【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

御曹司との見合い9

 見合い、前日。

 いったん家に戻ってから和装メイク用の道具を持ってきて、ケアハウスを訪れた。

 ケアハウスの住人達は陽子以外も灯里を歓迎してくれた。

 割り当てられた客室に引き取る前、宿直の介護士にハンドマッサージを施していると。

「みなさんね、寂しいんです」

 介護士がポツリと言い出した。

 リアクションを求められていないのはわかっていた。
 自分の役目は聞き役に徹すること。
 手技をおろそかにすることなく、でも相槌を求められた時に答えられるよう聞き耳を立てていること。

「家族の方が見舞にこられても、時間になればお帰りになってしまわれますでしょう? なのに、ご自分は帰れない。だからって、泊まられるご家族がいらしゃるってことは」

 介護士は口を噤んだが、言わんとすることはなんとなくわかった。

 完全介護のこの施設で家族が宿泊を認められるのは、住人の誰かが重篤な症状になった時だ。

「皆さん、付き添い泊を待ち望んでらっしゃるけれど、恐れてもいるんです」

 そうだよねと灯里がしんみりしていると、介護士が目を輝かせた。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品