恋と遺伝子~相性98%のおためし同居生活~

寧子さくら

おためしは未来永劫へ(2)

「それから、結婚したい理由はもうひとつある」
「何ですか?」
「……やっぱり君が俺の最愛の人であると、黙っていられない。公表したい」
「公表って……会社にですか!?」
「ああ。結婚するなら問題ないだろ。ダメか?」
「ダメってわけではないですけど、ちょっと……」

 それはそれで、周りからの視線が気になるような……。

「なら問題ない。これで仁菜に手を出すやつもいないな」
「元々いませんけど……!?」
「影から狙ってるかもしれない。男っていうのは下心があるからな」

 啓さんは大真面目のようだが、私はいまいちピンと来ていない。やはり彼は心配性だ。そして嫉妬深い。

「……でも会社でいちゃつくのは禁止ですよ?」
「誰も見てないところなら構わないだろ」
「ダメです……!」

 きっとダメなんて言っても、彼は言うことを聞いてくれない。これから先の未来を想像すると、楽しみなような、幸せのような、でも大変のような……いろんな気持ちがない交ぜだ。でも、彼とだったら楽しいことは間違いないのだけれど。

「それに、新しい遺伝子マッチングサービスの宣伝になるかもしれないだろ?」
「た、たしかに。って、流されませんよ!?」
「いや、これはいい考えだ。相性九十八パーセントだなんて、そうそう出るもんじゃない。社外にも公表して……」
「わーダメです! ダメ!」

 本当にこのままだと彼の思い通りになりそうだ。だけど、他の女性社員の中でもずば抜けて高かった数値だと聞き、それほどまでに啓さんとの相性が良いことは素直に嬉しかった。
 ただ、今更ながらひとつ気になるのは……。

「でも残りの二パーセントって、何が合わないんでしょう……」

 よく考えれば、たまに食の好みの違いなどもあった。
 特別気にしているわけではないが、足りないものがあれば補いたいと思うのがサガではないだろうか。
 せっかくなら一〇〇パーセントでいたいから。

「そうだな……。似てるところ、かもしれないな」
「どういう意味ですか?」
「俺たちはいつも互いを思い過ぎる。だからすれ違っただろ」

 それはきっと、啓さんのお見合いの件を聞いて、私が家を出たときのことだ。
 彼は私に余計な心配をさせないようにと突き放し、私は彼を困らせたくなくて黙って家を出た。

「互いに似ていると、たまにそうやってすれ違うことがある」
「なるほど……」
「まあ、あくまで仮説でしかないが。でももう数値なんて関係ないだろ。俺たちの相性が良いことは十分わかったし、足りないところがあるなら二人で埋めていけばいい」
「……そうですね」

 見つめ合って、小さくキスを交わす。

「それじゃ、そろそろ戻るか。寒くなってきたしな」
「はい……」
「それに、帰って君を抱かなきゃいけないし」
「え!?」

 決してそんな約束はしていないのだが、これは決定事項らしい。この後の情事を思い浮かべて、不覚にも体の奥が疼いた。私も啓さんのことを、とやかく言う資格はないようだ。

「それと、今日は寝ている間に消えないでくれよ」
「そ、そんなことしませんよ!」
「いや、今日だけじゃない。これからずっと、俺が起きるまで傍にいてくれ」
「っ……でも、私が早く起きるときもあるかも」
「今のは黙って頷くところだろう」

 互いに笑い合ったあとで、そのまま手を引かれ、車へと戻った。





 その夜。啓さんに散々抱かれた後で、夢を見た。内容は覚えていないけど、温かくてふわふわして、幸せな夢。
 目が覚めた時彼にその話をすると、「俺もだ」と頷いてキスをしてくれた。
 これからも彼が、たくさん幸せな夢を見られるように。
 ずっと隣で眠ってあげられるのは、あとほんの少しだけ先の話――


Fin

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