【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

誤解と怒りと運命の人21

「本当に俺は大馬鹿だ。灯里の今までを見れば、そんな女じゃないってことを識ってるのにな」

 頭を撫でてくれる手が優しい。
 蒼人も荒い呼吸だ。……彼の胸の起伏にいつしか自身の呼吸を合わせる。

「なんで嫌味兄の口車に乗ったの」

 息切れしたので灯里は小さな声で聞いた。

「灯里が車椅子の俺に惹かれてくれたなんて幸運、頭のどこかで信じていなかった。『おかに揚がった俺なんて価値はないのに、どうして』って。兄貴にUNNO海運目当てだと言われて納得しちまった」

 愛おしそうな申し訳なさそうな声に、灯里の気持ちが段々凪いでいく。

 自分も、事故に遭った直後は同じことを考えていた。
 海にも潜れずメイクのできない自分に価値なんてないと。

 ……長いこと部屋の中に閉じこもっていた。
 膝の間に埋ずめていた顔をようやく上げられたのは、救助してくれた隊員の言葉を思い出したからだ。

『美容部員てどんな仕事なんですか? ……ああ、デパートの一階で女の人に化粧するのがお仕事なんですね? じゃあ、うちの婆ちゃんを化粧してやってくれますか』

 彼の祖母にメイクをしてあげよう。
 彼に会えるまで日本中のおばあちゃんにメイクをしに出かけよう、と。

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