【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

誤解と怒りと運命の人8

 暖かいはずの海の温度が急にひんやりした。
 雲でも出てきたかと上をみれば海面は先ほどと同程度の明るさで、太陽が陰った様子もない。 

 網の中に囲われている魚以外、消えた。

 なんで吐き出した泡が、のぼっていくのではなく横に流れるんだろう。
 原因を考えるまでもなく、いきなり横波に持って行かれた。

 ゴッ。
 音なき音が灯里の体を飲み込み、もみくちゃにした。視界がぐるぐると回転する。

 自分のレギュレーターから漏れ出る泡がまとわりつき、上下左右の方向すらわからない。

 泳いで海流から離脱しようにも、網が体に巻きついていた。
 持っていたナイフで切ろうにも雁字搦めだ。
 そのまま、押し流された。

 気がついたとき、灯里は海上に突き出た岩に引っかかっていた。

 体のあちこちが痛い。
 分厚いダイビングスーツもところどころ裂けていた。

 網がなくなっていた代わりにウエイトもタンクもない。

 もみくちゃにされた時に取れてしまったらしい。なんとか身を起こすも、見渡す限り陸地はなかった。
 遭難したのだ――。

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