【コミカライズ原作】君とは二度、恋に落ちる〜初めましての彼に溺愛される理由〜

寧子さくら

一夜の過ち(2)

「あ、あの?」
「先ほど、僕とその彼が似てるって言いましたよね」
「ええ……まあ、なんとなくですけど。雰囲気なのか、理由はわからないんですが……」

 自分でもよくわからない、不思議な話だ。そんなことを言ったって、小鳥谷さんを困らせるだけなのに。

「それなら……月舘さんが寂しいなら、僕をその彼の代わりにしてもいいですよ」
「代わりって、何言って――っ……」

 言葉の真意を確かめる前に、小鳥谷さんの腕の中へ引き寄せられる。ドクドクと波打つ鼓動は、自分のものなのか彼のものなのかわからない。そっと体が離れると、至近距離で小鳥谷さんと目が合った。
 長いまつ毛から覗かせる、色素の薄い瞳。真っ直ぐに見つめられると、声を出すことはおろか、息をすることすら忘れてしまいそうだ。そのまま、引き寄せられるように唇が重なる。ほんの一瞬だったはずなのに、体感は長く、永遠のよう。触れただけの唇が離れていくと、やっと小さく声が漏れた。

「あ……」

 その後の言葉はなかった。もう一度唇が重なると、堰を切ったように濃厚なものへと変わっていく。口づけを交わしながら、彼のしなやかな指先が私の髪を絡めとり、指先で弄ぶ。そのままゆっくりと、耳たぶを刺激すると、自分のものとは思えない声が漏れた。

「耳、弱いんだ」
「そんなっ……」

 耳元で低い声が響いたかと思えば、濡れた唇が耳たぶを優しく食む。そして、なぞるように、生暖かい舌が伝った。反対の耳は手で覆われて、いやらしい水音が耳の中に籠り、ゾクゾクとした感覚が全身を刺激する。

「や、やめ……」

 右手で私の弱い部分を執拗にいじりながら、左手で上半身を弄っていく。その度に私の体はピクリと反応し、熱を持つ。ダメだと頭の中では分かっているのに、体が言うことを聞かない。一瞬お酒のせいかと思ったけれど、言うほど酔いは回っていないはず。
 襲ってくる慣れない快感に、反射的に小鳥谷さんの腕をつかむと、ふわりと体が宙に浮いた。

「ひゃっ!?」

 そのまま横のベッドの上にゆっくりとおろされ、小鳥谷さんが覆いかぶさる。切なげな、それでいて艶っぽい眼差しで私を見下ろすと、二人の唾液でしっとりと濡れた唇が小さく動いた。

「……ずっと、こうしたかった」
「え……?」

 ずっと、とはいつからなのか。冷静に考えれば、昨日今日の話。だけど、彼が見ているのは、もっとずっと、遠い昔のような気がして、戸惑いを覚えた。

「小鳥谷さん……?」

 尋ねようとするも、彼が麻のシャツのボタンをひとつずつ外し始めたのを見て、一瞬で我に返る。

「あ、あの、私そんなつもりじゃ……さっきの寂しいっていうのは、言葉の綾で……」
「大丈夫。わかってる」

 何を分かっているのか。私の気持ちを汲んだように彼が微笑む。

「そ、それに私こういうことは……」
「初めて?」

 初めて、ではない。だけど、遠い昔に、数える程度。しかも誠としか経験がない。それはもはや、初めてと言ってもいいのでは? とも思うけれど。

「……ではないですけど」
「知ってる」
「し、知ってる!? それって――やっ……」 

 軽い女だと思われてるってこと!? なんて聞く余裕もなく、素早く上のシャツを脱いだ小鳥谷さんに、着ていたブラウスなど一瞬で捲し上げられてしまった。

「そういう意味じゃないですよ。月舘さんが軽い女性じゃないってことくらい、分かってるから……」
「でも……」
「僕が、抱きたいんです。だから、今日は黙って抱かれてて」
「んっ……」

 ふかふかのベッドと、力強い小鳥谷さんの腕に板挟みにされて、私はもう身動きが取れない。
 昨日会ったばかりの、しかも仕事相手の男性とこんなことになるなんて……。絶対いけないこと。止めなきゃいけないのに。彼の視線が、匂いが、体温が、なぜか私の理性を狂わせる。それは小鳥谷さんと誠が重なるからなのだろうか。
 全身に彼からの愛撫を受けると、理由なんてもう考えられなくなってくる。散々考えて考えて、パンクしかけた頭の中は、もはや投げやり状態だ。
 ついに抵抗する腕を緩めたとき、最後に残っていた理性が、一気に私を現実へと引き戻した。

「ま、待って……!」
「待てない」
「それなら、せめて、シャワーを……!」

 このタイミングでそんなことを言うと思わなかったのか、小鳥谷さんは呆気にとられたように口をぽかんと開ける。
 一日中車移動をしていたとはいえ、今は夏だ。昼間にかいた汗が、べっとりと肌に張り付いて、居心地が悪い。

「……僕は気にしないけど」
「だ、だめです……」

 懇願すると小鳥谷さんは納得してくれたのか、ゆっくりと体を起こす。そのままベッドに腰かけると、浴室の方へ目を向けた。

「じゃあ、お先にどうぞ」
「あ、私は後で……」

 遠慮しても、彼は引かない。これ以上拒む理由はないので、自分でも分かるくらい紅潮した頬を隠しながら浴室へと向かった。

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