恋と遺伝子~相性98%のおためし同居生活~
羅賀啓という男(3)
「うーん、ちょっとありきたりかな。セミナーとかって既に実施してるし」
配属されて一週間が過ぎると、だいたいの仕事の流れは覚え、早速企画の提出を課せられていた。
内容は、結婚相談所Fatumで会員向けに追加する新しいサービスについて。必ずしも採用されるとは限らないが、練習という意味もあるのだろう。
今週に入って既に何案かラフを提出してはいるが、マネージャーは首を傾げるばかりで、その度に跳ね返されていた。
言い訳にしかならないが、企画の仕事などは一度もしたことはない。初心にかえって企画職のマニュアルなんかも読んでみたけれど、手ごたえはさっぱりなかった。
「はあ……」
浮かんで来るのはありきたりな案ばかり。企画の仕事、向いてないのかもしれない……。
頭を抱えていると、松園さんが声をかけてくれた。
「姫松さん、悩み過ぎですよ~。またマネージャーに何か言われました~?」
「はい……。やっぱりありきたりみたいで。上手く行かないなって」
肩をすくめると、隣にいた滝沢さんも同意するような声を上げる。
「そんなもんっすよ。俺なんて何回リジェクトされたか!」
「ん~滝沢くんは一度も通ったことないんじゃない?」
「まあ確かに……って、そんなことないっすよ!?」
「あはは、冗談はさておき。姫松さんは異動したばかりですし、今から根詰めすぎちゃダメですよ~。誰だって最初は上手く行かないんですから」
二人とも私を励ましてくれるのが分かり、心が温まる。それでも未経験で遅れをとっている分、早くみんなに追いつかなきゃという気持ちが先行した。
せっかく異動してきたのだから、私も会社の役に立ちたいのだ。
心の中で気合を入れていると、滝沢さんが思いついたように手を叩いた。
「そういえば、姫松さんの歓迎会! やりましょうよ」
「あ、そうそう~。今週ちょっとバタバタしてるから来週やろうかって話してたんだ~。姫松さん、どうですか?」
「歓迎会ですか? ありがとうございます」
本社の人たちは、驚くほどに優しい人たちばかりだ。支店の時もそうだが、職場の人間関係には本当に恵まれている気がした。
そもそもこの会社に勤めている人が皆、良い人なのかもしれない。
「よし! 俺日程調整しちゃいますね」
「じゃあお任せしようかな~。でも滝沢くん、仕事は大丈夫? 昨日お願いしたサイトの仕込み、まだ上がってないみたいだけど」
「げ……! すぐやります! あ、いやこの後打ち合わせが入ってたんだ……あーどうしよ」
明らかに困っている様子の滝沢さんに、私でできることならばと手を挙げる。
「よかったら私やりましょうか? 仕込みくらいなら、教わった通りにできると思うので」
「マジ!? 助かります! 来週から始まるキャンペーンの告知入れるだけなんで、簡単っす」
「あーもう、姫松さんあまり甘やかさないでくださいね~? 滝沢くん、すぐ調子乗るから」
「いえいえ、今手空いてるので」
困ったときに助けるのは、どの職場でも同じだし、私で役に立てるならありがたい。
企画の検討で煮詰まった頭を切り替えるように仕事に戻った。
その夜。お風呂上りにリビングでパソコンを開き、企画書を眺めていると社長が帰ってきた。いつも帰宅が遅いため、リビングで作業していたのだが、まさかもう帰ってくるとは。
「お帰りなさい。すぐ部屋に戻りますね」
「いや、いい。自由に使ってくれて構わないと言っただろ」
言いながら、彼は私の横に座りネクタイを緩める。
「なんだ、仕事してたのか。家に持ち帰るのは感心しないな」
「すみません。早く仕事を覚えたいのですが、意外とやることが多くて……」
自ら滝沢さんの仕事を請け負ったものの、意外と対応する量が多く、結局他の仕事が逼迫してしまった。
本来であればその日覚えたことの復習をしたいのだが、時間がうまく調節できておらず、支店の時と同じ要領で仕事ができると思っていた、読みが甘い自分を反省する。
そんな私を見て、社長は小さくため息をついた。
「この間支店での君の勤務状況も確認させてもらったが、少し働き過ぎじゃないか? きっと要領はいいのだろうから、他人の仕事を引き受けすぎていないか」
「そ、それは……」
「きっと損するタイプなんだろうな。対応できるからじゃなく、もっと余裕をもって取り組む様にするといい」
的確な指摘に、もはや返す言葉がない。社長には何でもお見通しなのかと思ったけれど、「俺もそうなんだがな」と付け加えられて、妙に納得してしまった。
「それで、今は何をしてるんだ?」
「ええと、新規サービスの企画なんですが、なかなか良い案が浮かばなくて……」
パソコンを覗き込む際に、社長が体を寄せる。肩と肩が触れ合い、彼の匂いが鼻を掠めると、無性にドキッとさせられた。
「ちょっと見ていいか」
「は、はい」
一応私の了承を得ると、彼は画面をスクロールしていく。マネージャーに散々ありきたりだと言われたのに、社長に見せるのは気が引けた。
彼は真剣に画面を見つめたあとで、口を開いた。
配属されて一週間が過ぎると、だいたいの仕事の流れは覚え、早速企画の提出を課せられていた。
内容は、結婚相談所Fatumで会員向けに追加する新しいサービスについて。必ずしも採用されるとは限らないが、練習という意味もあるのだろう。
今週に入って既に何案かラフを提出してはいるが、マネージャーは首を傾げるばかりで、その度に跳ね返されていた。
言い訳にしかならないが、企画の仕事などは一度もしたことはない。初心にかえって企画職のマニュアルなんかも読んでみたけれど、手ごたえはさっぱりなかった。
「はあ……」
浮かんで来るのはありきたりな案ばかり。企画の仕事、向いてないのかもしれない……。
頭を抱えていると、松園さんが声をかけてくれた。
「姫松さん、悩み過ぎですよ~。またマネージャーに何か言われました~?」
「はい……。やっぱりありきたりみたいで。上手く行かないなって」
肩をすくめると、隣にいた滝沢さんも同意するような声を上げる。
「そんなもんっすよ。俺なんて何回リジェクトされたか!」
「ん~滝沢くんは一度も通ったことないんじゃない?」
「まあ確かに……って、そんなことないっすよ!?」
「あはは、冗談はさておき。姫松さんは異動したばかりですし、今から根詰めすぎちゃダメですよ~。誰だって最初は上手く行かないんですから」
二人とも私を励ましてくれるのが分かり、心が温まる。それでも未経験で遅れをとっている分、早くみんなに追いつかなきゃという気持ちが先行した。
せっかく異動してきたのだから、私も会社の役に立ちたいのだ。
心の中で気合を入れていると、滝沢さんが思いついたように手を叩いた。
「そういえば、姫松さんの歓迎会! やりましょうよ」
「あ、そうそう~。今週ちょっとバタバタしてるから来週やろうかって話してたんだ~。姫松さん、どうですか?」
「歓迎会ですか? ありがとうございます」
本社の人たちは、驚くほどに優しい人たちばかりだ。支店の時もそうだが、職場の人間関係には本当に恵まれている気がした。
そもそもこの会社に勤めている人が皆、良い人なのかもしれない。
「よし! 俺日程調整しちゃいますね」
「じゃあお任せしようかな~。でも滝沢くん、仕事は大丈夫? 昨日お願いしたサイトの仕込み、まだ上がってないみたいだけど」
「げ……! すぐやります! あ、いやこの後打ち合わせが入ってたんだ……あーどうしよ」
明らかに困っている様子の滝沢さんに、私でできることならばと手を挙げる。
「よかったら私やりましょうか? 仕込みくらいなら、教わった通りにできると思うので」
「マジ!? 助かります! 来週から始まるキャンペーンの告知入れるだけなんで、簡単っす」
「あーもう、姫松さんあまり甘やかさないでくださいね~? 滝沢くん、すぐ調子乗るから」
「いえいえ、今手空いてるので」
困ったときに助けるのは、どの職場でも同じだし、私で役に立てるならありがたい。
企画の検討で煮詰まった頭を切り替えるように仕事に戻った。
その夜。お風呂上りにリビングでパソコンを開き、企画書を眺めていると社長が帰ってきた。いつも帰宅が遅いため、リビングで作業していたのだが、まさかもう帰ってくるとは。
「お帰りなさい。すぐ部屋に戻りますね」
「いや、いい。自由に使ってくれて構わないと言っただろ」
言いながら、彼は私の横に座りネクタイを緩める。
「なんだ、仕事してたのか。家に持ち帰るのは感心しないな」
「すみません。早く仕事を覚えたいのですが、意外とやることが多くて……」
自ら滝沢さんの仕事を請け負ったものの、意外と対応する量が多く、結局他の仕事が逼迫してしまった。
本来であればその日覚えたことの復習をしたいのだが、時間がうまく調節できておらず、支店の時と同じ要領で仕事ができると思っていた、読みが甘い自分を反省する。
そんな私を見て、社長は小さくため息をついた。
「この間支店での君の勤務状況も確認させてもらったが、少し働き過ぎじゃないか? きっと要領はいいのだろうから、他人の仕事を引き受けすぎていないか」
「そ、それは……」
「きっと損するタイプなんだろうな。対応できるからじゃなく、もっと余裕をもって取り組む様にするといい」
的確な指摘に、もはや返す言葉がない。社長には何でもお見通しなのかと思ったけれど、「俺もそうなんだがな」と付け加えられて、妙に納得してしまった。
「それで、今は何をしてるんだ?」
「ええと、新規サービスの企画なんですが、なかなか良い案が浮かばなくて……」
パソコンを覗き込む際に、社長が体を寄せる。肩と肩が触れ合い、彼の匂いが鼻を掠めると、無性にドキッとさせられた。
「ちょっと見ていいか」
「は、はい」
一応私の了承を得ると、彼は画面をスクロールしていく。マネージャーに散々ありきたりだと言われたのに、社長に見せるのは気が引けた。
彼は真剣に画面を見つめたあとで、口を開いた。
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