ショートケーキは半分こで。〜記憶を失った御曹司は強気な秘書を愛す〜
2-4
「どうですか? 他にもなにかケーキ持ってきましょうか?」
「ん、大丈夫ですよ。今日はこのショートケーキの味を楽しみたいと思います」
「そうですか。それでもなにか食べたくなったら遠慮なく言ってくださいね!」
本郷は口角を上げ、目を細めながら「ありがとう」と答えた。
(ううっ……か、可愛い! 成人男性に可愛いは違うかも知れないけどかっこいいし、可愛いのよ! 顔面どストライクっ!)
本郷に対して何度もときめいてしまっている自分の気持ちが隠しきれなくなりそうで羽美は俯いた。気持ちを落ち着けようと紅茶を啜りながらちらっと前へ視線を向けると本郷が片手をこめかみに添え眉間にシワを寄せている。
「大丈夫ですか? もしかして体調悪かったんですか……?」
本郷は「大丈夫ですよ」と耳たぶを触りながら力ないヘラっとした笑顔を見せた。
(あ……同じだ……)
また、本郷と海斗が重なる。海斗は大丈夫じゃないときほど無理やり笑っていたのだ。それも嘘をつく時には必ずと言っていいほど耳たぶを触りながら。癖さえも同じって事はあるのだろうか。羽美はついその仕草に釘付けになってしまった。
(癖まで同じなんて有り得る? でも違う人なんだもんね……本当に違う人、なの?)
羽美はブンブンブンと顔を横に振る。つい海斗と結びつけしまう自分の思考回路を違う違うと振り払った。目の前の人は海斗じゃない。本郷海斗という人間だ。そう思っているはずなのに、どうしても気になって、嘘をついた時の仕草で余計に心配で、なるべく早くお開きにしようと羽美は残りのケーキを急いで食べた。
「んっ、ごちそうさまでした!」
両手を合わせてごちそうさまをした羽美を見て本郷は最後まで残していた苺をぱくりと食べた。本郷は美味しそうに頬を緩める。
「ん、私もごちそうさまでした。美味しかったですね」
「本当ですね、一緒に食べようだなんて変な提案受け入れてくださりありがとうございました。あと知り合いと間違えてしまって本当に失礼しました」
羽美はペコリと頭を下げた。本郷の様子を見る限りもう体調は良さそうにも感じて羽美はホッとした。
(もう、帰らないといけないよね……)
二人のお皿はクリームも綺麗に無くなっている。紅茶も、あと数口分しか残っていない。羽美はゴクンと喉が鳴る勢いで紅茶を一口喉を通し、深く息を吸った。もしここで美味しかったですねと言い、さようならでもう本郷とは会うことはないだろう。それは……嫌だ。自分の探し求めている海斗じゃないことは分かっているはずだ。ただ、今、目の前にいる本郷海斗と一緒にいると楽しくて、もっと一緒に居たいと思ってしまっていた。
もう自分はあの時のように何も出来ない子どもじゃない。もう立派に成人して、なんならもうアラサーに片足つっこんでるけど、仕事も最近無職になって就活中だけど! とにかくもう子どもじゃない。なにかしら出来るはずだ。異性に対してこんなに強く興味が湧くのは初めてだ。海斗に似てるからというのがその興味の大半を占めていることは分かっているけれどこのチャンス、絶対に逃したくない。
「あ、あのっ!」
緊張のあまり声が上擦った。恥ずかしい。勢いが良すぎて本郷も少し驚いた顔をして羽美を見ている。でも、気にしたら負けだ。
「れ、連絡先教えて下さい! 好きなんです!」
――え? 好き?
(ちょ、ちょっと待って。私今好きって言っちゃたよね!? え!? 海斗も好きだけど本郷さんも好きみたいなビッチ発言になってない? いやいやいや本郷さんも凄い驚いた、というか顔めっちゃ引いてるぅう! 訂正、訂正しなくちゃ!)
明らかにポカンと言葉を失っている本郷に羽美は慌てて声を掛けた。
「あ、えっと、ケーキ! そう、ケーキが好きなんです! だからその、また一緒に食べたいなぁ、なんて」
ハハハと苦し紛れの笑いでなんとか誤魔化そうと頑張ったがやはり無理があっただろうか。数秒前の自分を殴りたい!
「……っ、ハハッ、あ〜面白い。本当大倉さんは面白いなぁ」
本郷は腹手をあててケラケラと笑いだした。
「あ、あはは、よく言われます」
(いや、言われないですけどね……貴方の前だけテンパっちゃってるだけなんです……)
本郷は笑い過ぎたのか少しむせて残っていた紅茶をごくごくと飲み干した。
「いいですよ。大倉さんと一緒にいると面白いし、また一緒にケーキを食べましょう」
笑いすぎて目尻からでた涙を指で拭き取りながら本郷は答えた。
「いいんですか!?」
「ははっ、いいですよ」
すっとスマートフォンを羽美の前に差し出した本郷は「あ〜面白い」とまだ笑っている。羽美も可笑しくて、嬉しくて急いでバックからスマートフォンを取り出し「お、お願いします!」と頭を下げた。
羽美のスマートフォンがブブッと震える。画面をみるとヘンテコな棒人間が笑い転げているスタンプが送られてきた。
「なにこれっ」
「かわいくないですか? 私のお気に入りのスタンプですよ」
お互い目を合わせてクスクスと笑い合う。羽美の連絡先に本郷海斗が新しく追加された。
「じゃ、じゃあまた。今日はありがとうございました。結局奢ってもらってしまって、私が誘ったのにすいません」
「いいんですよ。私が楽しい時間を大倉さんから貰ったんですから。また一緒にケーキ食べましょうね」
本郷の顔が羽美の耳元に近づいた。吐息さえも感じてしまう距離に羽美はドキドキと胸が高鳴って、動揺が隠せない。
「あ、あの。本郷、さん……?」
本郷は羽美の耳元で小さく囁いた。
「今度僕に似た大倉さんの初恋の相手の話でも聞かせてもらおうかな」
「なっ!」
「またね」
(初恋の相手ってなんでばれてるの!?)
コツコツと革靴の音が遠のいていく。羽美はしばらく本郷の背中を見つめていた。囁かれた耳元が燃えるように熱い。頬も、首も、身体も全部が生クリームのようにドロドロと溶けてしまいそうだ。
「どうしよう、海斗……」
羽美は本郷海斗の連絡先が追加されたスマートフォンを胸の前で強く握りしめた。
「ん、大丈夫ですよ。今日はこのショートケーキの味を楽しみたいと思います」
「そうですか。それでもなにか食べたくなったら遠慮なく言ってくださいね!」
本郷は口角を上げ、目を細めながら「ありがとう」と答えた。
(ううっ……か、可愛い! 成人男性に可愛いは違うかも知れないけどかっこいいし、可愛いのよ! 顔面どストライクっ!)
本郷に対して何度もときめいてしまっている自分の気持ちが隠しきれなくなりそうで羽美は俯いた。気持ちを落ち着けようと紅茶を啜りながらちらっと前へ視線を向けると本郷が片手をこめかみに添え眉間にシワを寄せている。
「大丈夫ですか? もしかして体調悪かったんですか……?」
本郷は「大丈夫ですよ」と耳たぶを触りながら力ないヘラっとした笑顔を見せた。
(あ……同じだ……)
また、本郷と海斗が重なる。海斗は大丈夫じゃないときほど無理やり笑っていたのだ。それも嘘をつく時には必ずと言っていいほど耳たぶを触りながら。癖さえも同じって事はあるのだろうか。羽美はついその仕草に釘付けになってしまった。
(癖まで同じなんて有り得る? でも違う人なんだもんね……本当に違う人、なの?)
羽美はブンブンブンと顔を横に振る。つい海斗と結びつけしまう自分の思考回路を違う違うと振り払った。目の前の人は海斗じゃない。本郷海斗という人間だ。そう思っているはずなのに、どうしても気になって、嘘をついた時の仕草で余計に心配で、なるべく早くお開きにしようと羽美は残りのケーキを急いで食べた。
「んっ、ごちそうさまでした!」
両手を合わせてごちそうさまをした羽美を見て本郷は最後まで残していた苺をぱくりと食べた。本郷は美味しそうに頬を緩める。
「ん、私もごちそうさまでした。美味しかったですね」
「本当ですね、一緒に食べようだなんて変な提案受け入れてくださりありがとうございました。あと知り合いと間違えてしまって本当に失礼しました」
羽美はペコリと頭を下げた。本郷の様子を見る限りもう体調は良さそうにも感じて羽美はホッとした。
(もう、帰らないといけないよね……)
二人のお皿はクリームも綺麗に無くなっている。紅茶も、あと数口分しか残っていない。羽美はゴクンと喉が鳴る勢いで紅茶を一口喉を通し、深く息を吸った。もしここで美味しかったですねと言い、さようならでもう本郷とは会うことはないだろう。それは……嫌だ。自分の探し求めている海斗じゃないことは分かっているはずだ。ただ、今、目の前にいる本郷海斗と一緒にいると楽しくて、もっと一緒に居たいと思ってしまっていた。
もう自分はあの時のように何も出来ない子どもじゃない。もう立派に成人して、なんならもうアラサーに片足つっこんでるけど、仕事も最近無職になって就活中だけど! とにかくもう子どもじゃない。なにかしら出来るはずだ。異性に対してこんなに強く興味が湧くのは初めてだ。海斗に似てるからというのがその興味の大半を占めていることは分かっているけれどこのチャンス、絶対に逃したくない。
「あ、あのっ!」
緊張のあまり声が上擦った。恥ずかしい。勢いが良すぎて本郷も少し驚いた顔をして羽美を見ている。でも、気にしたら負けだ。
「れ、連絡先教えて下さい! 好きなんです!」
――え? 好き?
(ちょ、ちょっと待って。私今好きって言っちゃたよね!? え!? 海斗も好きだけど本郷さんも好きみたいなビッチ発言になってない? いやいやいや本郷さんも凄い驚いた、というか顔めっちゃ引いてるぅう! 訂正、訂正しなくちゃ!)
明らかにポカンと言葉を失っている本郷に羽美は慌てて声を掛けた。
「あ、えっと、ケーキ! そう、ケーキが好きなんです! だからその、また一緒に食べたいなぁ、なんて」
ハハハと苦し紛れの笑いでなんとか誤魔化そうと頑張ったがやはり無理があっただろうか。数秒前の自分を殴りたい!
「……っ、ハハッ、あ〜面白い。本当大倉さんは面白いなぁ」
本郷は腹手をあててケラケラと笑いだした。
「あ、あはは、よく言われます」
(いや、言われないですけどね……貴方の前だけテンパっちゃってるだけなんです……)
本郷は笑い過ぎたのか少しむせて残っていた紅茶をごくごくと飲み干した。
「いいですよ。大倉さんと一緒にいると面白いし、また一緒にケーキを食べましょう」
笑いすぎて目尻からでた涙を指で拭き取りながら本郷は答えた。
「いいんですか!?」
「ははっ、いいですよ」
すっとスマートフォンを羽美の前に差し出した本郷は「あ〜面白い」とまだ笑っている。羽美も可笑しくて、嬉しくて急いでバックからスマートフォンを取り出し「お、お願いします!」と頭を下げた。
羽美のスマートフォンがブブッと震える。画面をみるとヘンテコな棒人間が笑い転げているスタンプが送られてきた。
「なにこれっ」
「かわいくないですか? 私のお気に入りのスタンプですよ」
お互い目を合わせてクスクスと笑い合う。羽美の連絡先に本郷海斗が新しく追加された。
「じゃ、じゃあまた。今日はありがとうございました。結局奢ってもらってしまって、私が誘ったのにすいません」
「いいんですよ。私が楽しい時間を大倉さんから貰ったんですから。また一緒にケーキ食べましょうね」
本郷の顔が羽美の耳元に近づいた。吐息さえも感じてしまう距離に羽美はドキドキと胸が高鳴って、動揺が隠せない。
「あ、あの。本郷、さん……?」
本郷は羽美の耳元で小さく囁いた。
「今度僕に似た大倉さんの初恋の相手の話でも聞かせてもらおうかな」
「なっ!」
「またね」
(初恋の相手ってなんでばれてるの!?)
コツコツと革靴の音が遠のいていく。羽美はしばらく本郷の背中を見つめていた。囁かれた耳元が燃えるように熱い。頬も、首も、身体も全部が生クリームのようにドロドロと溶けてしまいそうだ。
「どうしよう、海斗……」
羽美は本郷海斗の連絡先が追加されたスマートフォンを胸の前で強く握りしめた。
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