恋と遺伝子~相性98%のおためし同居生活~
キスの余韻(2)
七滝さんに紹介してもらったカフェで朝食をとり、余裕をもって出社する。
初めに人事から異動にあたっての説明や諸手続き、そしてオフィスの案内を受けた後で、私が配属された部署へとやってきた。ひとまずは配属先で業務をこなしながら、合間に本社研修を受けることになっている。
社長に対していろんな気持ちが芽生えていたけれど、今は仕事にすべてを向けたい。そんな気持ちで気合を入れ、みんなの前に立った。
「本日からお世話になります。姫松仁菜です。よろしくお願いします……!」
緊張しつつも頭を下げると、企画チームのみんなが暖かな拍手で迎えてくれる。
新しい上司と、同僚たちが順番に挨拶をしていく。企画チームは私を含めて十人。男女比は半々くらい。年齢は二十代から三十代くらいだろうか。みんな思ったより若い、というのが初めの印象だった。
そもそも社長が三十代くらいなのだから、若くても何ら不思議ではない。支店と雰囲気こそは違うけれど、年齢層は同じくらいでほっとした。
「姫松さん、支店のエースだったんですよね? 配属前からどんな人なんだろうってみんなで話してたんですよ~」
「いえ、エースだなんて、そんな……!」
人懐っこい笑みで話しかけてくれたのは、チームリーダーの松園さん。髪をふんわりと一つにまとめ、白いスタンドカラーのブラウスに黄色のマーメイドスカート。いかにも東京のOLといった雰囲気だ。
「うちのチームはみんな明るくて話しやすい人たちばかりだから、困ったことがあれば何でも聞いてくださいね~」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃ、このままブリーフィング始めちゃいますね」
毎朝ブリーフィングを行い、前日やその日の業務状況などの報告を行っているらしい。
分からないことがあれば尋ねようと、メモを片手に耳を傾けていると、松園さんがパンと手を叩いた。
「じゃあ今日は月曜日なので、先週のThanks meいっちゃいましょ~」
「Thanks me……?」
直訳すると、ありがとう私。英語としても日本語としても、違和感がある。
「あ、支店ではなかったですか?」
「はい」
「朝簡単なアイスブレイクのタイムを入れてるんですけどね。中でも週に一回は、自分のために何かをした話をしようって決めてるんですよ~」
松園さん曰く、私たちの会社では仕事上人のために働くことが多いため、自分への労りも忘れないようにしようと、創業当初からブリーフィングの中に組み込まれているらしい。
自分のためと言っても、大それたことではないらしい。みんな、コンビニスイーツを買い漁っただの、推しのチェキ会に行っただのとざっくばらんに話した後で、最後に私に回ってきた。
「ちなみに姫松さんは最近何かありましたか? 何でもいいですよ」
「私は……」
きっと私にも回ってくる。そう覚悟していたけれど、何も思いついていない。特にここしばらくは異動の準備で忙しく、自分のことなんて後回しになっていた。
「……えっと、今日から仕事を頑張るために、今朝美味しいモーニングを食べてから出社しました。……とかだとダメでしょうか?」
「わ、いいですね。朝活だ~」
単純に朝食の用意を忘れただけだったのだが、嘘ではない。
なんとかひねり出してほっとしているうちに、仕事の話に切り替わり、急いでメモを用意した。
自分のために何かをしよう、か……。
今までそんなこと、考えたことはなかったかもしれない。
来週からちゃんと答えられるようにしようと思いながら、仕事に集中した。
初めに人事から異動にあたっての説明や諸手続き、そしてオフィスの案内を受けた後で、私が配属された部署へとやってきた。ひとまずは配属先で業務をこなしながら、合間に本社研修を受けることになっている。
社長に対していろんな気持ちが芽生えていたけれど、今は仕事にすべてを向けたい。そんな気持ちで気合を入れ、みんなの前に立った。
「本日からお世話になります。姫松仁菜です。よろしくお願いします……!」
緊張しつつも頭を下げると、企画チームのみんなが暖かな拍手で迎えてくれる。
新しい上司と、同僚たちが順番に挨拶をしていく。企画チームは私を含めて十人。男女比は半々くらい。年齢は二十代から三十代くらいだろうか。みんな思ったより若い、というのが初めの印象だった。
そもそも社長が三十代くらいなのだから、若くても何ら不思議ではない。支店と雰囲気こそは違うけれど、年齢層は同じくらいでほっとした。
「姫松さん、支店のエースだったんですよね? 配属前からどんな人なんだろうってみんなで話してたんですよ~」
「いえ、エースだなんて、そんな……!」
人懐っこい笑みで話しかけてくれたのは、チームリーダーの松園さん。髪をふんわりと一つにまとめ、白いスタンドカラーのブラウスに黄色のマーメイドスカート。いかにも東京のOLといった雰囲気だ。
「うちのチームはみんな明るくて話しやすい人たちばかりだから、困ったことがあれば何でも聞いてくださいね~」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃ、このままブリーフィング始めちゃいますね」
毎朝ブリーフィングを行い、前日やその日の業務状況などの報告を行っているらしい。
分からないことがあれば尋ねようと、メモを片手に耳を傾けていると、松園さんがパンと手を叩いた。
「じゃあ今日は月曜日なので、先週のThanks meいっちゃいましょ~」
「Thanks me……?」
直訳すると、ありがとう私。英語としても日本語としても、違和感がある。
「あ、支店ではなかったですか?」
「はい」
「朝簡単なアイスブレイクのタイムを入れてるんですけどね。中でも週に一回は、自分のために何かをした話をしようって決めてるんですよ~」
松園さん曰く、私たちの会社では仕事上人のために働くことが多いため、自分への労りも忘れないようにしようと、創業当初からブリーフィングの中に組み込まれているらしい。
自分のためと言っても、大それたことではないらしい。みんな、コンビニスイーツを買い漁っただの、推しのチェキ会に行っただのとざっくばらんに話した後で、最後に私に回ってきた。
「ちなみに姫松さんは最近何かありましたか? 何でもいいですよ」
「私は……」
きっと私にも回ってくる。そう覚悟していたけれど、何も思いついていない。特にここしばらくは異動の準備で忙しく、自分のことなんて後回しになっていた。
「……えっと、今日から仕事を頑張るために、今朝美味しいモーニングを食べてから出社しました。……とかだとダメでしょうか?」
「わ、いいですね。朝活だ~」
単純に朝食の用意を忘れただけだったのだが、嘘ではない。
なんとかひねり出してほっとしているうちに、仕事の話に切り替わり、急いでメモを用意した。
自分のために何かをしよう、か……。
今までそんなこと、考えたことはなかったかもしれない。
来週からちゃんと答えられるようにしようと思いながら、仕事に集中した。
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