恋と遺伝子~相性98%のおためし同居生活~
新生活は社長宅にて(1)
異動が決まってからは、仕事の引継ぎや引っ越しの準備など、一気に忙しさが増した。
特に仕事に関しては想像以上で、いつも身だしなみをバッチリ決めてくる茜ちゃんですら、毎日クマを作って出社するほど。異動のタイミングはいつでもいいと言われたにも関わらず、支店長には「善は急げだよ」なんて言われて、急かされる始末。
そんな怒涛の毎日に、ここ二週間ほどの記憶はほとんどなかった。
新居に関して会社が用意してくれているとのことで、面倒な手続きなどがなかったことだけが救いだ。
そして昨日、支店での最終出社を終え、ついに引っ越しの日を迎えた。
大型の家具と荷物はすべて送ってある。最低限の荷物を詰めた鞄を小さなスーツケースの上に載せて、電車を乗り継いで新居の最寄り駅に到着する頃には、もう日が傾き始めていた。
「わ……」
駅のホームに降りると、押し寄せてきた人の波にのまれてしまう。何とか逆流し、改札をくぐり抜けると、ほっとひと息ついた。
東京へ来るのは初めてではないけれど、人の多さと建物の高さには何度来ても慣れない。それ以上に、本当にこんなところに家があるのかと思うほど。
新居の住所を地図アプリに打ち込むと、道を間違えないように慎重に目的地へと向かった。
「……ここ?」
駅から歩いて十分弱。繁華街を抜けると立派なマンションが立ち並んでいた。
目的地に到着すると、想像していたマンションとは程遠い入口に思わず足を止める。
低層マンションのようだけれど、明らかにエントランスの高級感が違う。それに、外観から想像するに一人暮らし用のマンションではない気がした。
念のため地図に入れた住所と、会社から送られてきた住所を何度か見比べてみるも、間違っている様子はない。マンション名まで一致している。
一か八か、エントランスに鍵を通してみようと鞄を探っていると、中からスーツの男性が姿を現した。
銀色のフレームの眼鏡をかけた、知的な男性。年齢は、三十代後半くらいだろうか。やけに姿勢がいいな、というのが第一印象だった。
住人かと思い軽く会釈をすると、男性が真っ直ぐ私に近づいてくる。
「失礼ですが、姫松仁菜さんですよね」
「え? あ、はい……」
「お迎えに上がれず失礼いたしました。はじめまして。私羅賀社長の秘書を務めております、七滝と申します」
「ん……?」
お迎えだの羅賀社長の秘書だの、何を言っているのだろう。
ぽかんと口を開けたままの私に、彼もどこか不思議そうに首を傾げる。
しかしすぐにニコリと微笑んで、入口の方へと促した。
「移動でお疲れでしょう。案内いたしますので、こちらに」
「えっ、あっ、待ってください!」
頼んでもいないのに、私の荷物をサッと引き、マンションの中へと入っていく。
未だ状況が掴めないまま、彼の後を追った。
何を尋ねても「あとでお話します」と交わされてしまい、詳しい話もできないまま廊下を進んでいく。
ホテルのような柔らかいカーペットの上を歩き、到着したのは新居の住所と同じ三〇一号室。
社長秘書と名乗った七滝さんは、その部屋の前で足を止めインターホンを鳴らした。
「あ、あの……」
本当にここが私の部屋なのだろうか。仮にこれから住む部屋だとして、どうしてインターホンを鳴らす必要があるのか。
一応事前に渡された鍵を七滝さんに渡そうとすると、すぐにインターホンが繋がり『入っていい』と男性の声が聞こえてきた。
機械音で分かりづらいが、どこか聞き覚えのある声。
「失礼します。さ、姫松さん中へ」
「お、お邪魔します……」
そうか。もしかするとここは、会社の寮なのかもしれない。
そう考えれば広いマンションにも、中に男性がいることにも納得ができる。けれど、そんな説明は一度もなかったはず。
でも何度確認してもここは新居の住所だし、七滝さんも私の名前を知っていて、今日ここへ越して来ることも把握していた。
ひとまず今は中に入って詳しいことを確かめよう。そう思いながら、広い玄関をくぐった。
特に仕事に関しては想像以上で、いつも身だしなみをバッチリ決めてくる茜ちゃんですら、毎日クマを作って出社するほど。異動のタイミングはいつでもいいと言われたにも関わらず、支店長には「善は急げだよ」なんて言われて、急かされる始末。
そんな怒涛の毎日に、ここ二週間ほどの記憶はほとんどなかった。
新居に関して会社が用意してくれているとのことで、面倒な手続きなどがなかったことだけが救いだ。
そして昨日、支店での最終出社を終え、ついに引っ越しの日を迎えた。
大型の家具と荷物はすべて送ってある。最低限の荷物を詰めた鞄を小さなスーツケースの上に載せて、電車を乗り継いで新居の最寄り駅に到着する頃には、もう日が傾き始めていた。
「わ……」
駅のホームに降りると、押し寄せてきた人の波にのまれてしまう。何とか逆流し、改札をくぐり抜けると、ほっとひと息ついた。
東京へ来るのは初めてではないけれど、人の多さと建物の高さには何度来ても慣れない。それ以上に、本当にこんなところに家があるのかと思うほど。
新居の住所を地図アプリに打ち込むと、道を間違えないように慎重に目的地へと向かった。
「……ここ?」
駅から歩いて十分弱。繁華街を抜けると立派なマンションが立ち並んでいた。
目的地に到着すると、想像していたマンションとは程遠い入口に思わず足を止める。
低層マンションのようだけれど、明らかにエントランスの高級感が違う。それに、外観から想像するに一人暮らし用のマンションではない気がした。
念のため地図に入れた住所と、会社から送られてきた住所を何度か見比べてみるも、間違っている様子はない。マンション名まで一致している。
一か八か、エントランスに鍵を通してみようと鞄を探っていると、中からスーツの男性が姿を現した。
銀色のフレームの眼鏡をかけた、知的な男性。年齢は、三十代後半くらいだろうか。やけに姿勢がいいな、というのが第一印象だった。
住人かと思い軽く会釈をすると、男性が真っ直ぐ私に近づいてくる。
「失礼ですが、姫松仁菜さんですよね」
「え? あ、はい……」
「お迎えに上がれず失礼いたしました。はじめまして。私羅賀社長の秘書を務めております、七滝と申します」
「ん……?」
お迎えだの羅賀社長の秘書だの、何を言っているのだろう。
ぽかんと口を開けたままの私に、彼もどこか不思議そうに首を傾げる。
しかしすぐにニコリと微笑んで、入口の方へと促した。
「移動でお疲れでしょう。案内いたしますので、こちらに」
「えっ、あっ、待ってください!」
頼んでもいないのに、私の荷物をサッと引き、マンションの中へと入っていく。
未だ状況が掴めないまま、彼の後を追った。
何を尋ねても「あとでお話します」と交わされてしまい、詳しい話もできないまま廊下を進んでいく。
ホテルのような柔らかいカーペットの上を歩き、到着したのは新居の住所と同じ三〇一号室。
社長秘書と名乗った七滝さんは、その部屋の前で足を止めインターホンを鳴らした。
「あ、あの……」
本当にここが私の部屋なのだろうか。仮にこれから住む部屋だとして、どうしてインターホンを鳴らす必要があるのか。
一応事前に渡された鍵を七滝さんに渡そうとすると、すぐにインターホンが繋がり『入っていい』と男性の声が聞こえてきた。
機械音で分かりづらいが、どこか聞き覚えのある声。
「失礼します。さ、姫松さん中へ」
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そうか。もしかするとここは、会社の寮なのかもしれない。
そう考えれば広いマンションにも、中に男性がいることにも納得ができる。けれど、そんな説明は一度もなかったはず。
でも何度確認してもここは新居の住所だし、七滝さんも私の名前を知っていて、今日ここへ越して来ることも把握していた。
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