恋と遺伝子~相性98%のおためし同居生活~
さよならとキス(4)
その日の夜。啓さんは宣言通り、思ったよりも早く帰宅をした。
別々にお風呂を済ませ、リビングでお酒を飲み交わしたのは、二十一時頃。今日は私のリクエストでウィスキーを飲みながら、他愛もない会話を楽しんだ。
「そういえば、どうして今朝はあんな誘うようなことを言ったんだ」
しばらくして、啓さんはずっと疑問に思っていたのか、朝の出来事について尋ねてきた。
「深い意味はとくに……」
「それは困る。君のせいで、一日中悶々とした気分を過ごしたんだ」
「ふふ、社長もそんなこと言うんですね」
あまりに真剣に言うから、面白おかしくて笑みをこぼす。すると彼は少し怒ったように口を尖らせた。
「俺も男だからな。あと、プライベートは名前で呼べと言っただろう」
「……デートの時だけかと」
「会社以外は名前で構わない」
「でも、やっぱり少し呼びづらくて」
「俺がそうして欲しいんだ」
きっと深い意味はないのだろうけど、期待してしまいそうな言い方をする。そう言われてしまえば、私は頷くほかなかった。
「では、啓さん……今日はお話があります」
「なんだ改まって」
私が姿勢を正すと、彼もグラスをローテーブルに置いて、こちらに体を向ける。こういう何気ない気遣いからも彼の優しさがにじみ出ていて、胸が温まった。
優しい彼だからこそ、ちゃんと言わなきゃいけない。気持ちを作ると、小さく深呼吸をし、彼を見つめた。
「啓さんはまだ居ていいと仰ってくださりましたが、この家を出ようと思います」
「……そうか」
私の話を聞き、彼は視線を逸らす。彼がどう思ったかは分からなかったけれど、もちろん止める気はないらしい。
「今週末に出る予定か?」
「……はい」
「ならば車くらいは出そう。大半は業者にお願いするとしても、多少荷物はあるだろ」
「ありがとうございます」
予想はしていたけれど、淡々としている。いつかは終わる同居生活なのだから、この程度だろう。
でも最後にちゃんと話はしておきたい。その為に今日は時間を作ってもらったのだから。
「ここでの生活は思った以上に楽しかったです。だから今日はちゃんとお礼を言いたくて」
「お礼を言うのはこっちだ。仕事とはいえ、無茶苦茶な依頼をしてしまったからな」
確かに今思えば無茶苦茶だ。無茶苦茶で、想定外で。だけどたった数週間の出来事は、私の人生の中で、大きく心動かされる時間だった。
「だが、俺も楽しかった。やっぱり仁菜といると気を張らずにいれたからな」
「それじゃあ試験は大成功ですね」
「ああ、本格的にサービスの導入を進めるとするか」
そう言ってくれるのであれば、この同居生活にも意味があったと思える。何より会社に貢献できたことに、喜びを感じた。
「これからもっと忙しくなりそうだな」
「それは困ります……。恐れながら、社長は……啓さんは、少し頑張りすぎだと思います」
「ほう」
「いつも会社のために……社員を思って動いている姿はとても尊敬しているのですが、やはり心配で……」
啓さんの過去を知って、支えたいと心から思った。だから、それだけが気がかりだった。
「ですから、もっと啓さんもThanks meしてくださいね」
自分自身をちゃんと労わってほしい。いつか本当に壊れてしまわぬように。そんな思いを伝えると、彼は小さく笑った。
「それはお互い様だな。君もそういうタチだろう。頼まれると断れない」
「ふふ、そんなところまで似てるんですね、私たち。私も気を付けます」
互いに注意し合い、笑い合う。和やかな空気のあとで、啓さんはお酒を飲む手を止め、私の太腿に触れた。
「でも、君に触れられなくなるのは痛いな。こんなに相性が良い相手は、そうそう見つからなさそうだというのに」
「あ……」
「だから今日、朝まで時間をくれと言ったのか?」
手はゆっくりと伸びてきて、私の右手を握る。心なしか熱く感じる彼の温度に、私の奥で何かが疼いた。
「はい……」
本当はこれ以上関係を持ってしまってはいけない。きっと気持ちが抑えられなくなるから。
でも、どうしても最後に啓さんに抱かれたかった。
素直に頷くと、持っていたグラスを奪われ、コツンと音を立ててテーブルに置かれる。そこから互いに惹かれるように口づけを交わすまでは、ほんの一瞬だった。
口の中にウィスキーの味と、啓さんの味が混ざって溶けていく。割れ目からすぐに彼の一部が侵入してくると、舌先を吸うように甘噛みするように食まれ、全身の力が抜けていった。
「っ……ふっ……」
たまに赦される息継ぎの時間は、空気と一緒に甘ったるい声が漏れる。唇から全身にゾクゾクとした快感が波紋のように広がり、耐え切れず彼のシャツを掴んだ。
「……どういう風に抱かれたい?」
耳元で、啓さんの低い声が響く。それだけで、下半身にじわっと生温いものが広がった。
今日はどうなってもいい。彼の好きなように抱かれたい。
「っ……滅茶苦茶でもいいから、啓さんがしたいようにして、ください……」
私に問いかけながらも、彼の右手は執拗に私の体を弄び始めていた。なんとか希望を伝えると、しなやかな指先が私の顎を捕らえる。
「本当に仁菜は、俺を煽るのが上手いな」
「そんなこと、んっ……」
再び唇が重なると、先ほどより激しく、深く口づけられた。互いの唾液を交換しながら彼の指が全身を伝い始めると、自分のものとは思えない声が漏れていく。
何度抱かれても思ってしまう。本当に啓さんとは――
「……君とは相性が良すぎる」
口づけの間に、彼が呟いた。同意する代わりにきつく彼にしがみつくと、そのままふわりと抱き上げられた。
「えっ、あの……」
「ここでもいいが……ベッドの上でちゃんと抱かせてくれ」
こういうところは律儀なのだろうか。滅茶苦茶にと言いつつ、丁寧なところがいかにも啓さんらしい。
小さく頷くと、額にキスが落とされ、彼の優しい眼差しが私を射抜いた。こんな風に優しくされたら、勘違いしてしまいそうだ。
気持ちがバレないように、彼の首に手を回し顔を隠す。そのまま寝室へと移動し、永遠を願ってしまうほどの甘い夜を過ごした。
別々にお風呂を済ませ、リビングでお酒を飲み交わしたのは、二十一時頃。今日は私のリクエストでウィスキーを飲みながら、他愛もない会話を楽しんだ。
「そういえば、どうして今朝はあんな誘うようなことを言ったんだ」
しばらくして、啓さんはずっと疑問に思っていたのか、朝の出来事について尋ねてきた。
「深い意味はとくに……」
「それは困る。君のせいで、一日中悶々とした気分を過ごしたんだ」
「ふふ、社長もそんなこと言うんですね」
あまりに真剣に言うから、面白おかしくて笑みをこぼす。すると彼は少し怒ったように口を尖らせた。
「俺も男だからな。あと、プライベートは名前で呼べと言っただろう」
「……デートの時だけかと」
「会社以外は名前で構わない」
「でも、やっぱり少し呼びづらくて」
「俺がそうして欲しいんだ」
きっと深い意味はないのだろうけど、期待してしまいそうな言い方をする。そう言われてしまえば、私は頷くほかなかった。
「では、啓さん……今日はお話があります」
「なんだ改まって」
私が姿勢を正すと、彼もグラスをローテーブルに置いて、こちらに体を向ける。こういう何気ない気遣いからも彼の優しさがにじみ出ていて、胸が温まった。
優しい彼だからこそ、ちゃんと言わなきゃいけない。気持ちを作ると、小さく深呼吸をし、彼を見つめた。
「啓さんはまだ居ていいと仰ってくださりましたが、この家を出ようと思います」
「……そうか」
私の話を聞き、彼は視線を逸らす。彼がどう思ったかは分からなかったけれど、もちろん止める気はないらしい。
「今週末に出る予定か?」
「……はい」
「ならば車くらいは出そう。大半は業者にお願いするとしても、多少荷物はあるだろ」
「ありがとうございます」
予想はしていたけれど、淡々としている。いつかは終わる同居生活なのだから、この程度だろう。
でも最後にちゃんと話はしておきたい。その為に今日は時間を作ってもらったのだから。
「ここでの生活は思った以上に楽しかったです。だから今日はちゃんとお礼を言いたくて」
「お礼を言うのはこっちだ。仕事とはいえ、無茶苦茶な依頼をしてしまったからな」
確かに今思えば無茶苦茶だ。無茶苦茶で、想定外で。だけどたった数週間の出来事は、私の人生の中で、大きく心動かされる時間だった。
「だが、俺も楽しかった。やっぱり仁菜といると気を張らずにいれたからな」
「それじゃあ試験は大成功ですね」
「ああ、本格的にサービスの導入を進めるとするか」
そう言ってくれるのであれば、この同居生活にも意味があったと思える。何より会社に貢献できたことに、喜びを感じた。
「これからもっと忙しくなりそうだな」
「それは困ります……。恐れながら、社長は……啓さんは、少し頑張りすぎだと思います」
「ほう」
「いつも会社のために……社員を思って動いている姿はとても尊敬しているのですが、やはり心配で……」
啓さんの過去を知って、支えたいと心から思った。だから、それだけが気がかりだった。
「ですから、もっと啓さんもThanks meしてくださいね」
自分自身をちゃんと労わってほしい。いつか本当に壊れてしまわぬように。そんな思いを伝えると、彼は小さく笑った。
「それはお互い様だな。君もそういうタチだろう。頼まれると断れない」
「ふふ、そんなところまで似てるんですね、私たち。私も気を付けます」
互いに注意し合い、笑い合う。和やかな空気のあとで、啓さんはお酒を飲む手を止め、私の太腿に触れた。
「でも、君に触れられなくなるのは痛いな。こんなに相性が良い相手は、そうそう見つからなさそうだというのに」
「あ……」
「だから今日、朝まで時間をくれと言ったのか?」
手はゆっくりと伸びてきて、私の右手を握る。心なしか熱く感じる彼の温度に、私の奥で何かが疼いた。
「はい……」
本当はこれ以上関係を持ってしまってはいけない。きっと気持ちが抑えられなくなるから。
でも、どうしても最後に啓さんに抱かれたかった。
素直に頷くと、持っていたグラスを奪われ、コツンと音を立ててテーブルに置かれる。そこから互いに惹かれるように口づけを交わすまでは、ほんの一瞬だった。
口の中にウィスキーの味と、啓さんの味が混ざって溶けていく。割れ目からすぐに彼の一部が侵入してくると、舌先を吸うように甘噛みするように食まれ、全身の力が抜けていった。
「っ……ふっ……」
たまに赦される息継ぎの時間は、空気と一緒に甘ったるい声が漏れる。唇から全身にゾクゾクとした快感が波紋のように広がり、耐え切れず彼のシャツを掴んだ。
「……どういう風に抱かれたい?」
耳元で、啓さんの低い声が響く。それだけで、下半身にじわっと生温いものが広がった。
今日はどうなってもいい。彼の好きなように抱かれたい。
「っ……滅茶苦茶でもいいから、啓さんがしたいようにして、ください……」
私に問いかけながらも、彼の右手は執拗に私の体を弄び始めていた。なんとか希望を伝えると、しなやかな指先が私の顎を捕らえる。
「本当に仁菜は、俺を煽るのが上手いな」
「そんなこと、んっ……」
再び唇が重なると、先ほどより激しく、深く口づけられた。互いの唾液を交換しながら彼の指が全身を伝い始めると、自分のものとは思えない声が漏れていく。
何度抱かれても思ってしまう。本当に啓さんとは――
「……君とは相性が良すぎる」
口づけの間に、彼が呟いた。同意する代わりにきつく彼にしがみつくと、そのままふわりと抱き上げられた。
「えっ、あの……」
「ここでもいいが……ベッドの上でちゃんと抱かせてくれ」
こういうところは律儀なのだろうか。滅茶苦茶にと言いつつ、丁寧なところがいかにも啓さんらしい。
小さく頷くと、額にキスが落とされ、彼の優しい眼差しが私を射抜いた。こんな風に優しくされたら、勘違いしてしまいそうだ。
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