【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

ひきこもりは途方にくれる2

 そうかと思ったこともある。
 双眸にくるめく光が蒼人とそっくりだとも。

 が、今はそれはいい。
 彼女はUNNO海運の社長の母で、あの憎たらしい櫂斗と海保職員の孫をもつ女性だ。

「陽子さんは」

 灯里の唇から絞りでたのはしわがれ声で、陽子よりも年上の女が発したようだった。

 蒼人の祖母ならば。

「ご主人を海に送り出したのですか」
「ええ」

「夫も、息子も、孫も。親友の夫に彼女の息子もね」

 灯里からみた陽子は平然としているように見えた。

「怖くなかったですか」

 おずおずと訊ねる。

 陽子が何歳かは知らない。
 けれど、彼女が結婚した頃は今よりもレーダーも気象予報も船体も脆弱であったろう。

 陽子は灯里よりも海から還らぬ人を多く知っているはずだ。

「そりゃ、怖かったわ。今朝、挨拶したのが最後だったかもしれないと毎日思って送り出した」

「止めなかったんですか」

 非難めいた灯里の言葉に、むしろ陽子は微笑む。

「灯里さんは命と同じくらい大事な恋人から、ダイビングに行くのを止められたら中止したかしら」

 灯里は目を見張った。

「貴女が病気に罹った時、どなたからか『罹患しないで』と懇願されて、罹らずに済むかしら」

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