【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

蒼い悪夢12

 見た目は穏やかな空と海。
 けれど、陸がない墓場。

 泳げるけれど、どこを泳げば陸にたどりつけるのかわからない。

 空と海は、囚人が死んでいくのを穏やかに無慈悲に見守っている。

 叫んでも誰もいない。
 来てくれない。

 助け出されるまでの時間、灯里はなすすもなく死が近づいてくるのをながめているしかなかった。

「いやぁあああああっ」
「灯里っ」

「出して! ここから出してぇえええっ」
「落ち着け!」

 なにか声をかけられているが、灯里から飛び出したパニックが彼女を乗っ取って暴れ回る。

 大丈夫だと思っていた。
 海に近づかなければ、自分は恐怖を抑え込めておけると。

 けれど、実際は海のことを考えるだけで、あの日のことを考えるだけで息ができなくなる。
 心臓が苦しい。

 だれも助けてくれない。

 咆哮に似た叫びが喉の奥から迸り出てとまらない。

「くっ、灯里。少しだけ我慢してくれ!」

 蒼人が灯里を肩に担ぎ上げ、梯子を登っていく。
 桟橋に二人はうずくまった。

「灯里、もしかして」

 触れようとした蒼人の手の下で灯里の体はびくついた。

「怖いの……あれ以来、海が怖いの」

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