恋と遺伝子~相性98%のおためし同居生活~
過去とこれから(3)
啓さんの父親に会いに行くのは、次の週末になった。
都内から彼の車で約二時間ほど。信号もお店もない山道を抜けていくと、人里が見え始めた。
そこからはゆっくりと、疎らに建っている家を進んでいき、小さな古民家風の家の敷地に車を停めた。
「ここですか?」
「……みたいだな」
車を降り、『羅賀』の表札を確認したあとで玄関のインターホンを押す。どんな人が出てくるのかと緊張して待っていると、程なくして玄関のドアが開いた。
「あ……」
現れたのは、白髪交じりの男性。年齢は六十代くらいで、私の両親よりは少し年上に見えた。
スラッとした高身長に、どことなく寡黙な印象を与える切れ長の目。見た瞬間に、啓さんの父親であることが分かった。
「久しぶりだな」
「ああ……」
十年以上会っていない二人が交わした挨拶はそれだけ。啓さんの父親は、すぐに私に視線を向けて、彼とそっくりな顔で微笑んだ。
「君が姫松さんか。七滝から聞いてるよ」
「は、はじめまして。姫松仁菜です……」
失礼のないように挨拶をし、頭を下げる。
それにしても、七滝さんは何て言ったのだろう……?
今ここで質問するのも野暮に思えて、啓さんの父親に促されるままに家にお邪魔した。
中に入ると、開放的なリビングのへ案内される。ほとんどが木で作られた家具は外から光をいっぱいに浴び、奥には薪ストーブの暖炉があった。
ソファに案内されると、程なくして彼の父親が自らコーヒーを持ってきてくれる。
お礼を言いながら隣にいる啓さんを見るが、彼は全く口を開かない。その上、父親のことも見ないのだから、どうしたものだろう。
私から口を挟むことでもないが、沈黙は気まずく、ひとまず当たり障りのないことを話そうと口を開いた。
「す、素敵なお家ですね」
まるで古民家ホテルのような素敵な内装。ついキョロキョロと辺りを見回していると、彼の父親がクスリと笑った。
「ありがとう。ここは古い民家をリノベーションしたんだ。妻が昔、こういう家に住みたいって言ってたからね」
「え……」
「生前叶えてあげることはできなかったけど」
言いながら、父親はどこか一点を穏やかな顔で見つめる。そこには、仏壇のような棚の上に啓さんの母親と思われる女性の写真が飾られていた。そして、その横には幼い男の子が並ぶ家族写真まで。
啓さんの話では、母親が亡くなったのは父親の不倫疑惑だと聞いていた。だけど、彼の父親が母親に向ける視線はとても穏やかで、初対面の私ですら、この人が不倫をするようには思えなかった。
「写真、気になるなら見てくれて構わないよ。啓も映ってるから」
「えっ、よろしいんですか? 失礼します……」
棚に近づくと、楽しそうに笑う彼の母親。笑った時に目がクシャッとなるのは、母親似なんだろう。
その横にある家族写真で無邪気にピースをしているのは、啓さんだ。おそらく小学生くらいだけど、やけに面影がある。
それに……。
「か、可愛い……!」
ミニマムな啓さんは、破壊力が半端ない。そしてこの頃からイケメンだったことは言うまでもない。これは将来有望だ。
思わず漏れた独り言に慌てて口を噤むが、彼の父親は「そうだろう?」と得意げに話に乗ってくる。
「もしよかったら他にもアルバムあるから、見て行って」
「本当ですか……!?」
こうなると私はただの啓さんのファンだ。
彼の父親と二人で盛り上がってると、ずっと無言を決め込んでいた啓さんがため息をついた。
いけない、はしゃぎすぎてしまった。
「す、すみません。つい……」
反省して慌てて席へ戻ると、啓さんは「まったく」と呆れ笑いを浮かべた。
「やっぱり仁菜を連れて来て正解だったな」
「え……」
私を見て微笑んだ後、彼は父親を見て姿勢を正す。
都内から彼の車で約二時間ほど。信号もお店もない山道を抜けていくと、人里が見え始めた。
そこからはゆっくりと、疎らに建っている家を進んでいき、小さな古民家風の家の敷地に車を停めた。
「ここですか?」
「……みたいだな」
車を降り、『羅賀』の表札を確認したあとで玄関のインターホンを押す。どんな人が出てくるのかと緊張して待っていると、程なくして玄関のドアが開いた。
「あ……」
現れたのは、白髪交じりの男性。年齢は六十代くらいで、私の両親よりは少し年上に見えた。
スラッとした高身長に、どことなく寡黙な印象を与える切れ長の目。見た瞬間に、啓さんの父親であることが分かった。
「久しぶりだな」
「ああ……」
十年以上会っていない二人が交わした挨拶はそれだけ。啓さんの父親は、すぐに私に視線を向けて、彼とそっくりな顔で微笑んだ。
「君が姫松さんか。七滝から聞いてるよ」
「は、はじめまして。姫松仁菜です……」
失礼のないように挨拶をし、頭を下げる。
それにしても、七滝さんは何て言ったのだろう……?
今ここで質問するのも野暮に思えて、啓さんの父親に促されるままに家にお邪魔した。
中に入ると、開放的なリビングのへ案内される。ほとんどが木で作られた家具は外から光をいっぱいに浴び、奥には薪ストーブの暖炉があった。
ソファに案内されると、程なくして彼の父親が自らコーヒーを持ってきてくれる。
お礼を言いながら隣にいる啓さんを見るが、彼は全く口を開かない。その上、父親のことも見ないのだから、どうしたものだろう。
私から口を挟むことでもないが、沈黙は気まずく、ひとまず当たり障りのないことを話そうと口を開いた。
「す、素敵なお家ですね」
まるで古民家ホテルのような素敵な内装。ついキョロキョロと辺りを見回していると、彼の父親がクスリと笑った。
「ありがとう。ここは古い民家をリノベーションしたんだ。妻が昔、こういう家に住みたいって言ってたからね」
「え……」
「生前叶えてあげることはできなかったけど」
言いながら、父親はどこか一点を穏やかな顔で見つめる。そこには、仏壇のような棚の上に啓さんの母親と思われる女性の写真が飾られていた。そして、その横には幼い男の子が並ぶ家族写真まで。
啓さんの話では、母親が亡くなったのは父親の不倫疑惑だと聞いていた。だけど、彼の父親が母親に向ける視線はとても穏やかで、初対面の私ですら、この人が不倫をするようには思えなかった。
「写真、気になるなら見てくれて構わないよ。啓も映ってるから」
「えっ、よろしいんですか? 失礼します……」
棚に近づくと、楽しそうに笑う彼の母親。笑った時に目がクシャッとなるのは、母親似なんだろう。
その横にある家族写真で無邪気にピースをしているのは、啓さんだ。おそらく小学生くらいだけど、やけに面影がある。
それに……。
「か、可愛い……!」
ミニマムな啓さんは、破壊力が半端ない。そしてこの頃からイケメンだったことは言うまでもない。これは将来有望だ。
思わず漏れた独り言に慌てて口を噤むが、彼の父親は「そうだろう?」と得意げに話に乗ってくる。
「もしよかったら他にもアルバムあるから、見て行って」
「本当ですか……!?」
こうなると私はただの啓さんのファンだ。
彼の父親と二人で盛り上がってると、ずっと無言を決め込んでいた啓さんがため息をついた。
いけない、はしゃぎすぎてしまった。
「す、すみません。つい……」
反省して慌てて席へ戻ると、啓さんは「まったく」と呆れ笑いを浮かべた。
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