【コミカライズ原作】君とは二度、恋に落ちる〜初めましての彼に溺愛される理由〜

寧子さくら

ハンカチと告白(3)

 果たして、あの告白はなんだったのだろうか。そして、本当に私たちは付き合ったというのだろうか。未だ理解が追い付いていない頭で悩んで、数時間。部屋の中を右往左往しながら自問自答してみても、一向に答えは見つからない。
 その間にベッドサイドの誠の写真が目に入り、いたたまれない気持ちで写真立てを倒した。今、誠を見てると、なぜか昨夜のことを反省してしまうから。
 小鳥谷さんと別れてすぐに、先ほどの告白は冗談かとメッセージを送ってみたものの、この時間まで返信はなかった。

「まさか、からかわれた……?」

 日はあっという間に沈み、平日へのカウントダウンが始まっている。こんなことで、貴重な休日を無駄になんてしたくないのに。

「ダメだ、切り替えなきゃ……!」

 パンパン、と二度頬を抑えつけると、ちょうどベッドの上でスマートフォンが震え始める。表示は小鳥谷奏。散々待たされた上に鳴ったのは、電話の方だった。
 いきなり電話のハードルは高く躊躇うものの、もう一度彼とは話をする必要がある。スマートフォンを持ったまま深呼吸をすると、意を決して通話ボタンを押した。

「も、もしもし……」

 初っ端から失敗。声が裏返ってしまった。誤魔化すように二度、咳ばらいをすると、受話器越しにクスクスと笑い声が聞こえてきた。

『ごめんね、遅くなっちゃって。もしかして待っててくれた?』
「そんなんじゃないですけど……」

 図星だ。小鳥谷さんと別れてから、何も手につかず、ずっと待っていたのだから。

『すぐ返信したかったんだけど、文字じゃ伝わらないかなと思って、ちゃんと電話で話したかったんだ。今、家に帰ってきたところ』
「そう、ですか……お疲れ様です。あの、お疲れのところ申し訳ないですが、先ほどのことは……」
『もちろん冗談じゃないよ。さっきも言ったけど、俺花梨のこと好きになっちゃったから。もっと知りたいなって』
「っ……」

 躊躇いもなく告白をされて、言葉に詰まる。男性に告白されたことなんて、いつぶりかわからない。

「信じられません……」
『じゃあ、これから信じてよ』
「と言われましても、私のどこをそんなに……」

 たった二度会っただけの相手。一応、体は重ねているけれど。

『うーん、好きに理由って必要?』
「それは……まあ……?」
『そうだなぁ。初めから雰囲気も顔も可愛いなって思ってたけど、話してみたらすごく話しやすくて気が合うなって。仕事への姿勢も尊敬できるし。あとは……抱いてみたらすごく可愛かった』
「なっ……!」
『特に声が好き。普段の声も可愛いけど、ベッドでの声はもっと可愛くて――』
「も、もうわかりました! 十分です!」

 一体私は何を聞かされているのだろうか。いや、自分から尋ねたのだけれども。
 小鳥谷さんは「もういいの? まだまだあるのにな」なんて笑っていたけれど、完全にからかわれている気しかしなくて、それ以上は阻止した。

『とりあえずさ、駅でも言ったけど、付き合ってみようよ。花梨が嫌になったら、いつでも言ってくれればいいから』
「でも……」
『チャンスも貰えないなんて、悲しいじゃない。判断するのは、お互いを知ってからでも遅くないでしょ?』
「それは……そうですけど……」
『ほら。だからそういうことで、よろしくね』
「は、はあ……」

 そんなことを言ってしまえば、付き合うのはお互いを知ってからでも遅くないのでは……?
 冷静になって疑問が浮かんだけれど、小鳥谷さんは既に付き合った気満々で、上手く丸め込まれてしまった気がする。

『そうだ。俺、しばらく仕事が立て込んでてすぐには会えないんだけど、花梨が言ってくれたら週末とか時間見つけて会いに行くし』
「えっ」
『寂しい思いはさせたくないから、会いたいときはいつでも言って。なるべく電話はするから、花梨もかけてくれたら嬉しい』
「ええと……」

 この人、本当に東京に住んでいるんだよね……? 世の中、遠距離カップルというのは、これが普通なの……?
 こうなってしまった以上、肯定も否定もできなくて、言葉が見つからない。

『それじゃ、まだ話していたいんだけど……。片づけて仕事しなきゃならなくて』
「あ、すみません……」

 いや、どうして謝ってるんだ私。そもそも電話をかけてきたのは向こうなのに。反射的に謝ってしまった自分にツッコミを入れてしまう。

『だからまた明日の夜かけるよ。花梨も明日から仕事だろうし、今日はゆっくり休んで。昨日はあまり眠れなかったし、ね』
「っ……」

 暗に昨夜のことを言われて、頬がかあっと熱くなる。平常心を装って頷くと、小鳥谷さんが「最後に……」と、何かを言いかけた。

『仕事、頑張れるようにキスしてくれない』
「キスって……無理ですよ! 何言ってるんですか」
『電話に向かって、ふりだけでいいから』

 何それ、恥ずかしすぎる……!

「無理です」

 断固拒否すると、想定通りだったのか、小鳥谷さんは「残念だな」と楽しそうに笑う。

『じゃあ、今日は俺だけね。おやすみ』

 そう言って、受話器越しにちゅっと微かに音を立てて電話が切られる。

「!?」

 電話が切れて、静かになったあとも、耳にリップ音がこびりつくように残る。直接キスをされたわけでもないのに、しばらくの間、右耳が熱を持ったように熱かった。

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