恋と遺伝子~相性98%のおためし同居生活~
さよならとキス(6)
週明け。土日のほとんどが引っ越しの片づけなどで終わってしまい、休んだ気がしないまま月曜日を迎えた。そのおかげで部屋はすっかり片付いたし、余計なことを考えなくて済んだのが救いだ。
「姫松さん、何か気合入ってません?」
とにかく啓さんのことを考えないようにと気合を入れていたせいか、会議終わりに滝沢さんが声をかけてきた。
「え、そうですか?」
「なんとなくメラメラとやる気を感じるっていうか」
「何ですかそれ」
彼が体で表現しているのが何だかおかしくて、クスクスと笑い声を漏らす。
そのまま会議室を出ようとして、ちょうど廊下を歩いてきた人物にぶつかりそうになった。
「あ、すみませ……っ!」
謝りながら相手に顔を向けると、そこに立っていたのは啓さん。土曜の朝まで一緒にいたというのに、それはもうとっくに昔のことに思えた。
突然のことに思考停止している私に、啓さんはひどく冷たい視線を向けた。
「会議室、使用予約を入れてるんだが」
「は、はい。もう終わったところですので、失礼いたしました……」
慌てて頭を下げると、啓さんの横をすり抜けて廊下に出る。後ろにいた滝沢さんもさすがに焦ったのか、啓さんに軽く挨拶をして飛び出してきた。
「うわーびっくりした。姫松さん、ぶつかるところでしたね」
「はい……」
「てか社長こわ! あんな近くでお目にかかったの、久しぶり過ぎて緊張した~」
滝沢さんは体温が上がったのか、手でパタパタと自身を扇いでいる。私はというと、啓さんに見下ろされた視線が冷た過ぎて、背筋が凍ってしまうかと思った。
勝手に出て行ったことを怒っているのだろうか。三週間もお世話になったのに、置き手紙だけで出て行くなんて、非常識なやつだと思われているのだろうか。
すべて私が悪いのに、今になって後悔のようなものが押し寄せてきた。今更どうしようもないことなのに。
「でも、最近社長変わったって噂だったのにおかしいっすね」
「変わったって、どういう風にですか?」
「あれ、姫松さん知らないですか? この間他部署の子が、挨拶の時微笑んでもらえたってキャーキャーしてて。噂じゃ、最近雰囲気も柔らかくなっただの言われてるみたいっすよ」
「え……」
「あれで人当たりも良くなったら最強すぎません? 絶対モテまくりだし……って、結婚するのか」
先日のお見合いの話を思い出して滝沢さんが呟く。彼に何も悪気はないことは分かってはいるけれど、『結婚』という言葉が、私の胸に突き刺さった。
実はあれから程なくして、ミドウフィオレとの資本業務提携の話が決まった。ミキウェデングの出資の話はまだ聞いていなかったが、その話だけでも彼がお見合いを受けたのではないかと推測できた。それもあって滝沢さんも、結婚の話を出したのだろう。
「あ、もしかしたらそれで雰囲気変わったのかも?」
「さあ、どうなんでしょうね~」
適当に相槌を打ちながらも、心がすり減っていくのを感じる。
ついこの間まで、私にしか見せなかった彼の穏やかな雰囲気は、今や社員のみんなが感じるようになっている。それと裏腹に、先ほど私は冷たい視線を浴びせられた。
何とも皮肉なものだ。私自身がそうさせたかもしれないというのに。
「よし、仕事しましょ! 仕事!」
「え、どうしたんすか?」
「気合入れたくなって」
小さくガッツポーズを決めると、自席へと戻る。
啓さんを忘れるためには、もう仕事しかない。
そう自分に言い聞かせ、全神経を仕事に集中させた。
「姫松さん、何か気合入ってません?」
とにかく啓さんのことを考えないようにと気合を入れていたせいか、会議終わりに滝沢さんが声をかけてきた。
「え、そうですか?」
「なんとなくメラメラとやる気を感じるっていうか」
「何ですかそれ」
彼が体で表現しているのが何だかおかしくて、クスクスと笑い声を漏らす。
そのまま会議室を出ようとして、ちょうど廊下を歩いてきた人物にぶつかりそうになった。
「あ、すみませ……っ!」
謝りながら相手に顔を向けると、そこに立っていたのは啓さん。土曜の朝まで一緒にいたというのに、それはもうとっくに昔のことに思えた。
突然のことに思考停止している私に、啓さんはひどく冷たい視線を向けた。
「会議室、使用予約を入れてるんだが」
「は、はい。もう終わったところですので、失礼いたしました……」
慌てて頭を下げると、啓さんの横をすり抜けて廊下に出る。後ろにいた滝沢さんもさすがに焦ったのか、啓さんに軽く挨拶をして飛び出してきた。
「うわーびっくりした。姫松さん、ぶつかるところでしたね」
「はい……」
「てか社長こわ! あんな近くでお目にかかったの、久しぶり過ぎて緊張した~」
滝沢さんは体温が上がったのか、手でパタパタと自身を扇いでいる。私はというと、啓さんに見下ろされた視線が冷た過ぎて、背筋が凍ってしまうかと思った。
勝手に出て行ったことを怒っているのだろうか。三週間もお世話になったのに、置き手紙だけで出て行くなんて、非常識なやつだと思われているのだろうか。
すべて私が悪いのに、今になって後悔のようなものが押し寄せてきた。今更どうしようもないことなのに。
「でも、最近社長変わったって噂だったのにおかしいっすね」
「変わったって、どういう風にですか?」
「あれ、姫松さん知らないですか? この間他部署の子が、挨拶の時微笑んでもらえたってキャーキャーしてて。噂じゃ、最近雰囲気も柔らかくなっただの言われてるみたいっすよ」
「え……」
「あれで人当たりも良くなったら最強すぎません? 絶対モテまくりだし……って、結婚するのか」
先日のお見合いの話を思い出して滝沢さんが呟く。彼に何も悪気はないことは分かってはいるけれど、『結婚』という言葉が、私の胸に突き刺さった。
実はあれから程なくして、ミドウフィオレとの資本業務提携の話が決まった。ミキウェデングの出資の話はまだ聞いていなかったが、その話だけでも彼がお見合いを受けたのではないかと推測できた。それもあって滝沢さんも、結婚の話を出したのだろう。
「あ、もしかしたらそれで雰囲気変わったのかも?」
「さあ、どうなんでしょうね~」
適当に相槌を打ちながらも、心がすり減っていくのを感じる。
ついこの間まで、私にしか見せなかった彼の穏やかな雰囲気は、今や社員のみんなが感じるようになっている。それと裏腹に、先ほど私は冷たい視線を浴びせられた。
何とも皮肉なものだ。私自身がそうさせたかもしれないというのに。
「よし、仕事しましょ! 仕事!」
「え、どうしたんすか?」
「気合入れたくなって」
小さくガッツポーズを決めると、自席へと戻る。
啓さんを忘れるためには、もう仕事しかない。
そう自分に言い聞かせ、全神経を仕事に集中させた。
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