【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

兄からの電話5

 無償でメイクを施すとはいかにも灯里らしい。
 けれど彼女はなぜ、ボランティアをしにくるんだろう?

 メイクの材料代もタダではないだろうし、休日のたびにくるのは大変ではないだろうか。

『最初に海上保安庁の孫がいる女性は入所していないかと訊ねたそうだぞ』

 蒼人はぎくりとした。

 そんな条件に当てはまるのは自分と祖母しかいない。

『スタッフは賢明にも、婆様の名前やお前のことを口にしなかったそうだが』

 灯里は何度も祖母のいるケアハウスに通ってきていて、兄弟の祖母とも懇意になっているという。

『婆様のケアハウスはセキュリティを重視しているが、それでもあそこの出資者がUNNO海運であることも。会長である婆様が入所していることも、調べればすぐにわかる』

 その孫が海上保安庁に勤めていることもな。

 兄の言葉は氷の刃となって、蒼人の心臓を切りつけていく。

 何か反論を言おうと口を開けた。

 彼女は遭難した時に助けてくれた隊員に再会したいから海保のファンになったと言っていた。
 それ自体、あり得る事だったから不審に思わなかった。

 けれど。
 いつ、どこで遭難したのかと質問したら、灯里は口ごもった。

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