【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

誤解と怒りと運命の人9

 恐ろしい事実が彼女を打ちのめす。
 グローブは片方なくなっていたが、スーツの下に嵌めていたダイバーウオッチは幸いなことに生きていた。

 おそらく離岸流に飲み込まれた。
 ウオッチで方角もわかるが、どの方角におよげば陸地に着くのかはわからない。

 離岸流の発生した正確な時間はわからないが、現在は朝の七時。
 潜ったときから考えれば二十時間経過していた。
 命の期限は七十二時間。

 は、と灯里は足を探った。

『なくなってる』

 ナイフも、もしもの時にと携行していた水中でも使える発煙筒も紛失していた。

『助けてっ!』

 声を限りにしても船影はおろか、機影もない。 
 パニックになっていたのだろう、はっと気がついた。

『だめっ』

 のどを枯らせば水が飲みたくなる。
 これだけ水に恵まれているのに海水を飲むことは出来ない。
 灯里はずるずると出ていく悲鳴を拳で抑え込んだ。

 十時頃、スコールが降った。

 灯里は必死に手のひらへ受けつつ口も開けて雨を飲んだ。
 三十分も降っただろうか、恵みの雨は消えた。

 灯里は手のひらにうけた雨水も口にした。
 空腹と喉の渇きを癒すものはそれしかなかった。

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