【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

誤解と怒りと運命の人15

 『彼』の眼差し、かけてくれた言葉を忘れまいとしたのに。

 声を、どんな声だったかを忘れているなんて。
 蒼人の声と全く同じだった。


「最初は女性が一人行方不明だという通報だった」

 通報主のダイビングショップの店長いわく、天候が悪いので引き上げると言った時に女性だけが上がって来なかったという。

 時刻は行方不明になったとされる時間のおよそ二十四時間後。

 なぜ通報が遅れたのだと責める海保の職員に対して、
『海底近くで離岸流が発生したようで、ほかに潜っていた客の安否を確認するために通報が遅れた』と言い訳してきた。

 出動要請を受けて、ヘリと船からの捜索になった。

「最初に発見されたのはタンクだった」

 のちに、タンクに刻印されているシリアルナンバーから灯里が装着していたものだと判明する。

 タンクの表面には傷が何箇所も激しくついていた。岩礁で擦られたのだろう。

 だが、タンクが漂流していた付近では女性は見当たらない。

「アルミのタンクだったから、残圧が少なくなればそれだけ浮いているはずだった」

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