザインの納品日で、送られてきたデータを早速従業員のみんなと確認する。無駄がなく、それでいて企業のイメージを崩さないような温かみのあるデザイン。今まで商品を貼り付けただけのページは、カテゴリ毎の紹介ページで見やすく分けられ、ユーザーが欲しい商品へすぐにたどり着けるようになっていた。加えて、その後の関連商品への導線までも完璧だ。
「こんな素敵なサイト作っていただけるなんて、感激です~」
中里ちゃんはうっとりと画面を見つめながら、サイトの至る所をクリックしては感嘆の声を漏らしている。
そして――
「いえいえ。実際にフルルさんのことを伺ったり、この辺りを案内してもらって、インスピレーションが湧いたんです。月舘社長のおかげですよ」
もう秋だというのに爽やかに、相変わらずキラキラと輝く笑顔を浮かべるこの男性は、紛れもなくサイトの作成者だ。かけている眼鏡が、今は仕事モードであることを象徴していた。
「しかも、小鳥谷さんがまたデザイナーとして入ってくれるなんて、社長どんな手使ったんですか!?」
「それはもう――」
「使ってないからね!? 何も!?」
あれから恋人になってしまった私と小鳥谷さんは、そのまま交際を続けていることになっている。もちろん、会社のみんなには伏せているけれど。
そして東京にいるはずの彼が、なぜここにいるかというと――
「でも驚きましたよ。まさかこっちに引っ越してきちゃうなんて!」
「あまりにこの街が気に入ってしまって。僕はフリーのデザイナーだから、住む場所はどこでも構わないので。これも月舘社長がこの街の良さをプレゼンしてくれたおかげですね」
「プレゼンしてませんよ!?」
そう、なんと小鳥谷さんは、つい最近東京から引っ越してきたのだ。
そして今後も、フルルの仕事を受けてくれるという。もちろんフリーのデザイナーであることは変わらないから、こうやって会社に来る頻度は高くないのだけれど。
「本当、社長と何かあったのかと思いましたよ~!」
「ああ、それは――」
「ないよ!? 何も!?」
「社長、さっきから大声出して何なんですか。逆に怪しいですよ」
横から葛巻くんに冷静にツッコミを受けて、しゅんと肩を落とす。でもこうでもしないと、小鳥谷さんはポロッと私たちの関係を暴露してしまいそうだから。
ひとまず付き合うことになったと言っても、彼が引っ越してくるまでは電話とメッセージでのやり取りしかしていないし、未だに付き合っている実感はない。
いつ終わるかも分からない関係だからこそ、みんなにはバレないように仕事がしたい、というのが私の本音だった。それに、中里ちゃん辺りに知られてしまったら、すぐにからかわれて、まともに仕事なんてしていられなさそうだし。
小鳥谷さんと目が合うと、私の考えを見抜いているのか、含みのある笑みを浮かべている。……本当に、いつバレてもおかしくなさそうだ。
気持ちを引き締めていると、小鳥谷さんが思い出したように口を開いた。
「そういえば、清田酒造さんのお酒なんですが、名入れの対応も増やすのはいかがでしょう?」
「名入れ、ですか?」
「はい、以前いただいた身内用に作成したラベルのボトル。ああいう感じで、冠婚葬祭用などに特別な商品を作れば、多少の価格アップもはかれますし、需要も見込めると思うんですよね。良い商品というのは、自宅用よりもギフトとして選ばれる傾向にありますし」
清田酒造でもらった、何も文字が書いていないカラフルなお酒のラベル。確かあれは、親戚の結婚式用に特別に作ったものだと言っていた。他サイトでも名入れの商品はたくさんあるし、コストもかからないのであれば検討してみてもいいかもしれない。
「あの、身内用のラベルってなんですか?」
私たちの会話に、中里ちゃんが興味津々に加わってくる。
「ええ、実は前に清田酒造さんに案内してもらった際に……」
説明をしながら、小鳥谷さんがホテルで撮ったらしき一升瓶の写真をみんなに見せる。それを見て、あの夜の出来事が一瞬でフラッシュバックしてきた。
「本当に美味しいですよね、清田酒造さんのお酒。一升瓶なんてどうしようかと思ったんですが、意外と飲めちゃいました」
「お一人で、ですか? 小鳥谷さんってお酒強いんですね」
「少し知り合いに手伝ってもらったのですが、あとは一人で。そこまで強くはないんですが、飲んでくれる相手がいないので頑張りました」
言いながら小鳥谷さんと再び目が合い、どきりとする。同時に、口が滑って私と飲んでたことを言ってしまいそうな気がして、慌てて話を変えた。
「ええと、それで、名入れラベルを作る話ですよね。すごくいいアイディアだと思います」
「はい。もし清田酒造さんが問題なければ、ラベルのデザインくらいなら僕もお手伝いできますし」
「え、よろしいんですか?」
「もちろんです。せっかくご縁があったんですから力になりたくて」
「ありがとうございます……。後ほどご相談してみますね」
「ぜひ。と言いつつ、もうラフは作ってみたんですけど。清田酒造さんのイメージはそのままで、華やかさをプラスしてみました」
小鳥谷さんがパソコンで酒瓶のラベルのサンプルを見せてくれる。ラフと言いつつ完成度が高い。もうこのままオーケーを出してもいいくらい。
「すごい、お洒落~! 素敵ですね!」
そして、フルルのお洒落番長中里ちゃんの太鼓判までも。
はじめから分かっていたことだが、小鳥谷さんはとても優秀だ。私がそう評価するのもおこがましいくらいに。本当に、どうしてこの会社を気にかけてくれるのか、分からないほど。
一度電話で聞いたことがあるが、「花梨の役に立ちたくて」なんて、想像とは違う答えが返ってきたので、恥ずかしくなる前に質問をやめた。
「……それじゃ、僕はこの辺で失礼します。また調整したものをお送りしますから」
「は、はい。ありがとうございました」
さっとパソコンをしまい込んだ小鳥谷さんの後を追って、オフィスの入口まで見送りに向かう。入口で二人きりになると、みんなが見えなくなったことを確認し、小鳥谷さんが私の手を引いた。
「ねえ、ちょっと疲れてる?」
「え?」
「何か、少し目が疲れてるような。昨日も遅くまで仕事してたの?」
オフィスだと言うのに、スッと彼の手が伸びてきて、しなやかな指がこめかみの辺りを撫でる。眼鏡の奥にのぞく彼の瞳と目が合うと、吸い込まれてしまいそうで、視線を逸らした。
「いえ、昨日は早く寝ましたけど……ちょっとパソコンの画面見過ぎてるからかも」
「そっか。花梨はいつも働き過ぎだから、無理しないでね」
そのまま指先が頬へ、顎へとなぞるように降りてくると、胸が大きく高鳴った。
「そんな中お誘いするのもちょっと気が引けるけど……今日の夜会えたりする?」
「大丈夫……あ、でも、ちょっと遅くなるかも、です」
「待ってるから、終わったら連絡して?」
「はい……」
「うん、でしょ。また敬語になってる」
付き合い始めて、敬語はやめるようにと言われたけれど、やっぱりまだ慣れない。
「じゃあ、またあとで」
柔らかな笑みをたたえて、彼はオフィスを去っていった。懐かしい爽やかな香りを残して。
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