【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

兄からの電話

「アオ! その後お持ち帰り彼女とはどうよ」

「ラブラブに決まってますよねーえ。海さん、最近お肌ツヤツヤのプリプリですもん」 

 同僚が冷やかしてきた。言い返そうとした蒼人は、鳴り始めた携帯の画面を見るやすぐに通話ボタンをオンにした。

「兄貴、切らずに待っててくれ」

 人の輪から外れ、話せる場所に移動する。

「久しぶりだな! いつ日本に帰ってきてたんだ?」

 相手に呼びかける蒼人の声が弾んでいる。

 五歳上の櫂斗かいとは、蒼人の自慢の兄だ。
 
 頭がよく、大胆でいながら緻密。
 なんでも知っていて、スポーツも万能。
 父が不在がちな蒼人にとって兄は父であり世界そのものでもあった。

 幼い頃から蒼人は、兄が父の跡を継ぐのは疑いもしていない。

『兄が社長になるなら自分は秘書になって兄を助けよう』と考えていた。

 けれど兄は商船大学への進学を志ざし、その後船乗りになった。

 驚いたが、蒼人の一生の仕事はその時に決まった。
 ――お父さんとお兄ちゃんが乗っている船と、海を守るんだ。

 蒼人が成人した今でも、兄は父よりやかましい。
 だが、蒼人は兄を全面的に信頼している。

『一昨日だ。そういえば、お前を連れ去った女性を見かけたぞ』 

「え?」

 兄はなにを言っているのだろう。

『婆様が入所している施設で、俺とお前、大げんかしたろう』

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