【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

兄からの電話6

 海保の人間だから、ああいえば釣れると思っていた? 

 突っ込まれたのに答えられなかったのは、具体的な事案がなかったから。

 ――あの言葉自体、嘘だったのか。

『気になったので調べさせた。あの女はほうぼうの介護施設に出入りしては、やはり海上保安庁に勤める孫をもつ女性を探しているそうだ』

 それは彼女が怠職により前職の美容部員を懲戒免職になった時期から一致するのだという。

「……灯里は、そんな女じゃ……」

 反論する声が、我ながら弱々しい。

『どっちにしろ、後ろ暗いことがなければお前に連絡してくるだろう』
「してくるさ」

 兄の言葉に反射的に返事をした。 

『だったら、あとは自分の目で確かめてみろ』

 通話が切れた後、兄からメールが届いた。

 一週間後、十一時。
 横浜市のオールドホテル、『群青の間』

 ホテルにお前のスーツを用意させておく。
 早めに行って、待機していろ。


「灯里」

 蒼人は携帯をつぶさんばかりに握りしめた。

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